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003 推薦

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彼が教室に入った頃には、他の生徒は揃っていた。肩を上げ、吊り上がった面持ちで背もたれに頼ることなく座る、メガネを掛けた男もいれば、肌を黒く焼き、長い爪をそれぞれ違う明るい色に塗りたくり、最早顔面の原型すらもわからないようなメイクを施した女、更にはふんぞり帰っていびきを鳴らす男もいる。

唯一空いていた一番後ろの端から一個手前の席に座り、彼は背筋を伸ばした。

「ねーまだー?」

教室の彼とは反対の端から声がした。

「ギャルって時間ないんだよおー」

手足をジタバタさせる彼女に、また違う端の男が立ち上がる。

「うるさいな。入学式くらい静かにできないか。」

彼女を指差すと、はあ?、と負けじと睨みをきかせる。

小競り合いが始まると、周囲に、それを笑って見るものや助長するもの、止めようとするものが現れ、また一段と騒々しくなった。

「あーもう。うるせえ。」

特に大きな声というわけではないが、非常に威圧感の孕んだ声が、それをきっぱりと止めた。

「こっちはあの儀式に疲れてんだよ。ちょっと位寝かせろや。」

最前列からのその声で、眼鏡の男もそれ以上は何も言えず元通りに座ってしまい、ギャルの女も涙袋を下方に引っ張り、舌を出しただけで、静まってしまった。

教室に、いびきだけが響く中、勢いよく扉が開く。

途端に明るくなるギャルの表情。より引き締まる眼鏡の姿勢。最前の男も目を擦る。

しかし扉に立っていたのは、浮浪者のような、清潔感のない華奢な男だった。

生徒たちも、それぞれ男の身なりの悪口を始める。

男は曲がった背中で教卓の上まで歩を進めると、生徒を見回して、息を吐いた。

「おはよう。」

確かに声量は無に等しかった。しかし彼の声には、心を戦かせる何かがあった。

「入学おめでとう。」

全員が固唾をのんでその小さな言葉に聞き入った。

「担任のメイヤー・ジルサンダーだ。よろしく。」

にやりと笑うメイヤーに、最前の男が堰を切る。

「帰っていい?」

足を机上に上げるふんぞり返った態度に、一同が感じた焦燥にメイヤーが水を差す。

「面白いやつだなお前。名前は?」

メイヤーは、彼の元まで寄ると、彼の肩に手をかける。

「勝手に触んなよ」

彼が睨んだ目線の先で、メイヤーは更に笑う。

「だから触んなよ」

増していく憤怒と悦楽。

「やめろって言ってるだろ!!」

机上に上がっていた足の裏に力を入れ、上半身を机上に乗せる。右手を机上に続けて乗せ、それを中心にメイヤーに蹴りを入れr

「な…」

メイヤーは遠心力を利用した重い蹴りを首で受け止めると、肩に手をかけていた手と逆の手を彼の足にかけ、そのまま地面に叩きつけた。

息の詰まる彼に、メイヤーは浮かべた笑みを沈めない。

「『推薦』もこんなもんか。もっと骨のあるやつが来ると思ってたんだけどな。」

メイヤーは、のろのろと教卓へと戻ると、生徒を見て、放つ。

「改めてよろしく『推薦』組。担任のメイヤー・ジルサンダーだ。」

もう誰も話さなかった。
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