短話 

T.king

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世間知らず

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俺はこの訪問販売の会社に入り3年がたつ。


空気中のあらゆるウィルスを抑制してくれるという空気清浄器が商品だ。


1台125万円。1台売ればインセンティブで給料があがる。


風邪ひとつひく事なく皆勤賞。体は丈夫だ。


出社は7時30分、帰宅は23時30分。


月末ならば0時過ぎなんて時もある。


無論部屋は寝に帰るだけのスペースに。


テレビなんか観る時間もなく、ただの置物と化してる。


仕事はアポイントなしの飛び込み営業だ。

見込みのある家に直接出向き契約をとってくる。日におよそ60軒の家に飛び込む。

大半は

『いりません』


この一言。

60軒の内10軒でも話を聞いてくれる家があればましな方だ。


でも、先日不思議な事がおきた。

飛び込む家のほとんどが留守なんだ。

まぁ平日ならば共稼ぎなんかで留守なのは当然だが。


日曜日。どんなに行楽シーズンでも一家族は家でノンビリなんて家はあるはず。

なのに、この地区は誰一人 居ない。


ガレージには車は無い。

とにかくガラガラなのだ。

犬小屋のペットさえ、首輪と鎖だけになっている。


不思議だろ?


仕事にならなかったよ。


週が明けて月曜日にまたあの地区に行ったんだ。


そうしたら、また人が居ないんだ。


俺はこの地区を回りながら、何だか頭がフラフラしてきた。さすがに仕事にならない。


それで、火曜日は仕事を休む事にしたんだ。


部屋で布団に入りながら、テレビをつけた。何ヵ月・・・ぶりだろう。スイッチを入れたんだ。









『続いてのニュースです』





『〇〇地区で政府が誤って細菌兵器を投下した問題について、今日政府は〇〇地区に続く、〇〇地区周辺地域の住人にも避難勧告を発令しました』










なんだか、頭が重いな。そして咳が出る。


風邪なんか ひ か な い の に。
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