異世界おにぃたん漫遊記

雑魚ぴぃ

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第八章―赤蛇様―

8−2・赤い蛇

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―――鬼の里―――

「皆、準備はいいか?」
「はい……しかし、本当によろしいのですか?」
「あぁ、違ってたら謝る」

 桃矢達は、サユキに聞いた情報を頼りに鬼の里に戻って来ていた。眠ったままのサユキは荷馬車に乗せ、鬼の里で面倒を見ることにした。

「おぉ、桃矢殿お戻りか?成果はあったのかぇ」
「サクラさん帰りました。実はお話があって……」
「……!?何だって……桃矢殿、それは……」
「あぁ、真意はわからないが……」
「わかった。協力しよう」

サクラと打ち合わせをし、準備を始める桃矢達。

「あっ!桃矢くんおかえりなさい!」

すると陽子が桃矢達を見つけ、廊下の向こうからやってくる。

「陽子先輩、ただいま。僕達が留守の間に……誰も傷つけていませんか?」
「ん?どういうこ――」
「かかれっ!!」

桃矢の号令で廊下横の部屋からいっせいに鬼達が陽子めがけて飛びかかる!!

「クッ!!」

身をひるがえし、庭へと降り立つ陽子。

「と、桃矢くん!どういう事!やめさせて!」
「しらばっくれるな!!サユキを殺し、幼子まで殺した事はわかっている!陽子先輩……いや、鬼斬丸!!」
「……ふっ」

観念したのか、陽子が鼻で笑った様に見えた。

「半分正解で……半分不正解っ!!」
「逃がすなっ!!」
「うぉぉぉぉ!!」

鬼達が陽子を追うが、あっという間に跳躍し天高く舞い上がる。

「ちっ!!跳躍っ!!」

桃矢も陽子を追いかけ、跳躍するが一歩及ばず屋敷から飛んで行ってしまった。

「桃矢殿!!陽子殿は!!」
「サクラさん、すまない。取り逃がした……」
「やはり鬼斬丸は陽子殿……と言う事でしたか」
「あぁ、半分正解半分不正解……と言っていた。どういう意味だ……?サクラさん、陽子先輩の部屋を調べてくれ。手がかりを探すんだ」
「はいっ!すぐに!」

それから陽子先輩の部屋を隅々まで探して見つけたのが……

「ぬ……アドヴァンの写真だけか……」
「あぁ……」

くしゃ……

「サユキさんの元々の肉体を殺し、一緒にいた幼子まで殺した。僕らの知らない間にこっちの世界を行き来していたのか……」
「ぬ……そうみたいじゃな。しかし死者の泉で我らを襲ったのは陽子ではない。鬼斬丸を名乗る者が他にもおる……」
「みたいだねっと。あの時、感じた気配はあのおなごの気配ではなかったっと……でも幽体の時に消滅させとけば良かったな」
「ぬ……そうじゃな。桃矢の意識があるうちに気付くべきじゃっ……ん?」
「おっす。おいらタケミカヅチっと」
「ぬぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

ノアが聞いたことない悲鳴をあげた。

「ノアでもびっくりするんだ。僕もびっくりしたけども……」
「ぬっくりするわいっ!!タケオ!!急に出てくるなしっ!!」
「はははっと!おなごが空を飛んでたのが見えたから気になって寄ってみたんだよっと!」

 この者は、タケミカヅチ神。通称タケオ。古くからのノアの同僚で死の番人をしていた事もある。

「ここに来る前にっと。東の国で妙な噂を聞いたんだ」
「噂?タケオ様、その噂とは?」
「……鬼斬丸の目的は赤蛇の復活。その為に死者の泉で何か良からぬ事をしていた――っと」
「赤蛇……」
「ぬ……赤蛇とは別名、災害の双竜と呼ばれる。あやつはこの地で眠っておるのか……」
「そうみたいだねっと。死者の泉の辺りでは千年に一度災害が起きる……それがもう近いんだなっと」
「ぬ……太郎の目的はまさか赤蛇の復活だったのか。赤蛇を従えれば、この世界と言わずエスポワールすら簡単に手中にできる」
「いいや、もっとえげつない事が起きたかもしれないっと。鬼が蛇を食った場合……化け物が生まれるっと」
「それじゃ太郎は赤蛇を復活させて、食うつもりだった……と?」
「それが大災害だったかもしれぬがよ、お主らが太郎を倒すとは夢にも思ってなかっただろうよっと」

 鬼斬丸――その一団はそれでも赤蛇を復活させるべく行動を続けているのだという。アドヴァン、太郎がいなくなった今、新たな崇拝できる何かを手に入れたいのだろう。

「桃矢様、一つよろしいでしょうか。鬼の里にも古くからの言い伝えがあり『赤の蛇の怒りは鬼斬丸が沈めた』とあります。これはどういう事でしょうか」
「え?サクラさん、鬼斬丸は赤の蛇を復活させようとしてるのに、怒りを沈める?矛盾していないか」
「わかりません。しかし……」
「ゴシュジンタマーオカエリメシー!オニギリムスンダーメイヲタベテー!!」
「メイ様!!廊下を走ると危のう御座います!」
「ダイジョービーヘイキヘイキーゴシュジ……アッ」

ガッシャッン!!
ゴン!!

メイが廊下の段差につまづき、顔面から廊下につっぷした。

「ほら!言ったじゃありませんか!もう!おにぎりが……」
「ぬ……おにぎり……?どこかでそんな名を……」
「ノア……同じ事を考えてた……いたよな?おにぎり……」
「ぬぅ……おそらく鬼斬丸ではなく、おにぎり丸が赤い蛇の怒りを沈める……」
「桃矢様、ノア様、どういう事ですか?」
「サクラーオニギリタベテーオニギリー!モグモグ!オイシイ!!」
「メイ様!落としたおにぎりを食べないで下さい!」
「オニギリオイシイー!」
「……カランデクルの街で、おにぎり丸の一行という名の宿を取ってる者達がいた。たぶんそいつらの事だ」
「桃矢様、おにぎり丸ですか。鬼斬丸とどういった関係なのでしょう?似たようなお名前ですが……」
「他に手がかりも無いし、一度会いに行って――」
「メイモイクー!!オニギリマルタベルー!!」
「話は決まったよっと。おいらは先に行っとく!よっと!」

バチバチバチッ!!

激しく閃光し、タケミカヅチはいなくなった。

――翌日。

 サユキを鬼の里に預け、再度カランデクルの街へと向かう。荷馬車に野宿出来そうな道具も積み込み出立した。

「ピクニック!ピクニック!」
「メイッ!先に行くな!また転ぶぞ!」
「ダイジョダイジョ!!ゴシュジンタマーハヤ――」
「まったく……」
「ぬ?桃矢、お主肩に何かついて……」
「あっお構いなく」

そう、答えたソレは桃矢の肩から生えていた。
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