エンシェントドラゴンは隠れ住みたい

冬之ゆたんぽ

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隠れ家――アンフェールとグレン1

アンフェールと閨係の話

 グレンの身体や寝台はアンフェールの魔術『浄化クリーン』で、すっかり綺麗になった。

 実は隠れ家には露天風呂もあるのだ。
 アンフェールが作った癒しの空間だ。
 魔術で綺麗にするのは楽ちんではあるのだが、風呂は風呂で精神的に癒される面も大きい。
 しかし、初めての魔力循環でグレンはへとへとになっている。眠らないでもいいから、横たわって休んだ方が良いと思ったのだ。

「露天風呂か。そのうち、入浴させてもらっても良いだろうか」
「うん。いいよ。一緒に入ろう」
「一緒に、か」

 入浴の約束に、グレンはまた頬を染めている。
 アンフェールはこんなちょっとした事でポッポポッポとなって、変な女に付け込まれないのか、王族としてやっていけるのかと、グレンが心配になった。

「グレンは十七歳でしょ? 閨の教育は受けていないの?」

 アンフェールは『魔力循環』中に気になった事を聞いてみた。
 グレンは年齢の割に性に関して幼い気がしたのだ。

「受けてはいる……でも、あまり好きではないんだ。週に一度、係の者が閨に来るのだが、その……手でして貰って、解消したらすぐに下がって貰っているんだ」
「肌を触れ合ったりは?」
「し、していない……! 寝間着も脱いでいない。その、下穿きを寛げる程度で。最中の顔を見せるのも怖くて、枕に顔を埋めている……」

 グレンの声は少しオドオドしている。余程こういった事が苦手なのか。
 聞けば閨教育が始まったのは十四歳かららしい。三年経過しても肌を触れる事にも忌避感があるのだと眉を寄せていた。
 アンフェールとベッドで肌をあわせると聞いただけで顔を赤らめた理由が分かった。

「ぼくと肌をあわせるの、辛かった?」
「アンフェールは……っ、その、精霊だから大丈夫。……嫌じゃなかった。むしろ、もっと触れたいと……」

 アンフェールの軽い確認に対し、グレンの主張は勢いが凄い。
 精霊だから大丈夫って何だろう、と疑問に思う。グレンは人間が苦手なんだろうか。

「グレン、魔力を強化したいんでしょ? 他人と肌をあわせる性接触はした方が良いと思う。『魔力循環』に近い効果があるんだ。多分、グレンが王族としての魔力が低いのはそこに原因があると思う」
「そ、そうなのか……」

 グレンが絶望的な顔をしている。そんなに嫌だろうか。
 アンフェールと『魔力循環』は続けるとしても、毎日来れる訳じゃないだろうし、城で出来る事があれば、やった方が良いと思うのだ。

 性を開放するという事は魔力を開放するという事だ。絶頂すれば自然に魔力放出が起こる。快感を与える側にしても、高めてやろうという意識は魔力挿入を起すのだ。
 肌と肌を触れ合わせ、性接触をするというのは魔力の交換に当たる。
 『魔力循環』は身体の魔力の流れを診て、それを意識的に操作し、魔石を育てるから医療行為だ。
 『魔力交換』はあくまで性接触時に起こる、魔力の生理現象でしかない。自然なものだし、魔石に与える効果としては、家庭の医学程度といった感じだ。
 それでも積み重ねは大事だ。

「閨係の人、苦手?」
「……いや、彼はとても良い人だ。好ましい人だと思っている。……神父なので日中は神父として私の側にいてくれるのだが、そういった役割を越えて……勝手にだが、父がいればこのような感じかと思っている。懐が広いんだ。
 二十五歳と若いが、小さな子を育てた経験があって優しい。こんな私の性処理も、嫌がらないでしてくれる。……神に仕えるだけあってきっと心根が綺麗なのだ」

 グレンが口にした閨係の人は、かなり好条件に感じた。
 二十五歳という事は、アンフェールを育ててくれた年嵩の青年ロビンと同じ年だ。年齢的にも頼りになるお兄さんと言った感じだ。それでも触れ合うのが辛いのか。
 言葉の端々に感じる事があるけれど、グレンは自己肯定感が低めじゃないだろうか。『こんな私』って何なのか。王子なのに、周囲から良く扱われていないんだろうか。
 性に問題が出るのも、精神的に何か抱えてるからなのかもしれない。だとしたら、急激には変われないのかもしれない。

「……少し、努力してみようと思う」
「グレン?」
「弟の為に頑張りたい。アンフェールに触れたのは気持ち良かった。だから、閨ではアンフェールの事を思い出す事にする。そうしたら、きっと頑張れる……」

 グレンの表情に気合が入っている。変わる努力がしたいらしい。頑張り屋のいい子孫だ。
 アンフェールの事を思い出す程度で頑張れるなら、いくらでも思い出して欲しい。友情の力って凄いな。
 実際に接する閨係の人と、アンフェール抜きでちゃんと向き合って欲しいけど、最初は仕方ないかもしれない。時間が経てば触れられる事にも慣れるだろう。

「その……『他人と肌をあわせる性接触』とは、どの程度までしなければならないのだろう? 魔力を高めるのであれば、ここ・・に受け入れなければならないだろうか」

 グレンの手が『ここ』という場所を指し示す様に、彼自身の尻に触れている。そこを許すのに恐怖が強いらしい。顔色を青くしている。

「んー。それが一番効果はあるけれど。身体を触れ合わせて、いつものように手技をして貰うだけでも効果があるよ。急に難しい事をしようと思っても大変だと思うから」
「そうか」

 グレンはあからさまにホッとしている。
 肌を見せるのにも忌避感を持つグレンでは、尻を使って他者を受け入れるなんて到底無理だろう。
 手技を受けているなら、そこに肌接触を増やすだけでいい。

「あと、回数は増やした方が良いかな」
「……頑張ろう」

 グレンは言葉とは裏腹に、心配になるような力無い顔をしている。

「ちょっとずつでいいんだよ。ちょっとずつ、慣れていけばいいよ」
「ああ。ありがとう、アンフェール」

 アンフェールは元気づけようと、グレンのほっぺにキスをした。グレンはその可愛い応援に照れたように笑う。顔色も良くなった。


◇◇◇


 それから一週間。

 久しぶりにグレンが隠れ家にやって来た。
 いつものように、離宮の館が見える高台で、しばらく時間を過ごしてから、隠れ家の方に戻ってきた。
 グレンの肩にはタンジェントが乗っていて、相変わらず「クピクピ」鳴きながら頭を擦り付けている。出会ったばかりのフェレット種がここまで懐くのって凄い。
 飛竜にも可愛さが伝わるなんて、さすが可愛い子孫。可愛いだけある。

 今は外のテーブルで、前回のようにジュースをご馳走している。
 今回はそれに加えて、お手製のクッキーも用意している。神狼フェンリルから頂いたオレンジの皮で、オレンジピールを作ったのだ。それを混ぜて拵えたので、魔力をふんだんに含んでいる。グレンの魔力強化の助けになるはずだ。お土産分も作っている。

 ちなみにその他クッキー材料は使用人宿舎から拝借してきた。備蓄は一杯あった。ありがたい事である。
 古竜種エンシェントドラゴン時代は材料から全て自作の必要性があった。

「どう? グレンは頑張れた?」

 そう話を振ると彼は柔らかな笑顔を返してくれた。上々の反応だ。
 グレンは閨係に『魔力増強の手段として、他人と肌をあわせる性接触が必要だ』と説明したらしい。閨係はそれを理解し、グレンの為になる事は何でも協力すると力強く申し出てくれたそうだ。

「そっか。よかったね、グレン」
「進歩はゆっくりだがな。……ふふ、最初は酷いものだった」
「酷い?」
「食べ物を頂いている時に話すのはどうかと思うけれど、吐いてしまったんだ。多分、緊張しすぎたんだと思う」

 グレンは難しい顔をしている。
 緊張感で戻す事は閨以外でもよくあるし、気にしなくても良いのにと思うが、グレンは気にしてしまう性格なのだろう。
 しかし、少し間を置いてグレンは良い事があったかのように、微笑んだ。

「吐いてしまった私の背中を、閨係がずっとさすってくれて……吐瀉物の処理までしてくれたんだ。それが本当に申し訳なくて。……でも彼は嫌な顔一つしなかった。『教会ではチビが多かったから、こんなのしょっちゅうでしたよ』って笑ってくれたんだ」
「へぇ。いいお兄さんだ」
「ああ。だから次の日からくっ付いても嘔吐えずかなくなったんだ」

 グレンがアンフェールを手招きする。膝に乗る様に示されたので、アンフェールは彼の膝の上にちょこんと座った。

「こういう体勢でね、背中とお腹をくっつける感じで、後ろからして貰ったんだ。私は、こういった最中の顔を見られるのがずっと嫌で……閨係はそれを知っていたから、この姿勢でしてくれたんだ。これだと顔は見えないから」

 グレンがどういう姿勢で、そういう感じだったかを身振り手振りで教えてくれた。
 グレンの説明によると、どうやら閨係は上半身を脱ぐ形でベッドに座り、脚の間にグレンを座らせて、手技で処置をしたらしい。グレンは背中だけ服をめくる形で閨係にくっついたそうだ。
 閨係の人はグレンが苦手とする部分を上手に避けつつ、くっ付いてくれている。凄い気遣いの出来る人だと思う。
 アンフェールを育ててくれた年嵩の青年ロビンを思い出す。彼もそういう気遣いの人だった。

 しかし説明の身振り手振りの中で、アンフェールの性器の上に乗せられたグレンの手は、ずっと乗っかったままだ。指摘した方がいいのか何なのか。

(子孫の可愛い手であるし、触られても別に構わないのだが、勃つしな。
 グレングリーズとの子孫をそういう目で見るのは、と思っていたが『魔力循環』で見せた顔は存外良かった。まぁ触り合い程度の遊び・・ならば問題あるまい。竜種であれば皆嗜む事だ。それに達する姿を見せる約束もしているし。
 ……そういった遊びは寝室の方がいいな。私はどこでもいいがグレンは赤ちゃんだ。ベッド以外では嫌がるだろう)

 アンフェールが脳内で舌なめずりしている内に、グレンは色々エピソードを話してくれた。

「閨係の人はグレンの事を大事にしてくれてるんだね」
「そうだな。あれから一週間ではあるが毎夜して貰っている。……その、閨での会話も出来るようになった。今までは恥ずかしくてすぐに帰って貰ってたから……」
「そっかぁ」

 会話というのも、閨係が後ろからグレンの耳元で言う『可愛らしいですね』だの『上手にいけましたね』だのの声掛けが八割らしい。 今まではそれすらも拒否していたらしいので、一応大きな進歩ではある。
 日中、神父として側にいる閨係とは普通に話せるのだそうだ。閨になるとからっきしだったらしい。
 グレンの『自己肯定感低すぎ問題』があるので、閨係には彼を褒めに褒めまくっていただきたい。

 とはいえ、知らない人間がグレンを可愛がっている事を考えると、アンフェールはちょっとだけ妬けちゃうのだ。
 子孫を独り占めしたい祖父心かもしれない。

「ねぇグレン、戦果は分かったから、ぼくのおまたからお手々をどけて? ぼくも大きくなっちゃうよ?」
「……っ! すまない」

 グレンは慌てて、アンフェールの股間に乗っけていた手をどける。
 アンフェールはグレンの膝からぴょんと飛び降りると、くるりと振り返った。
 腰低めの体勢から彼を見上げ、無邪気さを演出して笑う。


「ふふ。グレンの魔力の流れを確認したいな。寝室に行こうね」


 アンフェールが誘うように語り掛けると、グレンは頬を染めて、コクリと頷いた。
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