ふための少女

ざこぴぃ。

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ふための少女

第13話・覚悟

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 霧川いつき、霧川ゆいかの双子には、もう1人の姉妹がいる事が分かった。
 それは父親違いの養女……霧川無子なしこ
 そしてその無子はあろう事か、ゆいかを手に掛けようとした。

 ――8月8日。霧川家地下室。
「猿渡、無子はいたか?」
「いいえ……屋敷周辺の森を散策しましたがどこにも……」
「うぅむ、無子は一体全体、何が目的なのじゃ」
「ゆいかさん、その無子さんが2人の命を狙うとすればやはり後継者と言うか、当主の座……なのでは無いのか?」
「いやそれではあまりに単純な回答じゃ。姉さんが地下で病気の治療をしている事は知っておるが、姉さんにはまだ手を出さぬ。何か違う狙いがあると読んでおるのじゃが……。それよりメアリーに聞いたのじゃが、お主はメアリーと同じで未来を知っておるそうじゃの」
「僕が未来で見た話では……え?メアリーさんも?」
 そうか、これで納得出来た。いつきにはメアリー、ゆいかには猿渡が付き人として仕えている。しかしあまりに力量に差があると思っていた。
「私の名はメアリー!あの日とこの日を繋ぐ者。壁に耳有り、障子にメアリー……ナンチャッ――」
「メアリーも知っておるのじゃよ。そもそも姉さんの体がもう長く持たぬ事も……」
「そうなのか。それなら話は早い。今日の午後、霧の湖に無子さんは必ず現れる。そして――」
「こほこほ!千家さん、それは本当なのですか!」
「はい……僕が見たのはたぶんいつきさんに変装した無子さん……」
「変装……なるほどの。年下とは言え、見た目で言えば姉さんにそっくりじゃ。少し変装すれば他人にはわからぬであろう」
「無子……こほこほ」
「姉さん無理をするな。横になるが良い」
 ゆいかがいつきを横にさせ、手を握る。
「この霧の湖一帯に出る濃霧は、ふための水晶による一種の呪いなのじゃよ。この世界の中におれば、姉さんの病気の進行は遅くはなる。そしてわしらとてこの状態のまま生きていけよう。万が一、水晶が割れてしまう様な事があらば姉さん、あるいはわしとてただでは済まぬであろう。本来の時間の流れに逆らっておるのじゃ……それ相当の力がかかるじゃろうのぉ……」
「それでいつきさんとゆいかさんは、念の為に別々に保管していたのか……」
「うむ。そして水晶が割れ、霧が晴れる時、少なからずあやつも影響を受けるはずじゃ……」
「でもそれじゃ、彼女がふための水晶を集める意味がわから……ちょっと待て」
 今、僕の頭の中で何かが繋がった。
「千草……?まさか無子さんは妹の体を狙って!?」
「そうか!はるとよ!それじゃ!ふための水晶が元に戻る時、魂の置換が行われると聞いた事がある!そなたの妹の肉体に入れば、霧が晴れたとて生きていける……!」
「ごほごほ……そうなのね。千家さんの妹さんが狙い……」
「あぁ……それだと納得がいく……」
「そうじゃな。ふための水晶を合わせる事で妹君の体を乗っ取り、そして水晶を割り、わしと姉さんを消してしまえば……」
「千草として、何事も無かったかの様に知らぬ顔をして生きていける……」

 千草の話だと8月9日に無子に会っている。しかし8日の地震で霧の湖の洞窟で生き埋めになり……そして50年後に2つの白骨が見つかった。
「待てよ……あれは本当に無子さんと与一さんだったのか……?」
「どうしたのじゃ?はるとよ、難しい顔をして……」
「いや……ゆいかさん。今日の午後、時間はありますか?」
「えっ!きゅ、急になんじゃ!で、でぇぇえとの誘いなら……こ、断らんでもないが!」
「えぇぇ!ゆいか様デートするんでスカ!!誰でスカ!相手ハ!」
「ば、ばか!メアリー!そそそんな事は言えぬわ!」
「2人共、違うよ」
 全てが分かったわけではない。しかし、無子が生きていたのは間違いない。あの手紙で読んだ白骨の2人はいったい――。

 ――午後。
 僕は1人、16時に起こるであろう地震の1時間程前に霧の湖へとやって来た。
 この日、ゆいかと猿渡は別日から接触してくる。そして、洞窟前で与一と口論になるはずだ。
 僕はあの日、後悔した事を思い出し意を決して狭い洞窟に身を乗り出した。
「せ、狭い……!」
 この狭さでは与一の体格では入るのは難しいだろう。
「くぅ……もう少し!」
 僕は腰をひねりながら、ほふく前進で洞窟内へと入って行く。
「ふぅふぅ……んっ!」
 一番狭い通路を抜けると、洞窟内は広く天井付近から光が差していた。
「そうか、崩れる前は吹き抜けになっていたのか」
 天井からの光を頼りに洞窟内を調べて周る。
「あった……。やはりそうだったのか」
 洞窟内には1枚の扉があり、その横には小さな祠とお墓であろう墓標があった。
 僕は、泥だらけの手を服でぬぐい、お墓の手を合わせる。
「安らかにお眠り下さい……」
 手を合わせ終わると、扉を開けた。そして暗い通路を手探りで歩いて行く。
 通路は人工物だろう。コンクリートで硬められ、木材で補強が入れてある。仮に地震が来てもこの通路は大丈夫そうだ。
 30分程歩いただろうか。
「まぶし……」
 その隠し通路は旅館百鶴の裏にある洞穴へと出れた。
「こんな所に出るのか」
 洞穴は一見シダが生い茂り、外からはわかりにくい。そして洞窟内の通路は、恐らく防空壕として戦時中に作られたものだろう。
 ――それからしばらくすると、地鳴りが聞こえ地震が起きた。時刻は16時過ぎ……旅館も音を立て、ギシギシと揺れている。
 16時30分……洞穴の前で待っていると、ようやくその人物が姿を現す。
「待っていたよ……無子さん」
「あなたはっ!?さっき洞窟の外にいた……!」
「あぁ……それはたぶん――」
「……」
 僕から距離を取るように、無子は身構える。
「屋敷に行こうとしても無駄だよ。いつきさんは屋敷にはいない。メアリーさんに別の場所にかくまってもらってる。それに与一さんも今頃はゆいかさん達に……」
「おのれぇぇ!きさまぁぁ!」
 いつきと同じ容姿で、すごられると少々びっくりする。見た目はそっくりだが、性格は完全に別人だ。
「無子さん。どうしていつきさんとゆいかさんを殺そうとするんですか?もうやめませんか?」
「くっ……!」
 無子は僕の方を見たまま腰に手を回し……そしてあろう事か、小刀を抜く。
「へ……?ちょ!ちょっと無子さん!それは聞いてないですって!落ち着いて!一旦、落ち着いて!」
「黙れ!元はと言えば、父が母に手を出さなければ私は苦しむ事などなく――!死ねぇぇ!!」
「いっ!?ちょ!あぶなっ!危ないって!」
 無子は小刀を振り回し、僕の方へと近付いて来る。背後は旅館の壁だ。このまま下がればいずれ捕まってしまう。
 その時、旅館の上から声がした!
「そこまでよ!無子さん!」
「え?千草!?お前……!」
 旅館の2階の窓から身を乗り出し、千草が手に何かを持っている。
「おい!お前!やめろっ!それは!!」
 無子は慌てて、僕の横をすり抜け旅館の下へと走る。
「さようなら、無子さん……」
 そう言うと千草は手を振り上げ、ふための水晶を地面へと投げつけた!
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
 無子が悲鳴を上げながら走るが、水晶が地面に落ちる速度が勝さる!
 あれは屋敷に祀ってあった水晶だろうか、それとも湖の祠に祀ってあった水晶だろうか?何にせよ、水晶が割れる事で霧が晴れ、無子も少なからず影響が出るはずだ。しかしそれは同時に、いつきかゆいかにも……。

 無子の手が届くよりも早く、水晶は地面へと叩きつけられた!
 ――ドスンッ!
「へ?」
 千草がすっとんきょうな声を上げる。
「は?」
「フフフ……!」
 水晶が地面に叩きつけられ、パリーンとかガシャーンとか、そういうのをイメージしていた。しかし思わぬ硬い水晶は、割れる事なく地面の上に無事着地したのだ。恐らく地面も湿っていて、勢いを殺してしまったのだろう。
 無子は笑みを浮かべながら、ふための水晶を拾い上げた。
「い、今よ!お兄ちゃん!無子さんを抑えて!」
「あ、あぁ!助かった!千草!」
 結果はどうあれ、僕は無子の後ろから覆い被さる様に飛びかかる!
「さようならはお前の方だっ!」
 無子は振り向きざまに小刀を僕の喉をめがけて突き刺しにきた!
「ちょっ!あぶなっ!」
 飛び掛かってしまい、勢いが止まらない!僕は自ら無子が持つ小刀めがけて、向かっていく。
「死ねぇぇ!!」
「え!お兄ちゃんっ!?」
 頭上から千草の声がする。終わった……こんな所で格好つけたりするから。

 ――僕は自分の最後を悟り、ゆっくりと目をつむった。 
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