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1章 魔法少女とは出逢わない
1章33 曖昧な戦場 ②
しおりを挟む「【光の種】ッ! いっぱい!」
水無瀬 愛苗は魔法を使う。
多数展開した種と呼ぶには大きすぎる光の弾を、地を駆けて迫る獣のシルエットをもつ四つ足の影に向けて、一斉に放った。
以前よりも上達したその攻撃魔法は真っ直ぐに狙った場所へと飛ぶが、しかしそこは1・2秒前に的がいた場所だ。
黒い獣は光弾を潜り抜けて水無瀬に飛び掛かった。
「わわっ⁉ 【飛翔】ッ!」
飛行魔法を使い背後へ下がることで獣を躱す。
1秒前に自分がいた場所を獣の前足から伸びる爪が空振ったのが見えた。
「……さいてき……、こうりつ……、よけい……、のぞく……」
上下方向の操作を捨てて、思考と操作のリソースを地面と水平方向の移動のみに絞ったことによって実用に足るようになった飛行魔法で的との距離をとる。
「マナッ! 上ッス!」
メロの声に反応して上空を見上げるともう一体の的である鳥の影がこちらに狙いを定めたことがわかった。
「まとと……、わたしを、つなぐ……」
そちらに向けて光弾を飛ばすが、動き続ける的は、狙いをつけて魔法を飛ばしそれが着弾する頃にはもうそこには居ない。
一直線に飛んでくる黒い影の鋭利に光る先端は嘴だ。
「げいげき……、ようい……だめっ! まにあわない……っ!」
周囲に展開だけしてストックしていた光弾を的に向かわせようとするが、数テンポほど遅い。
光弾の合間を縫った影に取りつかれる。
「ひぁぁっ⁉ あいたたたた……っ!」
カカカカカッと嘴で突かれながら魔法で奔る。
「マ、マナっ! 動くのはやめちゃダメッス! ネコが来るッス! このっ……! こいつっ! 離れろッス!」
もう一体の敵に視線を送りつつ、メロは水無瀬に纏わりつく鳥に「ていっ、ていっ」と猫パンチを繰り出す。しかしその腰は若干引けている。
「えっと……、はやく……、しゅうかん……っ!」
メロと鳥が「ふしゃー」「くぁー」と威嚇し合っている内に獣の方へ魔法をバラまこうとする。
昨日までの彼女では考えらないくらいに戦闘を行っている。
しかし、それにはまだ圧倒的に慣れが足りない。
水無瀬が対処するよりも速く、獣の方が接近してしまう。
「グルニャァァァーーっ!」
「ぅきゃぁぁーーっ⁉」
飛びかかってきた獣に思わず魔法のステッキを付きだすと、獣は水無瀬の腕に取りつきながらそのステッキをガジガジと齧る。
「わわわ……っ⁉ ガジガジしちゃダメぇーーっ!」
「こ、このネコやろうっ! はなれろッス! ジブンとキャラかぶってんッスよ! そこは犬とかで来いよッス!」
「ぁいたたたたっ! ツンツンもダメぇーーーっ!」
「クァーーーっ!」
カラスとネコ2匹を引き連れ、公園の広場をアイススケートのようにグルグルと周りながらキャーキャーと喚く。
こんな有様であるが、水無瀬さんは一応ピンチであった。
「――あっ! そうだ! これなら……っ!」
そのピンチの中で何かを閃いたのか、カラスのゴミクズーに突かれながら水無瀬は「むむむっ」と集中する。
すると周囲に6発ほどの光弾が現れる。
「ぐるぐるっ!」
えいっと力をこめると、その魔法の球は彼女の周囲をグルグルと周り始めた。
「クァーーっ⁉」
「ゥニャァー⁉」
「ふしゃーっ!」
強引な魔法の使い方で振り払われ、カラスとネコの影は不服そうに鳴きながら離れる。
最後のドヤ顏ふしゃーはメロさんのものだ。
腰抜け猫パンチで何の役にも立っていなかった彼女だが、自分のパートナーが敵を追い払ってくれたことでマッハでイキったのだ。
「さぁ、反撃ッス! 今度はこっちが追いかけまわしてやるッスよ!」
「えっ? えっ……? おいかけるの?」
「そッス! 行くッス! Go Go Go!」
問答無用に急かされ流された水無瀬は、自分の周囲に魔法の球をグイングイン旋回させながら逃げ惑う動物を追いかける。
「ふはははーッス! 逃げろ逃げろ逃げろー! 下賤なゴミクズどもめ! 己の矮小さを思い知って惨めに死んでいくがいいッス!」
「あわわわ……っ、これ、むずかし――あっ⁉」
絶好調で高笑いをあげていたメロだったが、乗り物担当の魔法少女が即行でミスを犯したため、すぐに顔色を変えることになった。
「ふぎゃぁーーーッス⁉」
まず旋回させている魔法球の操作を誤り地面を砕く。
砕けて飛び散ったアスファルトが進行方向に浮かびそれに顔面を強打する。
痛みはなくともそのショックでびっくりして、お目めをバッテンにして仰け反り今度は飛行魔法の制御を失う。
地面を派手に抉りながら横滑りしていき、最終的には身体半分が埋まるような形でどうにか止まった。
余計な魔法操作を捨てることで確保したリソースに新たな負荷をかければこうなるのは自明であった。
転倒した際に周囲に纏わりつかせていた光弾はそれぞれあべこべの方向に飛んでいき、子供たちが無邪気に遊ぶための遊具を木っ端微塵に破壊した。
無防備になった魔法少女に獣の影たちは悦びの声をあげて襲いかかる。
「ひぁぁぁぁっ⁉」
ギュッと目を瞑り頭を抱える。
しかし――
――想像していたような攻撃はこない。
恐る恐る顔を上げてみると――
「――いつまで寝ている。ここは戦場だぞ」
光沢のない見慣れた無機質さが自分たちを見下ろしていた。
左手で獣の首を地面に押し付け、右手で鳥の首を掴んで二体同時に拘束する。
いずれこのような状況に陥ると予測していたので、弥堂はクラスメイトの女の子を勝手に囮にして機を窺っていたのだ。
ぽへーっとこちらを見上げてくる緊張感のない顔を無感情に見下ろす。
「おい、なにをしている? さっさと殺せ」
「……えろえ……?」
「……なんだと?」
コテンと首を傾げ不思議そうに言葉を口にする彼女に眉を寄せる。
「えろえろ……? なんッスか、それ」
「え? んと、わかんない。なんかそう聴こえたんだけど……」
「こんな時にエロエロだなんて、魔法少女の活動中にえっちなのはダメッスよ」
「ちがうよ。えろえろじゃなくてえろえって聴こえたんだよ」
「えろえ……? あっ、エロ絵ッスね! どうしたんスか急に。絶体絶命のピンチの中で純粋な怒りから性に目醒めたんスか?」
「よくわかんないけど違うと思うの」
「じゃあ、やっぱりエロエロなんじゃないッスか?」
「そうなのかなぁ……」
「エロエロ……」
「えろえろ……」
そのまま意味もなく『エロエロ』を連呼し合う二人を弥堂は無視することにした。追及することにメリットを感じなかったからだ。
「おい、遊んでないでさっさとトドメをさせ。まだ戦いは終わってないぞ」
急かして緊張感を取り戻させることで、わけのわからないやり取りを強制終了させる。
「オマエ、今日もいつの間にか結界に這入ってきやがってッス。急に現れるのはビックリするからやめてくれッス。ねぇ、マナ?」
「え? 私わかってたよ? ちょっと前から弥堂くんが来てたの」
「マジッスか? 戦ってたのによく気が付いたッスね。ジブン全然わかんなかったッスよ」
「んとね、なんかお腹を押される感じがしてからプツンってなって。なにか挟まってる感じがして、あ、この感じと大きさは弥堂くんだなって思って。そしたらツルンって入っちゃったの」
「……な、なんか、そこはかとなくエロいッスね……、ハァハァ……ッ」
何故か興奮して息を荒げるネコと首を傾げたままぽけーっとするポンコツコンビへ胡乱な瞳を向ける。
「……戦う気がないのか?」
「あっ! そうだった……っ!」
ようやくハッと現状を把握しモタモタと彼女は立ち上がる。
「このまま抑えておくから魔法を当てろ」
「う、うん……っ!」
勢いよく頷いた水無瀬は何故か距離をとった。
弥堂は嫌な予感がした。
「おい、みな――」
「――いきますっ! 【光の種】ッ!」
咄嗟に彼女を止めようとするが間に合わず光の弾を射出する魔法が発動する。
その魔法は真っ直ぐに飛んできて弥堂の顔面を直撃した。
「「――あっ⁉」」
ポンコツコンビが仰天する目の前で弥堂は背後へ倒れる。
その隙に二体の獣の影はギャーギャー鳴きながら逃げ出すが、今はそんなものに構っていられない。
「ギャァーーっ⁉ 少年のドタマがぶっ飛んじまったッスーっ!」
「あわわわわ……っ」
顔色を真っ青にして立ち竦んでいるとムクリと弥堂が起きる。
もともと光の少ないまっ平らな瞳をポンコツコンビへと向けた。
二人はガタガタと震える。
「びっ、びとうくん……、ご、ごめんね……? だいじょうぶ……っ⁉」
「はにゃにゃにゃにゃーっ⁉ 死体が……、死体が動いたッス……!」
弥堂は何も応えずまばたきを一度すらしないまま彼女らを視続ける。
「コワイコワイコワイッス……! バチクソぶちギレてるッスよ⁉」
「切れてるっ⁉ 血出てる⁉ うそっ……、たったたたたたいへんだぁーっ!」
パニックに陥る二人を視て、大袈裟に溜息を吐いて敵意を吐き出す。
反射的に殺しにかかりそうになったが、少なくとも水無瀬には悪意や敵意はない。わざと当てたのではないのだろう。
今日の彼女の戦いを見てしっかりと狙った場所に魔法を飛ばせるようになったのだと、そう判断した自分が迂闊であり間抜けであったのだ。
それに水無瀬を殺してしまえば、そもそもこの戦いに参加した意味すらなくなるし、このあとゴミクズーを処理する効率も落ちる。
そう考えて水に流すことにした。
「……落ち着け。死んでないし怪我もない」
「ほ、ほんとうにゴメンね……? わざとじゃないの」
「それはわかってる。もういい」
「……こう言っちゃなんスけど、なんで無事なんスか? マナの魔法はゴミクズーも大体一確するし、コンクリートだってぶっ壊すのに……」
「さぁな」
「あ、あのね? 弥堂くんに当たっちゃうって思って、それで『ダメーっ』ってお願いしたの」
「なんだそりゃ」
「魔法にお願いすると大体そういう感じになるの。今日はいつもよりもお願いを聞いてくれるから、本当に無事でよかったよ……」
「そんな……、いや、そうか」
「ウチのマナは天才ッスからね!」
謝罪をする立場でありながら踏ん反り返って他人の功績でイキる畜生を無視して考える。
『魔法にお願いすると大体そういう感じになる』
そんな馬鹿な話があるか、と。
そう言おうとしてやめた。
『今日はいつもよりお願いを聞いてくれるから』
続けて彼女はこうも言った。
確かに今日の彼女の魔法の行使には以前よりも上達が見られた。
昨日の催眠時に弥堂が教えたことが無意識下に残って、それが活かされているものだとばかり思っていた。
しかし、よく考えれば記憶が残っていたとしても、この不器用な水無瀬 愛苗に即日実行実現できるような器量があるはずがない。
だが、朧げな記憶のイメージで、『大体こうなるように』とそう願ってそれが実現されるのならば。
急に彼女が少しは実戦的に魔法を使えるようになったのも納得出来ないわけでもない。
もちろん。
願えば叶う。
そんな馬鹿なシステムが実在するのかという疑問に目を瞑れば、の話だ。
通常そんなことはない。
だが、全く在り得ないわけではない。
願えば叶う。
ごく稀に、ごく一部の者に、『世界』はそれを許す。
そういう存在がこの『世界』には存在する。
(こいつ――)
弥堂は目の前で申し訳なさそうに身を縮こまらせる存在を視る。
彼女が『そう』なのか、それとも彼女の魔法が『そう』なのか。
「ときに、水無瀬」
「うん、なぁに」
「今日は随分と調子がよさそうだな」
「えっ?」
「魔法だ。昨日よりも上達をしていたように見えた」
「あ、うん。えへへー、わかる? なんでかわからないけどすっごく調子がいいんだ。メロちゃんもキレてるって言ってくれたし」
「その割には誤射をするんだな」
「あぅ……、ご、ごめんなさぁぁぁいっ」
シュンとなる彼女に話を続けさせる。
「それはもういい。そんなことより、調子がいいとは具体的にどう調子がいいんだ?」
「うん、ごめんね? あのね、なんて言うか、今日は魔力がルンルンしてるのっ」
「……ルンルンとはどのような状態を意味するんだ?」
「えっ? どうなんだろう……?」
「わかんねえのかよ」
「えっとね、なんかねとっても軽くて早くてキュイーンってなるの! あとね、ぶわって!」
「……そうか。ちなみに普段ゴミクズーに魔法を当てる時はどう願っているんだ?」
「ふだん……? んと、ゴミクズーさんには『浄化してー』とか『いいこになぁれ』とか『救われてー』ってお願いして魔法してるかなぁ……?」
抽象的な言葉ばかりで、天才の言語は自分にはわからないということはわかった。
「あっ! あとねあとねっ!」
「もういい」
「あのね、なんかね今日は誰かの声が聴こえるの!」
「なんだと? 詳しく話せ」
「オマエ今『もういい』つったじゃねーッスか。なんて勝手な男なんスか」
呆れた目を向けてくる四つ足には眼をくれず、ジッと見つめ水無瀬の答えを待つ。
愛苗ちゃんはいっしょうけんめいにお手てをブンブン振って説明を開始した。
「えっとね、なんか『こういう風にしたらいいよー』みたいな声がしてね。そういう感じでお願いすると前より上手にできたの!」
「……それはどういう声だった?」
「んーー、よくわかんないんだけど、男の人の声だった気がする。ゴメンね、なんかあやふやなの……」
「それはいい。具体的にどんなことを言われた?」
「えぇっと……、ちょっと難しいことが多くて私にもあんまり理解できてなくって……」
「一番印象に残っていたのは?」
「なんだろう……、あっ! あのね、『効率』って言ってた! あれって魔法の声なのかなぁ……?」
「さぁ、どうだろうな」
(それは俺の声だ)
やはり催眠時の記憶が残っているようだ。
とりあえず、『声』とやらは関係なしに、彼女の魔法は願えばその通りの効果を発揮するらしい。
いまいち腑に落ちていないが、結局彼女の魔法は彼女にしかわからない。これ以上はこの場で確認するのは難しいかと判断をする。
(それにしても――)
考える。
ゴミクズーに当てる魔法に『浄化をしたい』と願えば一撃で滅ぼすような威力が実現され、弥堂に当たりそうになった魔法には『傷つけないよう』願いを込めたらその通りになった。
とはいえ、一撃で頭が吹っ飛ぶようなことはなかったが、なんのダメージもなかったわけではない。人間に殴られた程度の衝撃は受けている。
もしかしたら、威力の変更が効くだけで、彼女の曖昧な意思と命令で魔法が本来の性能を発揮していないのではないかと疑う。
実際に昨日の催眠下の彼女は、余計な思考や感情を排してただ殺すことだけを命令したら、『やれ』と言えば言っただけ鰻登りに威力を上げることが出来た。
想像に過ぎないが、彼女が魔法少女として完成するには戦闘に向かない思考をする彼女の人格が一番邪魔なのかもしれない。
もしも、『なんらかの手段』を以て彼女を――水無瀬 愛苗を必ず命令に従う殺戮兵器に仕立て上げることが出来れば、その時はこの世の多くのものを思うがままに出来るのではないかと、ふと思いつく。
弥堂自身には今のところ『それ』をする必要性が発生していないが、他に魔法少女の存在を知る者、これから知る者がいた場合、その者たちがどう考えるかはわからない。
考えていた以上に魔法少女とは危険な存在なのかもしれない。
さらに、彼女が先程言っていた『願えば叶う』――これが本当だった場合、『世界』が彼女にその許しを能えていた場合、その危険度は天井知らずに上がる。
それこそ、生かしてはおけないといったレベルにまで。
無意識に心臓に火が入り、彼女を写す眼にも熱が入る。
ドッドッドッドッ――と耳の裏で鳴り響く不快な鼓動を聴きながら、シャツの中に隠した胸元のペンダントへ伸びそうになる手の動きを努めて自制する。
(――今、考えても仕方がない、か……)
「それよりも、今はゴミクズーの処理が先か」
「自分から聞いてきたくせにエラそうッス」
「戦闘中だぞ。何故お前らはすぐに敵から目を離すんだ」
「あ、でもでも。今日は大丈夫だと思うっ」
「大丈夫……?」
「えっとね、あ、ほら、見てっ」
言われて水無瀬が指し示す方向へ目を向けると、先程逃げていった鳥と猫の影は、ゴミクズー同士で戦っていた。
「……仲間割れか?」
「あのね? 私がここに来た時にはもうケンカしてたのっ」
「そんなことがあるのか?」
「いや、ジブンらもゴミクズー同士のケンカとか初めて見たッスけど……、どうもあっちのネコの方がめちゃくちゃカラスにキレてるっぽくて」
「だからね、急いで結界して『ケンカはダメだよー』って言ったの!」
いっしょうけんめいに伝えてくる水無瀬を弥堂は胡乱な眼で見る。
「……それで? 仲間割れをしていた奴らがどうして結託してお前を?」
「えっとね、『仲良ししてー』って言ったけど聞いてくれなくて、それで私ね一回大人しくしてもらおうって思って、えいって魔法したら二人とも怒っちゃって……、って、弥堂くん? どうしたの? おなか痛いの?」
話を聞いている途中で額に手を遣って頭を抱えてしまった弥堂へ水無瀬は心配そうな目を向ける。
それが他意はなく、本当に心から心配しているのだということはもうわかってしまい、それがさらに弥堂に屈辱を感じさせた。
「……痛いのは頭だ」
「えっ? たいへんっ! メロちゃん、お薬なかったかな⁉」
「確か学校バッグの中に七海に貰った生理の薬が入ってたはずッス!」
「そうだった! 弥堂くんゴメンね? 今お薬出すからちょっと待っててね?」
「いや、いい。別に病気や風邪で痛むわけではないし、当然俺は生理でもない」
「そうなの……?」
「あぁ。ちょっと何を言っていいか。何から言えばいいかと悩んでしまっただけだ」
「そうなんだー。あのねあのねっ、私でよかったらお話聞くよ?」
「そうッス。遠慮しねぇでジブンらに相談するッスよ。どんなお悩みも魔法でパパっと解決ッス!」
(お前らが頭痛の原因なんだがな……)
そう考えつつ、しかし口には出さない。
何故か抵抗をする気力が失せてしまったので、屈辱ではあるが彼女らの厚意(?)に甘えることにする。
「……まず。何故奴らの戦いを止める?」
「え? だって……」
「……ねぇ? ケンカはよくねえしッス……」
顔を見合わせて共感する二人を引っ叩きたくなるがどうにか耐える。
「……奴らは敵だぞ。その敵が仲間割れをしてくれているんだ。放っておけば少なくともどちらか一方は痛手を負って弱るだろうが。何故そのチャンスを活かさない?」
「でもでも……っ! ゴミクズーさん同士なんだし、仲良しの方がいいかなって……」
「そうッスよ。それにこないだも言ったッスけど、オマエ考え方がセコいッス。そんなズルイのはダセェーッスよ!」
ピーピーと反論してくるポンコツどもに弥堂は酷く疲れを感じる。
きっと先日一緒にトラブルに見舞われた希咲さんも、弥堂と話すことで似たような疲れを感じていたのだが、そのことに彼が気付いて彼女に共感をすることは恐らく一生ない。
「……いいだろう。譲ってやる。ここでは仮に、あくまで仮にだが。ゴミクズー同士は仲良くした方がいいと仮にそういうことにする」
「わぁ。弥堂くんもやっぱりそう思うんだねっ」
「なんだよ。オマエ意外と話が――って、あいたたたたたッス!」
「メ、メロちゃぁーーんっ⁉」
弥堂は百歩譲って殺すのではなく、ネコ妖精の尻尾を踏み躙るだけに留めてやった。
「いいか? ポンコツども。仮に仲裁をするとしてそれで何故攻撃をしかける?」
「えっ? えっと……お話を聞いてもらおうと思って……?」
「攻撃を?」
「攻撃じゃないよ? お話聞いてってお願いしたのっ」
「……そうか」
背筋になにかがぞわっと走った気がしたが、気がしただけなら気のせいだと自分に言い聞かせ弥堂は質疑を続ける。
「それで? 仮に話が出来たとして、その後ゴミクズーをどうするつもりだったんだ?」
「うんとぉ……、いいこにしてってお願いしたいんだけど、みんないつも聞いてくれないから、どうしても聞いてくれなかったら、やっぱり浄化かなぁ……?」
「……話し合いを設けて、それによって奴らが仲違いを止め、それから二匹まとめて殺して、仲良く地獄に送ってやると……?」
「殺さないよぉ。浄化だもん」
「さっすがマナ! 優しいッスね!」
「……そうか」
それ以上の彼女への反論は自重した。
(こいつイカレてんのか?)
先程とは違った意味で彼女への危険を感じる。
そして仲間割れを続ける二匹のゴミクズーを視界に映しながら陰鬱な気分になる。
今回のゴミクズーは大したことはなさそうだと思ったが、それはそれとして意味のわからないカオスな状況に陥ってしまう。これではサクッと倒して仕事へ向かうなどという展望は今日も叶いそうにない。
魔法少女には願えば何でも魔法が叶えてくれるというのに、なんと不公平なことか。
誰に向けたわけでもない皮肉を思考の隅で独り言ちながらも、メインとなる思考回路は、これからどうやってあれらを殺すかという思考を勝手に始める。
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