俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章21 旗ノ下ノ定メ ④

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 水無瀬が大泣きしている。


「うっ、うぇぇ……ふぐっ、ネジュミさぁ~ん……っ」


 色々と感極まり過ぎて、もはや彼女自身何でこんなにも涙が止まらないのかわかっていなかった。


「マナぁ、泣くなッス。ネズミさんは死んだんじゃない、浄化されたんス。アイツはきっとこれからもジブンたちの心の中で生き続けるんスよ。知らんけど」

「おぉ、そうだぜ? なんなら今度ここらでシフト入った時にでも、新しいネズミのゴミクズー探しといてやっからよ」


 そんな彼女に慰めになっているのかどうか定かでない気休めの言葉をかける人外たち。

『というか、すでにゴミクズー1匹殺ってただろうにこいつら何やってんだ』と、弥堂は不可解な視線を投げかけていた。


 しかし、そんなことをしていても仕方がないので、次の行動を起こすため地面に落ちてきた物を拾いあげる。


「てゆーか、よく考えたらいつもやってることと結果的には同じくねぇッスか? 雰囲気に流されてジブンもわけわかんなくなってたッスけど」

「おぉ、それな。ドン引きするような残虐ショーがいきなり始まったからよ、オレもビビっちまってわけわかんなくなってたけど、結局いつも最後は魔法でボンっだもんな」

「やっぱそうッスよね。つーことは悪いのは少年ってことに……」

「俺も思ったわ、それ。おい、コゾウっ。テメェのせいなんだからよ、オマエもちゃんとこの子を慰め――」


 言いながら背後の弥堂の方へ振り返ろうとしたボラフの顏が引き攣る。


 振り向いた瞬間にその目に写ったのは、湿度のない冷酷な瞳と、その顔の横で自分の方へ突き立てようと向けられている鉄筋の鋭利な先端であった。


「――うおおぉぉぉぉぉっ⁉」


 悪の幹部の体裁もなく一切合切を放りだす勢いで身体を横に投げ出す。

 もしも避けなければボラフの目玉があった位置をギリギリのところで鉄筋が通り過ぎていった。


「テッ、テテテテメェっ――⁉ なにしやがるっ⁉」


 地面に尻もちをつきながら粟を食って弥堂を怒鳴りつけるが――視線を上げて真っ先に視界に飛び込んできたのは靴底だ。


「どおぉぉぉぉっ⁉」


 踏みつけるように繰り出された弥堂の蹴りをボラフは慌てて両腕を上げてガードする。

 弥堂はそのまま足の裏をボラフの両腕に押し付け、重心を操ることによって地面に抑えつける。


 そしてガラ空きになった顔面を狙って再び鉄筋による刺突を繰り出した。


「なんとおぉぉぉぉっ!」


 ボラフは三日月型の口を大きくガバっと十三夜くらいまで開き、勢いよくそれを閉じてガギンッと歯で凶器を挟んで止める。


「おまっ……⁉ このガキ……っ! なんの真似だ……っ⁉」


 弥堂はボラフの言葉には答えずただ鉄筋を咥える口を視て、すぐに左手で顔面を狙う。


「やだこの子こわい……っ! 無言で目狙ってくる……っ⁉」


 ボラフが右手で弥堂の攻撃をガードし力ずくで相手の体重を押し返すと、弥堂はその力には逆らわずに利用して踏みつけていた足で後方に跳ぶ。


 宙返りをする弥堂から距離をとろうとボラフは慌ててバックステップを踏み、そして顔を上げた時にはもう投擲された鉄筋が目前に迫っていた。


「よいしょおぉぉぉぉっ!」


 怪人としての身体スペックで無理矢理上体を後ろに反らして危うく回避する。眼球の数ミリ先を鉄筋が通り過ぎた。

 思わず安堵しそうになるが、ここまでの流れを踏まえて猛烈に嫌な予感がしたボラフはすぐに上体を戻す。

 すると、離れたはずの弥堂はもう懐に飛び込んできていた。


「ぎょえぇぇーーーっ⁉」


 拳を押し当てられる直前にボラフは大袈裟に飛び退き、壁に爪を突き立てるとそのままカサカサと虫のようにビルを昇って行った。

 3階ほどの高さまで上がってから、ぜぇーぜぇーと息を吐く。


「な、なんなんだよオマエっ! 隙ばっかつくんじゃねえよ!」


 弥堂はそれにも答えずただジッと敵を視る。


「おぉ……コエー……、なんちゅう眼つきしてんだこのガキ。絶対ぇ何人か殺ってんだろ……」


 壁にへばり着きながらブルリと真っ黒ボディを震わせる悪の幹部から目を離さないまま、足元から鉄筋とコンクリの塊を拾い上げる。


「お、おい……、オマエまさか……っ⁉ や、やめっ――」


 返事の代わりにコンクリの塊が飛んでくる。

 カサカサと横に回避するとビルの壁にぶち当たったそれは粉々に砕け散った。


「オ、オマエっ! この野郎っ! こっちが手ぇ出さねえからって調子のんなよ……っ⁉ あんまナメてっと――どわあぁぁっ⁉」


 必死に避けながら抗議すると1秒前まで居た場所に鉄筋が突き刺さる。


「ギャアァーーーっ! ダ、ダレかっ! ダレかぁーーっ! 人殺しよーーっ!」


 乙女のような悲鳴をあげるボラフを弥堂はジッと視界に捉え続ける。


「人じゃねーだろ! ってツッコめよっ! ガチすぎてコエェんだよオマエっ! クソっ……! おい、フィオーレッ! フィオーレッ! 助けてくれっ!」

「え? あ、はいっ!」


 ボラフは堪らずに、展開に着いていけずぽへーっとしていた水無瀬に助けを求めた。

 水無瀬はハッとすると慌てて仲裁に入る。


「び、弥堂くんっ! 落ち着いてっ。どうして怒ってるの?」

「極めて冷静だが」

「ボラフさんをイジメちゃダメだよっ。かわいそうだよっ」

「……何を言っている?」

「え?」

「敵だぞ。アレは」


 きょとんと首を傾げる彼女に視線は向けず、呆れたように当たり前のことを告げる。


「手下のゴミクズーを始末したんだ。次はあいつの番だろう」

「え……、でも……っ」

「……? 何を躊躇う必要がある。あれはお前の敵で、あれを倒すために戦ってるんだろ」

「で、でも……、ボラフさん優しくしてくれたし……」

「……本気で言っているのか? アレをどうにかしないとゴミクズーの被害を減らせないだろうが」

「えぇっ⁉ そうなの⁉」

「アイツはゴミクズーを『探す』だの『連れてくる』だのと言っていただろうが。ゴミクズーの発生や製造に関わっているかまではわからんが、少なくとも被害を助長する要因の一つなのは間違いないはずだ」

「あっ……、そ、そうだったんだ……」

「……それに『バイト』だと言っていただろ。ということは『雇用主』がいるはずだ。元を断たない限りいつまで経っても終わらんぞ。死ぬまで哨戒し続ける気か?」

「あぅ……」


 困ってしまったように返す言葉を失くす水無瀬にようやく眼を向ける。


「理解に苦しむな。敵は殺すものだろう? 殺せる時に殺す。実際のところそれ以上の理由はいらない」

「で、でも……っ! 殺すなんてそんなの……」

「もしも――いや、もういい。拷問にかけて洗いざらい吐き出させてやる」


 彼女を見ることで、彼女と話すことで、思い出したくもない誰かを思い出すようで。

 そんな苛立ちから尚も彼女に責めるような言葉を向けそうになるが、意味がないと自制をした。


 もはや語らず、鉄筋を拾いなおし、マンホールの縁を蹴りつけて蓋を浮かせて外す。

 フリスビーを投げる要領で身体を捩じり、そのマンホールの蓋をボラフ目掛けて左手で放ち、続けて右手で鉄筋を投擲する。


「あ、あぶねぇっ――って、どわぁぁぁっ⁉」


 カサカサと横移動してマンホールの蓋を躱すボラフだったが、その移動先に二の矢の鉄筋が飛んでくる。

 運よく手の指の間にその鉄筋が突き刺さるが、しかしそれに驚いたことによって壁に食い込ませていた爪が抜けて落下する。


「ギャアァァーーっ⁉」


 大袈裟な声をあげて落ちるボラフの落下点めがけて弥堂は三の矢を――


「――だっ、だめえぇぇーっ!」


 仕留める攻撃を放とうとしたが水無瀬が腕に飛びついて来てそれを阻んだ。


「……なんのつもりだ」

「ひ、ひどいことしちゃダメなんだよ……っ!」

「寝言は寝てから――っ⁉」


 無理矢理力をこめて水無瀬ごとブン投げてしまおうとした弥堂だったが、その腕がビクとも動かせず瞠目した。

 彼女を視る。


 目をギュッと閉じて、必死な様子で自分の腕を抑え込んでいるその姿から、その存在が――存在をする力が先よりも増したように視えた。


「に、逃げてください、ボラフさんっ!」

「フィ、フィオーレ……っ⁉」

「ここは私が……っ!」

「す、すまねぇ……っ!」


 ダッと駆け出すボラフの背中を視て、ドクンと大きく心臓を跳ねさせる。


 ドドドド――と頭の中で煩く響く鼓動を無視しながら、鉄筋を握る右手を水無瀬ごと持ち上げる。


「え……っ? わっ、わっ……⁉ あわわわ……っ⁉」


 腕にぶら下がる形になり目を白黒させる水無瀬のことも無視したまま、親指側から突き出る鉄筋の先端に左手の掌を合わせ、前に出した右足の爪先から捻ると――

【零衝】

――大地から借り受け得られたエネルギーを余すことなく伝え鉄筋を射出する。


「アッ――⁉」


 放たれた鉄筋は狙い違わず背後からボラフに突き刺さった。


「や、やめてぇーーっ!」


 追撃をしかけようとする弥堂の腰に水無瀬がしがみつく。こちらを抑え込もうとする力は先程よりも強い。


「させるかぁーーッス!」


 続いてメロが弥堂の顔面に飛びつき腹を押し付けて視界を塞いだ。


「ジ、ジブンも手伝うッスよ!」

「メロちゃんっ!」

「さぁ、マナ! 一緒にこの野郎をやっつけるッスよ!」

「やっつけないよ⁉」


 二人がかりで悪の風紀委員を足止めしている間に悪の幹部は逃げていく。


「そんな……、こんなとこでアタイのハジメテが……っ!」


 身体を捩り後ろ手で尻を抑える何やら不自然な姿勢で、内股で数歩進んではピョコンと小さく跳び上がり、ヒョコヒョコと路地の奥へ消えていった。

 ここまで離されてはもはや追撃も追跡も不可能だろう。仕方なく弥堂は諦めた。

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