とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第345話 彫刻作品披露

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 私はオービンの言った事に開いた口が塞がらなかった。
 審判者が、今見に来ている見物人!? どういう事!?
 オービンの発言に周囲も動揺を隠せずにざわついていると、トウマがすぐに問いかけた。

「それって、まだ審判者が決まってないって事ですよね? というか、何で見物人から審判者を選ぶんですかオービン先輩!」
「始めから見物人から審判者を選ぶつもりじゃなかったんだよ、トウマ君」
「え? それじゃ、元々は誰かが審判者をやる予定だったという事ですか?」
「うん。元は、俺にミカ、そしてヒビキを呼び出してやる予定だったんだが、ヒビキが捕まらなくてね。だから、思い付きで見物人からランダムで五人選ぶ事にしたんだ。俺たちがやるよりも、こっちの方がいい気がするだろ?」
「(公平性という面で見たら、兄貴のいう事は分かるが……にしても思い付きで動き過ぎだろ)」

 ルークは小さくため息をついた。

「それじゃ早速、独断と偏見で俺の方で審判者を選んで行きますよ。と言っても、もう決めていますけどね」

 オービンは見物人の方へと近付くと、五名の名前を続けて呼んだ。

「今回の審判者は、ダイモン寮副寮長ワイズ、エメル寮寮長エメル、イルダ寮第2学年ゲイネス、女子クラスコランダム第2学年モラン、同じくコランダム第3学年エリス。以上の五名は中央舞台にお集まりください」

 名前を呼ばれた者は驚きの顔をしている人もいれば、ため息をつく者、意気揚々と来る者もいた。
 そして呼ばれた者たちが中央舞台へと集まる。

「オービン、お前さっきはあんな事言っていたが、どうせ初めからこうするつもりだったんじゃないのか?」
「それに関しては、我輩もエメルに同意だ」
「そんな事はないぞ。なぁ、ミカ」
「……そうだな」

 ミカロスは少しオービンから視線を外しながら答えた。
 その反応でエメルとワイズは何かを察して、反論するのをやめ審判者役を受け入れた。
 その一方でゲイネスは何故自分が呼ばれたのか理解出来ずに、固まったまま立ち尽くしていた。
 また、ゲイネスと同じくモランも少し俯いた状態で舞台の上に立っていた。

「(ななな、何で私!? 名前呼ばれて驚いたし、しかも次期寮長を決める勝負の審判とか私には無理なんですけど……重すぎる)」

 と、内心どうしていいのか分からずにいると、エリスが優しく声を掛けて来た。

「モラン、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。ただ自分が思った方に、投票すればいいだけなのだから」
「エリス先輩、そうは言ってもですね、次期寮長がこれで決まるかもしれない競技なんですよ? 責任重大過ぎですよ、私には……」
「そうかもしれないけど、こんな事で誰かに責められたりはしないはずよ。もしされたら、それはオービンのせいね」
「えぇ」
「だってそうでしょ? オービンが勝手に私たちを選んだんだから。モラン、誰かに今回の事で責められたらオービンに言え! って言っちゃっていいんだからね」
「いや、さすがにそれを言える自信は」
「じゃ私に言いなさい。私がオービン引っ張って言って謝罪させてあげるから」
「そ、そそ、そんな事しなくても大丈夫ですよ」

 慌てるモランを見てエリスは小さく笑っていると、オービンが話を進め出した。

「それではこれより、両者の彫刻作品を披露させて頂きます。審判者の方々は、その作品を見て最後にどちらか気に入った方に票を入れて下さい。その結果票数が多かった方の勝利としますので」
「票って事は、何かに記載するのかオービン?」
「俺が集計する際に皆様には近くに集まって頂き、票を入れてもらう形式にします。発表時には票数と簡単な理由だけの発表するので、名前は公表しないつもりです」
「なるほど。匿名投票というやつだな」

 それを聞き、ゲイネスとモランは安堵の表情を浮かべた。

「では、これより『三番勝負』『彫刻対決』の審査を開始します」

 そのままオービンがヴァンとノルマの作品を見えない様にしていた魔法を解除し、両者の作品がお披露目になった。
 直後、大きな歓声が上がる。
 皆の視線が一番向いていたのは、ヴァンの彫刻作品であった。
 ヴァンが創り出した彫刻は、ドラゴンであった。
 体全体の鱗が一枚一枚繊細で精密に彫刻されており、羽を広げた姿勢に今にも動き出し咆哮をあげそうな躍動感に皆の目を釘付けにしていた。
 私もヴァンの作品の精密さに目を奪われていた。
 凄い、あんなにも綺麗に幻想上の生き物を表現出来ているのは初めて見たかもしれない。
 よく見ると羽の薄さや小さな凹凸で血管ぽさを表現しているのな? ドラゴンに血管があるかとか細かい所は分からないけど、物凄くこだわりを感じる。
 私はじろじろとヴァンの作品を見ていると、ヴァンと目が合う。
 その瞬間、何故か物凄くどや顔をされた。
 ……もしかして、まだ魔力腕比べの時のこと根に持っているのかな? 意外とヴァンは、いつもそれで毒舌を私に吐いて来るしな。
 そんな事を思いつつ私は、そっとヴァンから目線を逸らし作品へと視線を戻した。
 その後ヴァンの作品を見た後、ノルマの作品へと目線を移した。

 ノルマが創り出した作品は、馬であった。
 ヴァンと比較すると物凄く精密ではなく、目立っている訳でもなかったが、荒削りながらにも懸命に表現しようと彫刻した熱意を感じられる作品であった。
 しっかりと馬の特徴は捉えているし、何より毛並みを上手く表現しているのが凄いと私は感じていた。
 顔の細部までは彫刻されていないが、私は全然そんな事は気にはならなかった。
 完全模写が彫刻だとは思っていないし、一作品なのだしその人がどの様に作品として表現するかが見所なのではと独自に思っている。
 芸術に詳しい訳じゃないが、独自の観点を持っていれば楽しめるものなのではと考えているからである。
 その後、暫く作品を見る時間をとった後オービンが投票時間として、審判者たちを集めだした。
 私も元居た場所へと戻り、ガウェンに声を掛けた。

「ガウェンはどっちの彫刻が好きだった?」
「俺はヴァンだな。魔道具作成している身からして、精密さや正確さの所に目が行くからな。ノルマの作品も素晴らしが、総合的にはヴァンだな」
「なるほど」
「そういうクリスはどっちだ?」
「俺は……ヴァンかな」

 私は迷った挙句、ヴァンの名前を口にした。
 ヴァンの作品はいつまでも見てられてしまうし、あそこまで精密な物だとどこまで創りこまれているか見て見たくなってしまったからだ。
 確かにノルマも表現した馬も良かったが、目を引かれる、気になるという点でヴァンの作品が出て来たのだ。

「そうか。にしても、ノルマの奴は本当に凄いな。あれだけの作品が創れているが、あれが初めてだとは思えないな」
「うん……えぇ!? 始めて!? あれが、始めての作品!?」
「あぁ。ノルマはあんな彫刻なんてやった事ないし、別に魔力技量も高い訳じゃない。至って平均的だ。ヴァンと比べれば、半分ほどだった気がするな」

 嘘……魔力技量がヴァンの半分であそこまでの作品を創ったの? それはそれで凄すぎる。

「お前はノルマにどう言う印象を持っているんだ?」
「え? ノルマは……苦手分野が特になくて、とりあえず何でもこなせる奴だけど」
「その通りだ。あいつは何でもできるし苦手もほぼない。だが、得意な分野も特にない。成績もいつもクラスの中間、悪目立ちもせず、物凄い印象を残せている訳じゃない」

 そう、ノルマは何でも普通にこなせてしまう凄い才能を持っている奴。
 私はそう認識していたつもりだったが、次第にそれが薄れていっていたのだ。
 接して行く中で話しやすいし、クラスの中でも誰とでも気軽に話していた姿を見ており、出来ない事もあったりと一般的なのである。

「だからノルマは、クラスじゃ普通の男とか言われていたりするが、それはうちのクラスだからであって、他の所では見られ方がまた変わるだろう。忘れがちだが、あいつは何でも行える凄い奴なんだからよ」

 ガウェンの言葉に私は小さく頷くのだった。
 そしてオービンの元に集まっていた審判者たちが戻って来て、オービンが結果発表を始めるのだった。
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