女の俺は世界で一番エロ可愛い

椎木唯

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序章 迷子の子猫ちゃん状態

初めましては全裸

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 俺には女装趣味がある。




 いや、待って欲しい。
 確かに何だコイツ、と思う気持ちはすごいわかる。
 初対面、全くの他人に面と向かって「女装趣味がある」なんて言われた日には全力で交番に直行するだろう。先頭を走るのは俺だ。

 冷静になった頭でもう一度言おう。


「俺には少し、常人には理解し得ない趣味があります」

 変ってなかった。むしろ丁寧な言葉に変わった事で変態度が上がった感じがしてしまう。



 普段からこんな変な事を言う人間ではない。と、思う。
 まあ、自分の事は自分で客観的に判断できないもんね、しょうがない。

 誰に言うでもなく自己解決する。



 こんな変な事を言うようになったのには理由がある。生まれた時から変人って訳では無い、なったのにはきちんとした理由があるのだ。

 いつものように学校から帰り、自室に篭こもってゆっくりとコレクションである女性服を眺めていた。
 生憎、女装の趣味があるだけで女になりたいとかの願望があるわけではないのだ。だからそこまでおかしいことでは無い。例えるならフィギュアとか模型とかプラモデルとか。そんなのを飾って眺めているに等しいのだ。
 俺の場合は眺めて、エッチな格好をして承認欲求を満たしたいだけだ。……悪化してるな。
 そんな、いつもと何ら変わりない日常を送っていたある瞬間の出来事だった。

 何の前触れもなく俺は見ず知らずの大自然のど真ん中で大の字になって寝ていたのだ。

 おいおい、ちょっと昔のアニメのプロローグでも、もっと良い入り方あったぞ? 妙に達観した感想を思い浮かべながら、遂に頭が壊れ過ぎて幻覚でも見ているのか。と、頬をつねってみたのだ。流石に女装趣味が行き過ぎて幻覚まで見えているのは精神科に行かなければいけないから。理由付けが変だけどな。
 まあ、そんな感じである。

 特に重い感じに捉えるわけでもなく、呼吸するのと同意義に頬をつねった。もう一度つねってみる。

「いや、痛え…」

 だが、反応は結構な頬の痛みと甲高い、女の子のような自身の声だけだった。

 オーマイガーである。

 女装趣味を駆け抜け過ぎると女になるのか…と、世界の深層心理に辿り着き、悟る。
 何故か全裸スタイルであったのだが自身の体なのでマジマジと観察する。これが他人の体であるならそれは犯罪なのだが…まあ、それは全裸な相手が悪い。

 生憎と自身の体なので遠慮も抵抗もなく、凝視する。プリンみたいだ。それが女体の神秘である。
 俺は悪く無いぞ、決して。
 幸か不幸かこの場にある女体は俺だけだったが。


 手の厚み二つ分であろうか。
 男の頃にはなかった双丘が仰向けになっている状態でマジマジと見える。触って欲しいのか、このマセガキめっ。

 どうせ変な夢であろう。そんな考えの元、適当にブニョブニョと触り、徐々に下腹部へと手を伸ばしていく。
 表面上では平常心を保っているが心の中では大自然ならではの、湿気を多分に含んだ腐葉土で不快感マックスである。女体へのボディータッチとでプライマイゼロである。寧ろ大きくプラスである。

 ここが脇、ここが腰、ここが腸骨か……と、どこかav監督じみた意識の高さで触っていく。avに何求めてんだよ。俺か。

 ゆっくり、そろりとなぞってくと…そこには無があった。

「性転換ではなく去勢手術だったのか…。てか声帯もって、どこまで意識高い系なんだよ。努力の方向、行方不明かよ…」

 未だ聴き慣れない女の子らしい声で一人突っ込む。

 腐葉土の上で湿りながらなんやかんややっていて思ったのだが…この現状は夢ではない、って事だ。まあ、そりゃあそうだよね。
 どこの日本に至極普通の高校生を拉致して、女装趣味をただのコスプレに変えようとする奴がいるんだよ。その工程が手術で固められてて泣きたくなるわ。


 ありがとう、神様。
 でも、俺の趣味は女装趣味なので女体化に興味がある訳ではないので元に戻してもらって良いですか?

 と、凸も凹ない虚しい空間を手で擦りながら切にそう思う。














 おはようハネムーン。私は大自然と結婚しました。どこの簡素的エリザベス女王かよ。どんなツッコミだよ。

 おはようもクソもないのだが。

 現実を見る事にして起き上がる。
 前日雨でも降ったのか腐葉土の保湿が異常であり、不快感のある湿り気が背中を嬲るが今は全裸なのである。そんな不快感も解放感のある服装によってすぐに無くなる。

 上を見る。
 デッカイ羽のある蜥蜴が飛んでいた。

「これが俗に言うドラゴンって奴…? てか、低空飛行すぎて事故らないか心配なんだけど」

 左を見る。
 ウニョウニョと、目と鼻の先まで迫ってきた緑黄色の触手と目が合う。これが、運命…?

 一秒、二秒、と時間が止まる。

 触手、触手…だな。

 触手に対して深い知識も理解もない俺から知的な見解は得れない。のだが一般常識で物事は語れる。…触手って目はないよね? 別に一般常識でもなかったわ。
 なんの迷いも無く近づいてきていたんだけどさ……ほら、怖い物は目を逸らしたくなるじゃん? それ。

 達磨さんが転んだ染みた雰囲気を感じるが…これ、狙って向かってきてる訳じゃないよな?
 まさか、ヒルとか蚊とかみたいに二酸化炭素に反応して近づいているとか? 何その光化学的な能力。何が光化学だよ。

 互いに思考が止まり……先に動いたのは触手の主だった。誰だよ。

『我の神域を侵すのは誰ダァ…』

「胸に向かって触手伸ばしてそのセリフって…三下感が半端じゃねえぞ?」

 風俗に初めてきた童貞染みた震えた触手を指差し、言う。
 震え過ぎて心配するまである。まあ、変態を心配する優しい心は生憎と持ち合わせていないが。

 その言葉が触手の主の心を抉ったのか

『許サンッッッ!!!」

 口…なのか?
 顔のような窪みを震わせ、声を張り上げる。

「なんだこいつ!? 情緒不安定かよっっ」

 目を凝らすと出てくるモンスター名に驚きを隠せないが、それ以上に地面からヌルリと這い出てきた触手の主にびっくり仰天である。お前動けるのかよ。自生しとけよ。生態系を自ら壊すなよ。

 そんな言葉が心の中で彷徨う。口に出す暇は今、無かった。

 抜け出した瞬間、形容し難い危機感を感じたからだ。
 足元に落ちてある意味ありげな皮袋を掴み、大急ぎでその場から逃げ出す。スタートダッシュは成功したが…残念ながら相手は執念深い変態であった。ヌルヌルと耳元で微かに聞こえるナニカを分泌する音を聞きながら足を最大限に回転させる。気分は蒸気機関車であった。

『女ッ! 女体ッ! 女体盛りッ! 子種ッ!』

「こいつまさかの特殊性癖の主かっ!? 自然は恐ろしやぁ…」

 まあ、産む為の穴はないのだが。

 そんな事がバレてしまってた瞬間、捕まえる為に手を抜いて追い掛けている触手の主は最後の一線を超えてしまう。
 捕らえられて孕ませられる、が捕らえられて串刺しになって体液を吸い取られてしまう、に変わってしまう。触手に対する偏見すごいな、俺。まあ、触手だもんなしょうがない。

 頬を掠める気味の悪い触手を睨みつけていたら変なウィンドが視界の端に映った。何これ、俺改造手術も受けたの?

名称;エルダートレント
年月;120年
属性;樹
好きな物;若い女体
嫌いな物;磯臭い男根

 合コンの自己紹介並みに為にならない情報が出てきた。この現状を打破できる物が一つもねえ。
 そして好きな物と嫌いな物が見事にソッチ系で寧ろ安心したまである。
 襲ってきている時点で…ああ、無い穴を無理やり開通させられそうな危機感があるな…これ、もしかして未来予知?

 エロ同人みたいな展開を脳内で考えていると一つ、現状を打破出来そうな物が視界の端に映った。

「(あれは……なんだ、剣か? どうしてこんな場所に…)」

 端目で見えた光景は大岩に突き刺さっている光り輝く剣の姿である。

 微かに入った情報を頭の中で整理する。どうしてこんな森の中にこれ幸いと剣が刺さっているんだ? 勇者の剣的なあれか? それとも呪われた剣とか? 封印されている系ならちょっとご遠慮願いたいんだけど…。

 危険を犯してでも現状を打破できる可能性があるものを取りに戻るか、それともスカイブルーの海を背景に砂浜で追いかけっこするカップルじみた逃走劇を再開するか。
 微かに上がってきた息を沈めながら脳内で考える。

 怪しいものは極力触らない!

 知らない人についていかない、道に落ちているものは無闇に拾わない、道草を食わない、と三大小学校の教訓を元に気を改め、足に力を入れる。
 その瞬間だった。

『ぬおオオオオォオォオオオ!!! もう、もう、我慢が出、きんぞぉおおおおお!!』

 禁欲三日目の男子高校生のような雄叫びが聞こえた。多分気のせいだな。

 地面から十数センチの高さに出来ていた顔のような空洞から唸り声が聞こえてきた。
 眺めていると…そこには男なら誰でも羨むような巨根があった。下ネタじゃねえか! いや、ネタじゃ無い分凶悪性が濃縮されている。これ、オークとエルフ並みの異種間交友染みたアレになりそうな気がするんだけど。

 嫌な予感で冷や汗が背中を流れていく。
 幻影痛染みたモジモジ感がお股を襲う。俺の失われた女としての本能が受け入れようとしているのか…? 確かに心意気だけは草食系男子と自己防衛女子が蔓延る現代では見る事ができないグイグイ具合だけど…。
 それで受け入れてしまったら少子高齢化は存在しない。何て言ったって顔が受け付けないのだ。まあ、原因は顔どころの問題ではないのだが。

 リミッター開放的な意味合いが強い叫びだったのか、先ほどまでお遊び感のある追いかけっこではなく、今度は本気の追いかけっこに変貌していた。

 獣道に伸びる枝に柔肌をベシ、ベシとされSMプレイ染みた興奮を覚えそうになるがそんな事は気にしていられない。背後からは唸るようにして触手が鞭のように迫ってきているのだ。緊迫感もあります。

 ビシッ、と空気を裂く音が聞こえ、直近の木が倒れる。何その威力。初日にはあるまじき高難易度じゃない?

 微かに残る常識的思考が夢なら早く覚めてくれ、とそう叫ぶ。



 それに応えるように上空から轟音を引き連れてドラゴンが落下してきた。
 ブルドーザー染みた両足の鉤爪が真上から落ちてくる…これはエルダートレントを狙ってか?

 頭上を掠めるように降ってきたドラゴンの鉤爪攻撃は豪風を伴ってエルダートレントにクリーンヒットした。与えた効果はエルダートレントを木屑へと変化させた事と、豪風によって紙屑のように吹き飛ばされ、転がされた俺の擦り傷だった。運がいいのか悪いのか。

『グォオオォオオォオオオオオ!!!』

 戦闘の勝利者だけが許される勝利の雄叫びを上げ、大きな翼を地面に付け、大きな口で木屑を口に運ぶドラゴン。その図体で草食なのね…。前転の途中で止められたような変な状態のまま、逆さになった視界で見る。

 もっしゃ、もっしゃ、と食事に必死になっているドラゴンの姿を見て、隙はここしかないっ! と、一世一代の根性で起き上がり、その場から逃げ去る。
 走ってて思ったのだがブルンブルンと縦横無尽に跳ねる胸はとても痛いものだ、と。
 生まれて十八年。久しぶりに覚える新たな知識にとても興奮しています。痛いものは痛いんだけどね。
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