エンシェントドラゴンは隠れ住みたい

冬之ゆたんぽ

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エピローグ――エンシェントドラゴンは番と××する

アンフェールとグレンの結婚

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 荘厳な彫り物が施された尖頭型のアーチ扉が開く。
 王城の大聖堂は天井がものすごく高い。それこそ、頭をぐんと上げて見上げないといけない位に。天井まで優美な装飾が成されているし、ステンドグラスは竜を描いたもので、とても美しい。
 普段ならひっくり返りそうな程見上げて、グレンに「ひっくり返りそう」と支えられている所だろう。

 しかし今のアンフェールはそんな事はしない。
 なぜなら頭に飾り物を乗せられているからだ。
 隣には立派な衣装を纏ったグレンがいて、アンフェールに手を差し伸べてくれている。
 アンフェールはその手に手を乗せる。エスコートされて、しずしずと歩いていく。


 アンフェールとグレンの結婚式だ。


 アンフェールは十六歳になった。
 身長はやはり止まってしまって、男性として低い訳じゃないけれど立派でもない、という微妙な所に落ち着いてしまった。

 好みの服装がこれからもずっと着せられると、衣装係は大喜びだ。
 そして婚礼衣装は彼のパッションが爆発したようで、ほぼ新婦にしか見えないような物を作られてしまった。
 フリフリにフリフリを重ね、フリフリである。
 所々入っているバラの意匠はマイアサウラの作った品種を元にしているようだ。これを入れられたらアンフェールは嫌とは言えない。
 側仕え達もギュンターも似合っているとしか言わない。グレンに見せたら「……衣装係の給与を引き上げないといけない」と呟いていた。

(……まぁ、かろうじてパンツスタイルは死守したのだ。私は頑張った)

 一歩間違えばスカートを履かされるところだった。危なかった。




 参列席の間。真っ直ぐに伸びた赤絨毯。
 視線はやはりアンフェールの方に注がれている。凄い熱視線だ。最後の竜種であるから珍しいのだろう。
 アンフェールだって世界に一匹しかいない生き物がいたら、すごく観察するから理解できる。

 各国の要人が来ている大聖堂は広いのに満席だ。だから失敗は許されない。
 アンフェールはグレンの立派な伴侶であり、素晴らしい竜であると覚えて国に帰って貰わないといけない。
 これはグレンの立場を盤石にする為の、政治イベントなのだ。

 主祭壇には大司教。
 その両脇にいつもの黒いカソックではなく、白い装いのロビンとエドワードが立っている。肩から掛けた長い飾り帯――ストラは赤色で、金糸の刺繍が細かく入っていて華やかだ。
 二人は緊張感がありつつも、子供の結婚を見守る両親のような雰囲気でいる。
 そんな姿を見ると、アンフェールは緊張が和らぎ、安心するのだ。

 アンフェールとグレンは主祭壇に前で歩みを止めた。

 大司教は神に祈り、それから聖典を開いて語る。
 彼の謳う言葉はこの国の宗教に基づいた言葉だ。聖典から寿ぐに相応しい逸話を引用している。そこに、竜の空に対する信仰も話として織り交ぜてくれている。
 この国の建国に竜が関わっている分、その辺は柔軟なようだ。あと各国の要人に、竜種との婚姻を強くアピールしたいんだろう。


「天界の門をくぐるその時まで、我が伴侶アンフェールに愛を誓う」

「蒼天に魂が昇り行く時まで、我が伴侶グレングリーズに愛を誓う」


 ふたりは誓いの言葉を述べた。
 宗教上セリフが決まっているらしい。アンフェールの方も竜種としての生死感を取り入れて、合わせた形だ。
 グレンは予行練習の時に「天界の門なんて無かったけどね。魂が消滅するまで何度生まれ変わっても愛しているよ」と補足説明はしてくれている。


「神と精霊の名のもとに、ふたりの婚姻は成立しました」


 大司教の結婚宣言と共に、盛大な拍手が沸き起こる。大聖堂が揺れてるんじゃないかと思う位の拍手だ。
 ヴィシュニアの建国神話の再来なのだ。
 歴史を目撃する、という事は他国であってもやはり、感じる部分があるのだろう。



◇◇◇



 竜の谷から戻って二年。アンフェールはがむしゃらに働いた。
 街の復興だ。
 何かに熱中したかった。心の拠り所であった場所を失った悲しみを埋める様に、アンフェールはヴィシュニアを第二の故郷と定め、頑張ったのだ。

 街はとても綺麗になった。もう砲撃の痕跡はなく、むしろ元よりもピカピカしたものになっている。
 アンフェールとグレンが協力し、再生した街だ。
 勿論フェンリルや街のみんなもいっぱい頑張ってくれた。とても思い入れの深い街になったし、作業を通じて皆とも仲良くなれた。

 復興後と定めていた結婚式も、こうして早い時期に挙げることが出来た。

 式の後、民へのお披露目という事で、パレードがあった。
 オープン型の馬車に乗って眺める街はあちこちに大きな国旗が揺らめいていた。
 守護竜と賢王の婚姻という慶事だ。順路にはたくさんの人が待っていてくれた。手を振ってくれる面々にアンフェールは顔が綻んでしまう。

 種は違えども、仲間だ。
 祝福されるのがとても嬉しい。
 アンフェールは大きく手を振り、皆の祝う気持ちに応えた。




 一日随分動いたけれど、そこは竜種。頑丈に出来ている。パレード戻りで一時間程度仮眠を取ったら元気になってしまった。
 本日のイベントはまだ終わっていない。

 初夜だ。
 アンフェールは湯浴みを済ませ、自室で待機している。物凄く落ち着かない。

 落ち着かない理由は着ているものにある。
 衣装係が渾身の作だと言って準備してくれた初夜の寝間着と下着だ。両方、色に白をチョイスしているのは清純さをアピールする為だろうか。
 寝間着は前留めのヒラヒラだ。
 一見、天使か女神かといった風に見えるけれど、よくよく見ると僅かに透けている。勿論品位を損ねない程度に。
 健全な目線で見れば宗教画のよう、というラインの衣装であるが、邪な目線で見れば至極官能的だ。肌と下着の境目は元より、胸先の位置まで分かってしまう。

 下着は局部を隠す布が少ないし薄い。
 とはいえデザインはこちらも上品だ。ひらひらとした飾りは天使の腰巻のようにも見える。
 女性用かと思ったけれど、履けば男性の部分が収まる様な造りになっていた。
 それでもギリギリ収まる位だ。勃起してしまえばいくら可愛らしい造りのアンフェールのものだって、下着から顔を出してしまうだろう。
 お尻の方は、飾り布の下の当て布が紐状になっていて、ヒップラインが丸見えになっている。
 ここ二年、慣らされた後孔はとても感度が良い。紐が食い込んでいるだけで、何もしてないのにゾワゾワしてしまう。

 ゾワゾワして、落ち着かないのだ。

(この衣装は閨で興奮を煽る為のものなのだ。そう言ったものを着て濡らしてしまうなんて、いやらしいと思われてしまうだろうか……)

 アンフェールは濡れていた。
 仕方ない。肌触りの良い布が、食い込んでお尻を刺激するのだ。
 アンフェールは自身を苛む官能に、熱っぽく溜息をつく。

 ノックがあり、遅れて湯浴みを済ませてきたグレンが入室して来た。グレンは普通に上品でシックなガウンを着ている。
 なぜ、アンフェールだけがこんな閨着のような衣装を準備されているのか。
 アンフェールは恥ずかしくなって、猛スピードで掛布団に潜り込んだ。グレンからアンフェールの姿は見えていなかったろう。

「遅くなってごめんね」
「いや。だいじょうぶ……」

 アンフェールはもごもごと返事をする。ほっぺが熱々なのは潜っているおかげで隠せている。
 グレンはベッドに腰かけ、膨らんだ掛布団をぽふんと叩いた。

「どうして隠れているの?」
「格好が、はずかしいんだ」
「どのみち見るけれど」
「うう……」

 掛け布団ごしに無慈悲な言葉が掛けられる。
 見られてしまう、と思ったらアンフェールはふるりと震えた。想像で感じてしまったのだ。

「出ておいで、アンフェール。それとも、布団を剥かれる方が好み?」

 アンフェールは仕方なく、掛布団からぴょこりと頭を出す。その瞬間、秒で掛布団は取っ払われてしまった。再籠城防止措置のようだ。
 グレンはこちらをじっと見つめている。
 仰向けに寝そべるアンフェールはもじもじと両手で胸元を隠している。しょっちゅう全裸は見られているはずなのに、どうしてこんなに恥ずかしいのか。
 隠す方が変だと分かっているけれど、見られてしまうのには抵抗がある。

「可愛いし、とても綺麗だ」
「おかしくない?」
「ああ、似合っているよ。衣装係はよい仕事をする」

 チャリンチャリンと、衣装係にボーナスが出る音が聞こえた気がした。グレンは仕事の出来るものには対価を惜しまないのだ。
 アンフェールの手の上にグレンの手が重なる。胸を隠している手だ。

「アンフェール、この手はなに?」
「むねが、はずかしくて」
「見せて」
「うう……」

 アンフェールは渋々腕をどかす。
 せめてもの抵抗と言った感じに、アンフェールは顔を反らす。羞恥で、こちらを見るグレンの顔を正視出来ない。
 でも見なくても分かる位、じりじりとした視線を肌で感じる。熱っぽい欲を感じる視線だ。初夜のデコレーションを上から下まで楽しまれている。

「も、もういい?」
「何が?」
「脱いでいい? 脱いだ方が、はずかしくないんだ」

 アンフェールは顔をポカポカさせながら、逃げの提案を試みた。全裸は慣れているから平気なのだ。
 グレンは困ったように眉尻を下げている。

「折角仕立ててくれた初夜の為の装いなのだから、もう少し着ていよう?」

 アンフェールは「うっ」となる。そう言われると弱い。
 せっかく作って貰ったものを、恥ずかしいという理由で無かったことにするのは失礼だろう。

「……わかった」

 アンフェールはぼそぼそと了承の言葉を口にした。

「伴侶として、きみを愛する初めての夜だ。優しくする」

 グレンは柔らかく微笑んで、アンフェールの頬をするりと撫でてくれた。


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