俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章55 密み集う戦火の種 ⑤

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 弥堂は心優しい少女に協力を求める。


「……水無瀬」
「なぁに? 弥堂くん」

「聞いての通り、彼らは昼飯を食えないんだ」
「えぇ⁉」

「それもこれも貧困のせいだ。彼らはここ数年昼飯を食べたことがない」
「そんな……、かわいそう……」

「い、いや、ベツに毎日食えてねェわけじゃあ――」


 お目めをうるっとさせる愛苗ちゃんにモっちゃんが釈明しようとするが、それは弥堂に黙殺された。


「彼の家は貧民なんだ。毎日そのへんの畑から大根を盗むことで飢えを凌いでいる」

「そ、そうだったんだ……、それなのに私……っ!」

「…………っ」


 酷く屈辱的なことを女子に吹き込まれ、彼らは身を震わせる。

 そもそも、彼らの家は裕福ではないがそこまで困窮してはいない。目の前のこの男に母親から渡された学食代諸共に金を巻き上げられたために昼飯が食えなくなったのだ。


 弥堂は水無瀬の頭に手を置き髪を撫でながら慰めるふりをしつつ、彼女の視線が自分の顏へ向かないように抑えつける。

 そしてその眼で不良たちを睨みつけ発言をしないように威嚇した。


「かわいそうだと思うだろ?」

「う、うん……!」

「そうか。キミは優しいな。ところで水無瀬、俺から提案、というかお願いがあるんだが……」

「え? お願い?」


 パっと彼女の視線が自分の顏へ向くと弥堂はスッと眼つきを戻した。


「この弁当を彼らへわけてあげることは出来ないだろうか?」

「え?」


 彼女から預かっていた弁当の包みを持ち上げて見せながらそう提案する。


「これはキミが俺のために作ってくれたものだということはわかっている。それなのに非常に心苦しく思うが、俺の分を彼らへ分け与えてはもらえないか?」

「弥堂くんのを……?」

「あぁ。とても申し訳ない気持ちでいっぱいだ。だが、俺は今日の昼を抜いたところですぐに死んだりはしない。毎日満足に食っているからな。だが、彼らはそうでない。言ってることがわかるか?」

「う、うん。わかるっ」

「俺は日々常にこの社会の貧富の差を嘆いている。一人でも多くの貧困層を救いたいと、そう考えているんだ……」

「び、弥堂くん……」


 とても立派な考えを持っているクラスメイトの男の子に愛苗ちゃんはジィーンと感動をする。

 ヤンキーたちは、先程は全ての他人から金を巻き上げて自分が儲けろ的なことを言っていた男に化け物を見るような目を向けていた。


「キミの努力を裏切るようで申し訳ない。だが彼らに施しをしてくれないだろうか? もちろん善意を強制するつもりはない。キミさえよければの話だ」

「ううんっ。そんな、謝ったりしないでっ。もちろんいいよっ」

「そうか。感謝する」

「えへへ、やっぱり弥堂くんは優しいねっ」

「そうだ。だが誰にも言うなよ?」

「え? 七海ちゃんにも?」

「あぁ。恥ずかしいからな」

「そっかぁ。ふふっ、弥堂くんかわいーね?」

「殺すぞ」

「えっ?」

「いやなんでもない。噛んだだけだ」

「あ、そうなんだね。舌だいじょうぶ? 血でてない? 私見てあげるね?」

「いや、結構だ。それよりも早く彼らにこれを渡してやってくれ」

「あ、うん」


 弥堂は彼女に弁当袋を一つ渡し体よく追い払う。


 言うまでもないことだが、これは優しさでもなんでもない。


 昼飯が食えずに腹を空かせている彼らを救うためでなく、単に他人から渡された食い物を食べたくないという弥堂自身の都合以外のなにものでもない。


 クラスメイトの女の子が手ずから弁当を作ってきてくれたというのに、卑劣な嘘でその女の子を騙し、別の男たちにその弁当を与えるよう仕向ける。


 最近は水無瀬に絆され始めたような様子も僅かに垣間見えてきた気がしないでもないような弥堂だったが、やはりクズはクズのまま何も変わることはなくずっとクズのままであるようだ。


 動揺したのはモっちゃんたちヤンキー軍団だ。


 事態の変遷に着いていけていないが、どうも女子から弁当がもらえるらしい。

 まさか自分の高校生活でそのようなイベントが起こるだなんて夢にも思わなかった彼らは身を強張らせ緊張感を露わにする。


 ぽやぽや女子である水無瀬さんはそんな彼らの様子には気付かずに無造作に、そして無慈悲に近寄る。


「あのね? これ私が――」

「――ジョォトォーーッ!」

「ひゃぁっ⁉」

「馬鹿野郎ッ! サトルッ、テメェッ!」

「――ぃびしっ⁉」


 テンパりすぎて興奮したサトルくんが思わず雄たけびを上げて懐からチャリチェーンを取り出そうとしてしまうと、モっちゃんが彼の顔面に拳を叩き込み大人しくさせる。


「えっ……? えっ?」

「……す、すまなかった水無瀬さん。続けてくれ……」

「えっ? で、でも……」

「続けてくれっ! どうか……っ!」

「は、はいぃ……っ!」


 目の前で起きた暴力に水無瀬は戸惑うがモテない男の勢いに押される。


「え、えっと……? こ、これ、私が作ったんだけど……」

「…………」


 手作り弁当。


 女子の手作り弁当。


 その事実に彼らはまた言葉を失い、ともすればその事実性の重みに足が竦みそうになった。


「――サ、サトルぅぅぅぅっ!」

「モっちゃぁぁぁーーんッ!」


 意識がトンでしまわぬよう気合で声を張り上げた。


「サトルぅーーっ!」
「モっちゃぁーん!」

「サトルぅーーっ!」
「モっちゃぁーん!」

「サトルぅーーっ!」
「モっちゃぁーん!」


 デコとデコで押し合いながら至近距離で互いの名を叫び合う。

 水無瀬さんは「えっ? えっ?」と戸惑うばかりだ。


「サトルぅ! オレを殴れ!」

「ジョォトォーッ!」

「ぐぼぉっ――⁉」

「なななななんでぇっ⁉」


 サトルくんに殴られて倒れたモっちゃんはすぐに立ち上がると、今度は自らの拳をサトルくんの頬に叩きつけた。

 すぐそこでは他の二人も「オラァッ!」「オラァッ!」と殴り合いをしている。


 女子の手作り弁当がもらえるという現実に耐え切れなくなった彼らは拳で語り合うことによって正気を取り戻そうとしたのだ。


 やってはいけないとされている暴力が容易に振るわれる光景に水無瀬は茫然とする。


 すると、殴り合いを終えた彼らがキリっとした顔で彼女の前に戻った。


「待たせたな、水無瀬さん」
「いっちょ頼んます」

「え、えっと……、みんなだいじょうぶなの……?」

「あぁ、問題ないぜ」
「オレたち上等だからよ」

「じょーとー……」


 弥堂は反復しながらぼんやりとする彼女の背に触れて先を促す。


「さぁ、彼らは腹を空かして暴徒化しかけている。これ以上暴れる前に早く」

「あ、うん」


 水無瀬は気持ちを切り替えて手の中の弁当袋を意識し、居住まいを正すと彼らへニコッと微笑みかけた。


「はい、お弁当どーぞっ」

「ありがとうございます!」


 彼らは口々に威勢よく礼の言葉を述べながら一包みの弁当を受け取った。


「あ、それだけじゃ足りないよね? 私の分もあげるね」

「いや、それには及ばねェ。十分だ」
「水無瀬さんがひもじい思いをする必要はねェッス」


 水無瀬の申し出を男らしく固辞した彼らはその場で腰を折ると自身のズボンの裾を掴み、ガバっと勢いよくボンタンを捲った。


「えっ⁉」


 そして靴下の中から小さく折り曲げた紙幣を取り出すとそれを水無瀬へと差し出してくる。


「あ、あの、これ……、って、千円っ⁉ お金⁉ なんでェ⁉」

「ほんの気持ちだ。これしかなくて申し訳ない」
「もちろんタダで済ませようだなんて思ってねェッス」

「あ、あの、困ります! お母さんに怒られちゃいます!」

「いや、そうはいかねェ」
「受け取ってもらわなきゃ困るぜ」


 グイグイと何枚かの千円札を押し付け合う姿を弥堂は胡乱な瞳で見遣る。


 内心で『まだ持ってんじゃねぇか』とも思っていたが、女子からの弁当の手渡しは金になるということがわかったので、新規ビジネスのアイデアへの対価として特別に見逃してやることにした。


 そんなことを考えていると、水無瀬が眉をふにゃっと下げてこちらを見ていることに気が付く。

 お金の押し合いに負けたようだ。


 弥堂はコクリと頷き、彼女の手から紙幣を全て回収する。


「これは俺が預かっておこう」

「え、でも……」

「実は彼らに金の貸しがあってな。これで埋め合わせておくことにする」

「そう……?」

「ご苦労だったな」

「……? なにが?」

「いい仕事をしたぞ」

「……?」


 不思議そうに首を傾げる彼女を尻目に弥堂は何か言いたげなヤンキーたちを視線で黙らせる。

 その間に「まぁいいか」と納得した水無瀬が、俯いてプルプルする男子たちににこやかに声をかけた。


「じゃあみんなで一緒に食べようね」

「えっ?」
「そこまで⁉」
「いいんですか⁉」
「もうお金ないッス!」

「お金はもういいよぅ……。こっちにみんなで座ろう」


 もう支払う金がないことで躊躇する彼らを水無瀬は体育館の壁際に誘導する。


「私がここに座ってぇ……、モっちゃんくんはここね? それでサトルッスくんがこっちでぇ……」


 そしてニコニコと場を仕切って席順を決めていく。

 ヤンキーたちは「へへっ……、へへっ……」と鼻の下を擦りながら彼女の指示に忠実に従った。


 そして――


「――弥堂くんっ。弥堂くんはここねー!」


 ペタンと地面に座って楽し気に自分の隣をぱふぱふと叩く。


 何故か真面目に逆らう方が馬鹿々々しいと感じてしまい、弥堂は大人しく彼女の要請に従った。
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