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1章 魔法少女とは出逢わない
1章34 Sprout! ①
しおりを挟む「一匹逃げてしまいましたね。わざわざ見に来たというのに」
言葉ほどには執着がなさそうに、弥堂の残虐ファイトによってズタボロにされ這う這うの体で逃げていくネコのゴミクズーをアスは見送る。
そして――
「何故アナタがここにいるんです?」
――切れ長の目を不快げに歪め怜悧な瞳を弥堂へと向けた。
それに対して弥堂 優輝は適当に肩を竦めてみせる。
「取引だとか言って、昨日あれだけ大暴れして、あれだけゴネ倒しておいて、翌日にあっさりと自分からそれを破るんですか? 理解に苦しみますね……」
「不可抗力だ」
眉間を抑えて頭痛を堪えて呻くように言うアスに端的にだけ答える。すると当然怪訝そうな目が返ってくる。
「私はアナタに興味がありませんし、正直会話自体したくないので別に咎めるつもりもないのですが、一応聞いておきます。不可抗力とは?」
「俺の方も特に関わるつもりはなかったんだが、普通に下校をしていたらその道のりでこいつらが暴れていて、通りすがりに拉致されたんだ。用事があったというのに、誠に遺憾である」
「それじゃジブンらが通り魔みたいじゃないッスか! 誤解のある言い方するなッス!」
すかさず抗議の声をあげたネコ妖精のメロだったが、弥堂とアスの両方に冷たい目をジロリと向けられるとすぐに身を伏せた。
身を縮こまらせつつも体毛はブワっと広げ、お尻を捩りながら数歩後退し、プシッと粗相をする。
そんなか弱きネコさんへ向ける視線に一度侮蔑の意をこめると、二人は再び顔を向き合わせた。
「……普通は通りがかっただけで結界の中には這入れないものなんですがね」
「そう言われてもな。侵入するもなにも、外を歩いていてどこに結界があるかも俺には感知できないんだが」
「ふむ……、そういう体質か生まれつきの特性なんですかね……。いえ、別にそこまで珍しいものではないんですよ。例えば神隠しとか、話では聞いたことありますよね? あの手のものに巻き込まれるニンゲンはそういう特徴を持っていたりすることがありますので」
「……なるほど。それなら仕方がないな」
「おや? これで納得するんですか? なにか思い当たることでも?」
「……別に」
昨日は激しく敵対した二人だが意外と穏やかな雰囲気で会話が進む。
弥堂の方にも敵対するつもりがなく、アスの方も面倒は御免だと挑発しないように注意しているからだ。
「では、私の方もそれで納得することにしますか。これからも同様の事が起こりそうな気もしますし、迷い込んでも戦い自体に介入しなければ私としましては特に煩いことを言うつもりもありません」
「俺としては巻き込まないで欲しいんだが」
「そこまでは知りませんよ。そうなったらもう諦めて傍観してなさい。終わったら帰してあげますから」
「…………」
「さて、せっかく来たことですし魔法少女を見ていきましょうか」
弥堂の眉間に不満げに皺が寄ったので、彼が口を開く前にアスは打ち切った。
またわけのわからないゴネられ方をされたくなかったからだ。
水無瀬の方へ顔を向ける。
弥堂とアスが会話をしだしたあたりから水無瀬さんは何やらそわそわしていた。
「おや? 今日は起きてるのですね」
「こんにちはっ。はじめまして、水無瀬 愛苗です!」
「……? えぇ、初めまして……」
ペコリと頭を下げる水無瀬の頭頂部へ一瞬怪訝な目を向け、チラリと弥堂の方へ向けると彼は適当に肩を竦めた。そのやり取りでアスは察する。
「どうもご丁寧にありがとうございます。私のことはアスとお呼び下さい」
「は、はいっ! ごていねいにありがとうございます!」
ペコペコと恐縮して頭を何度も下げる。
普段スーツを着た大人の男の人と接する機会など学校の先生以外にはないので、愛苗ちゃんは若干緊張気味だ。
ひとしきり頭を下げると水無瀬は弥堂の近くへスススと寄ってコショコショと内緒話をする。
「弥堂くん弥堂くん。あのひと弥堂くんのお友達?」
「あいつは敵だぞ」
「えっ⁉」
「ヤツはボラフの上司でゴミクズーを使ってなんかこう悪い感じのことをしている闇の秘密結社の中途半端に上の方の幹部だ」
「えぇっ⁉ そ、そうだったんだ……」
魔法少女である自身の与り知らぬところで、いつの間にか敵の新キャラが登場していた事実を知り愛苗ちゃんはびっくり仰天した。
「間違ってはないですけど、そう紹介されると自分のキャリアを見つめなおしたくなりますね……」
「あ、あの……っ。いつもボラフさんにはお世話になってます……っ。水無瀬 愛苗ですっ!」
「……こちらこそ。いつも部下がお世話になっています。彼はちゃんと働いていますか?」
「はいっ。いつも仲良くしてもらってます!」
「……仲良く?」
「はいっ! いつも挨拶できてエライねってアメをくれます!」
「あの……、アナタたち戦ってるんですよね……?」
努力して水無瀬の発言を流しながら当たり障りなく会話を終えようとしていたアスだったが、他人から聞かされる部下の素行をついには聞き咎める。
「アナタは魔法少女ですよね? どう考えているんですか?」
「はいっ。いっしょうけんめい頑張ってます!」
「……だったら敵と仲良くしていてはダメでしょう。そんなことでこの先どうするんです」
「えと……、いっぱいがんばろうと思ってます!」
「…………あと、アナタ二回も名乗ってましたが、それ本名ですよね? 最近は個人情報の管理は厳しいんじゃないんですか? ネットリテラシーとか教わった時にそういうことを言われてないんですか?」
「はいっ。今は変身中なのでステラ・フィオーレです!」
「姿を変え、名前を変えているのに、どうして先に本名を名乗るんです。我々は今のところアナタのプライベートに攻撃をしかける予定はありませんが、そういう危険性があるとは考えなかったのですか?」
「えっ? でも……、嘘はよくないかなって……」
「…………」
アスはチラリと弥堂へ視線を遣る。
彼はまた適当に肩を竦めた。
「……なるほど。催眠か。案外合理的だったんですね」
呟くように弥堂への納得と共感の意を漏らし、今度は水無瀬へジロリと目線を戻す。
「アナタ、意識低くないですか?」
「え? あの……、ごめんなさい……」
頼んでもないのに勝手に現場を見に来て、バイトの勤務態度とスキルの低さにピキったスーパーバイザーのようなことを突然言われるが、よいこの愛苗ちゃんはまずゴメンなさいをした。
「で、でもっ、私いっしょうけんめいがんばりますっ!」
「……一生懸命とは、具体的にどのような取り組みのことを差しているんですか?」
「えっ? あの、いっぱいがんばることです!」
「……どうやら研修が必要なようですね」
アスの瞳孔に赤い光が灯る。
「いるんですよ。我々の組織にも。とりあえず気持ちだけ盛り上げて我武者羅に体力だけ消費していればいいと。それが努力をしていることだと勘違いをしている馬鹿が」
「あの、でも……、いっしょうけんめいやらないと……」
「一生懸命になるのはいいんですよ。真面目な馬鹿と不真面目な馬鹿では前者の方がいくらかマシですからね」
「おい」
弥堂が口を挟むとアスは嫌そうな顔をした。
「……なんですか?」
「お前らの組織はなんなんだ? 『闇の組織』と言ったり、『闇の秘密結社』と呼称したり。どちらかはっきりしろ」
「あぁ……。別にどちらでもいいですよ。登記しているわけでもないんです。お好きに呼んでください」
「駄目だ。設定に一貫性と統一感がないと、俺の上司はお前らに遺憾の意を表明した。彼が気に食わないと感じるということは、お前らは俺らをナメてるってことだ。お前らに改める気がないのならば、戦争に発展する可能性があるぞ」
「攻撃的すぎませんか⁉ アナタもアナタの上司も! ……水無瀬さん、すみません。ひとつ訂正します」
「えっ?」
「真面目な馬鹿は最悪です。馬鹿なことを考え、それを馬鹿みたいにやりきろうとする。こんなニンゲンにならないように、しっかり勉強をするんですよ」
「あ、あの、ごめんなさいっ! 弥堂くんは真面目なんです!」
擁護にならない擁護をしながらペコリと頭を下げる彼女から若干の疲労感を齎され、アスは逃れるように弥堂へ顔を向ける。
「というか、何故急に余計な話を? 今そんな話してませんでしたよね?」
「あぁ。なんか戦いになりそうだったからな。先に言いたいことを言っておこうと思っただけだ。そして言うべきことはもう言った。後はどうでもいい。勝手にやれ」
「なんて身勝手な……。水無瀬さん、すみません。再度訂正と補足を。真面目な馬鹿とやる気のある無能も最悪ですが、それよりも意識の高い狂人はもっと最悪です。こんなニンゲンとは関わってはいけませんよ? 社会に出てから必ず足を引っ張られます」
「あのっ、ごめんなさいごめんなさいっ! 弥堂くんはいっしょうけんめいなんです!」
「だから、真面目で一生懸命ならいいという問題じゃないという話を今……、いえ、もういいです……」
アスはニンゲンと分かり合うことを諦めた。
「もう帰りたくなりましたが、一応やりかけたことはやっておきましょうかね。アナタをテストして差し上げます」
「え?」
戸惑う水無瀬を尻目にアスは鳥型のゴミクズーへ近寄る。
片翼を損傷し地に蹲る黒い影の上で、懐から取り出した試験管のコルクを抜き傾ける。
「ピィィィィーーーーっ⁉」
一滴の液体がその身に溶け込むとゴミクズーは叫びをあげる。
すると、損傷した部分から肉が膨らんでいき翼が再構成される。
傷の再生箇所から全身に肉が膨らんでいき、黒いシルエットにしか見えなかった身体がはっきりと実在味を帯びる。
元よりもサイズが肥大化し、大きなカラスへと変貌を遂げた。
その工程を弥堂は視ていた。
完全にパワーアップして回復もしたカラスは飛び立ち、脇に控えるようにアスの近くで滞空する。
「ふむ。まぁ、こんな程度ですか」
その配下の姿をアスはつまらなそうに評価した。
そして魔法少女へと目を向ける。
「さて、アナタは魔法少女としてどの程度なのか。私が評価してあげましょう」
雰囲気は一気に緊迫したものに変わる。
「クゥッ! どうやら戦うしかないみたいッスね!」
「メロちゃん!」
丸まってプルプルしていたメロも水無瀬の横に立ち、お助けマスコットとしての本分を果たそうとする。
「こうなったら変身っス!」
「うん! わかったよ! お願いっBlue Wishっ!」
胸の前で両手を開いて変身アイテムに呼びかける。
しかし、何事も起きない。
コテンと首を傾げた水無瀬さんは不思議そうに自身の胸元に付いているはずのペンダントを見下ろす。
そうすると自分の服装がよく見えて、ハッとなった彼女はバッとネコさん妖精の方を向いた。
「もうしてた!」
「へへっ、そういえばそうだったッスね。ジブン、ネコさんっスから大目に見て欲しいッス。下手したら昨日の晩ごはんも忘れちまったッス」
「メロちゃんうっかりさんだぁ。あ、そういえば今日はね、トリ肉のシチューだってお母さんが言ってたよ」
「マジッスか⁉ へへ、悪いッスけどジブン、今夜はガチらせてもらうッスね」
「ふーふーしてあげるね」
「ギュイィィィィッ!」
ほのぼのとお話をしていたら突如ゴミクズーの雄叫びがあがり二人はハッとする。
「く、アイツなんか知んないけどめっちゃキレてるッスよ。気を付けるッス、マナ……っ!」
「うんっ。浄化して怒りを鎮めてあげなきゃ……っ!」
真剣な顔つきでゴミクズーへの警戒を強める二人にアスと弥堂は胡乱な瞳を向けていた。
「……アナタたちが鳥を食べる話をしてたから怒ってるんですよ。というか、なんて緊迫感のない……。まぁいいです――」
疲労感を振り払うようにアスはバッと魔法少女へ向けて手を翳す。
「いきなさい、ゴミクズーッ!」
「ピィィィーーーっ!」
アスの命を受けてパワーアップしたカラスが突っこんでくる。
魔法少女と闇の秘密結社は必ず敵対する。
そんな運命に導かれるように、再び戦いの火蓋が切って落とされた。
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