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第四章―苛立ちと悲しみ―
4−5・素朴と言う神
しおりを挟む―――ムルーブの街―――
魔物の襲撃を受け、壊滅的な被害が出てしまったムルーブの街。そしてトウヤの名を持つチホさんも、御本尊のキシボジンを守ろうとして息絶えていた。
チホさんが守ろうとしていたキシボジン像も燃えてしまい、寺院もほぼ焼け落ちていた。そしてクルミがキシボジン像の裏に地下への階段を見つける――
「ここが一番奥の部屋にゃ……」
カチャ……
地下の部屋は被害を免れ、そのままの状態で残っていた。その部屋を開けるとそこは……宝物庫だった。
「何と言うことでしょう……」
「匠……いや、ミーサ。僕も昨日見つけて驚いた。チホさんはこの宝物庫を守ろうとしたのかもしれない。クルミのおかげだ」
「えへへへ」
キシボジン像の裏、一見わからないようにして隠し扉があったのだ。すべてが燃え落ちたからこそ、見つけれたのかもしれない。
「魔法陣……があるわね」
「あぁ、まだ調べてはないが、転送の魔法陣と似ている」
「どこへ繋がっているのかしら……」
「これだけでは判断がつかないな」
「そうね、魔法陣は後で調べるとして他は……」
手当たり次第、物色を始める。金品が欲しいわけではない。歴史的な何かがあればと思ったのだ。
「にゃにゃにゃ!!小判にゃ!」
「おいおいクルミ、猫に小判、ってそんなありきたりな冗談――」
クルミの方を振り向くと同時に腰が抜けそうになる!
「サメッ!?」
「小判ザメにゃ!!」
「ちょ!クルミ!こっちに向けるなっ!!」
「ご主人様!パスにゃっ!!」
「やめぇぇぇ……あぁぁぁぁ……」
ガッシャーン!!
「いててて……」
小判ザメを抱っこしたままひっくり返る僕……
「ご、ごめんなさいにゃ!大丈夫ですにゃ!!」
「桃矢様!お怪我はないですか!」
慌てて駆け寄るクルミとミーサ。
「あぁ……大丈……」
スンッ!
「あっ……消えた……え。桃矢様っ!?」
「ごしゅじんざまぁぁぁぁぁ!!」
僕はあろうことか、小判ザメを抱っこしたまま未知の魔法陣に乗ってしまっていた――
◆◇◆◇◆
ボコボコボコ……
あぁ……青い海……綺麗な珊瑚。美しい。心が洗われるようだ。僕はそうだ。人魚になり、この広い海を自由に生きていくんだ。あっ、小判ザメくんさようなら、元気で頑張れよ――
「ボコボコボコッ!!」
ここはどこだ……足元に魔法陣が見える。海の底のようだが……人魚で良かった。これだけ海流が速いと一気に流されてしまいそうだ。そのまま浮上し海面に上がる。
浮上したすぐ目の前に小島が見え、そのまま近付く。人の声?が聞こえる。小島の周りには他に何もない。船で来たのだろうか。
「おい、警備交代だ」
「はっ!ご苦労様でした!」
上官と部下らしき人の声がする。
「エルバルト城に帰ったら、キザ大臣にこれを渡しておいてくれ」
「はっ!わかりました!」
しばらくして、船のエンジン音が聞こえ徐々に遠ざかっていく。それを聞きながら、僕は一旦ムルーブへと戻った。
―――ムルーブ地下宝物庫―――
ブゥン……
「ただいまぁ」
「うっわ!ごしゅじんたまっ!」
「桃矢様!ご無事で!」
「あぁ、大丈夫だ」
「びしょびしょじゃないですか!クルミさん、お風呂の準備を!」
「はいにゃ!先に行ってるにゃ!」
クルミは駆け足で階段を登っていく。
「桃矢様、行きましょう」
「ミーサ、聞いてくれ。この魔法陣の向こうには――」
僕は今見てきた小島の話をした。
「なんですって!魔法陣の先には、大島が……」
「大島じゃねぇよ!小島だよっ!」
「と、桃矢様!?すみませんすみません!冗談を言ってる場合じゃありませんでした」
「はっ!つい……いや、いいんだ。そんな君も好き……」
「え?桃矢様?今、好きって……」
「ミーサ……」
なぜか小島のくだりからちょっと良い雰囲気になって、ミーサと顔が近付く……
パキッ……
「桃矢様……こんな所で……いけませんわ……」
「ミーサ……君が魅力的だからいけないんだ……」
「いやですわ……桃矢様……」
「――ぬ。契約するノカ?」
「ミーサ……婚約はまだ出来ないが……」
「――ぬ。契約しないノカ?」
「桃矢様、私はいつでも心の準備は出来ております」
「――ぬ。ややこしいのぉ。どっちじゃ?」
「僕はまだやらないといけないことがあるんだ」
「――ぬ。なら契約でいいんじゃナ?」
「そんな桃矢様……じらさないで下さい……」
「ミーサ……僕も我慢できな……え?今、何か聞こえ――」
「――ぬ。わしか?死神じゃ。契約は済んダゾ。フフフ」
「……キャァァァァァァァァ!!」
ミーサの叫び声が右耳から聞こえ、死神の不気味な笑い声が左耳から聞こえた。
―――クルミのおうち―――
ザパァァン……
「はぁ……極楽極楽」
「Haaa……ヘブンヘブン」
「ごちゅじんたまぁ!お着替え置いとくにゃ!」
「クルミありがとう!」
「ぬ。くるしゅうない」
「どういたましてにゃ!……はにゃ?」
僕はクルミの住まいでお風呂を借りた。
「……なぜお前までお風呂に入っている」
「ぬ?わしのことか?」
「他に誰がいる……」
「ぬ。わしの名は死神ノア。かつて……」
「聞いてない。なぜお風呂に一緒に入っているんだ?」
「ぬ。お主、死神の話はちゃんと聞いた方が良いぞ」
「やかましい」
向かい合わせで、女の子がお風呂に入っている。ただ、目が三つあり、体には入墨があり、かわいいお顔立ち以外の不審者丸出しだ。そして態度がでかい。
「ぬ。お主はジョナサンの魂と……ほぅ、人魚の血まで混ざっているのか」
「なっ!?わかるのか」
「ぬ。顔立ちがジョナサンにクリソツで、さっきは足が魚じゃったからな」
「見た目かい」
「ぬ。かわいそうに。そんな素朴なモノまで装備して――」
「やかましい」
「ぬ」
死神ノアが付きまとう日々が始まったのだった。
カポーン
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