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第二章〜世界のほころび〜
第14話・オタタリ様
しおりを挟む緑、青、金、橙の宝玉を手に入れた春樹達。残りは赤、黄、紫、銀の宝玉だ。
今回は紫の宝玉を探して、紫色の扉を開ける。いよいよポイントも少なくなりこの辺りで宝玉を見つけないと危うい雰囲気になってきた。
「行くぞ」
ガチャ……キィィィ……。
春樹は紫色の扉を開けた。
「ハルくん……ここは……?」
「あぁ……看板があるな、行ってみよう」
目の前にはうっそうとした森が広がる。中央には遊歩道の様な道があり看板が立っている。
入口の右手には古びたコテージがある。休憩所だろうか。
「ご主人様……嫌な予感がしますね」
「メリーの言う通りかもな」
「千鶴、ここって」
「凛、ここは富士の……」
『カァァ!カァァ!カァァ!』
突然、森の中でカラスが鳴き始める。
【富士の樹海・許可の無い者の立ち入りを禁ず】
「――立ち入りを禁ずか。まさか富士の樹海に繋がるとはな。雑誌ミーでしか見たことない」
「薄気味悪いわね……それに何だか寒い」
「春樹君、ごめん!私、ここで留守番しとく!お化け屋敷とか苦手なの!」
「凛、わかった。一人では危ないから……」
「ハルくん……私も……待ってようかなぁ……はは……」
千鶴も引きつった顔で言う。千鶴と凛はコテージと周辺の探索をし、春樹とメリーが樹海へと足を踏み入れる。
「ハルくん!周辺調べたら一旦帰ってるからね!」
「あぁ、千鶴と凛も気を付けて!」
一歩森へ入ると、薄暗くジメジメしている。遊歩道が無ければ非常に歩きにくいだろう。
遊歩道の両脇からは草が生え、道幅が狭く感じる。
「メリー、何かあればすぐ教えてくれ」
「はい、ご主人様」
『へい、合点承知の助』
「ん?何か言ったか?」
「え?ご主人様?私は何も言ってませんが」
「そうか」
しばらく二人は沈黙したまま歩く。森の奥に行くに連れ気温は下がり、肌寒くなってきた。
「長袖にすれば良かったな」
「そうですねぇ」
『せやかてあんさん』
「ん?メリー、今何か言ったか?」
「いえ、私は何も……」
「そうか」
『なんでやねん』
「え?ご主人様、今何か?」
「いや、俺は何も……」
二人は辺りを見回すが誰もいない。
「空耳か」
「そうですわね。きっとカラスですわ」
『やかましい。わいは天狗や』
「天狗!?今、天狗って聞こえた!」
「私も聞こえましたわ!ご主人様!上に!」
ぱたぱたぱた。子供の天狗が浮いている。何とも愛らしい。
「わいか?わいは子天狗のテトラや。よろしゅう」
「聞いてないんだが」
「かわいいですね」
「見た所、お主ら別の扉を通って来たのだな。よいよい。みなまで言うな」
「メリー、このちび。ちょっとイライラするんだが」
「そうですか?よく見たらかわいいですわよ。おいで」
「ふむ。くるしゅうない。わいを抱っこ出来ること、有り難く思うが良い」
そう言うとテトラはメリーの胸に飛び込んで来る。
「うむうむ、よきかなよきかな」
「うふふ。この子かわいいですわね。私の子供にしようかしら」
「メリーやめとけ。子天狗とは言え魔物なのだろう?」
「ぬ!わいは魔物ではない!この樹海を管理する大天狗の子供じゃ!」
「天狗て魔物じゃないのか?」
「どうなんでしょうねぇ。かわいいからどっちでも良いですけど」
「主は亡くなった母と同じ匂いがするのぉ。よきよき」
メリーにしがみついたまま、懐いてしまう小天狗のテトラ。
「なぁ、小天狗。この樹海で光る紫色の玉を見なかったか」
「むぅ。お前は好かん。べぇ」
「くっ……こいつ」
「ふふ。テトラちゃん、お姉さん達ね。紫の玉を探しているのだけど知らない?」
「それなら桜の里で見た気がするのぉ」
「桜の里?」
「うむ、そこの道を左に入れるやろ?」
よく見ると遊歩道の柵を越えた所に、獣道が奥へと続いている。
「これは気付かないな……テトラと言ったか。すまん、俺が悪かった。案内してくれないか」
「ふん。仕方ないのぉ」
そう言うとテトラはふわふわと浮き上がり、獣道へと進んで行く。春樹は気付く。
「羽根は使わないんだな」
「そうみたいですわね。浮遊魔法ですわね」
二人は柵を乗り越え、テトラの後を着いていく。しばらく行くと、森が開け小さな集落が見えてきた。
木製の看板には手書きで『桜の里』と書かれている。
「着いたぞよ。ここが桜の里や」
「ここが桜の里か。名前の通りなんだな」
「えぇ、桜が舞ってますね……綺麗」
「不思議な光景だな。季節関係なく桜の花が見れるなんて……」
「お花見したくなりますね」
「さっ、あの奥にある小さい神社に宝玉はある」
「あぁ、ありがとうテトラ。しかし、誰もいない様だな」
「そうですわね、人の気配はありませんわね。勝手に取ってタタリとか起きなければいいのですけど」
「メリー、不吉なフラグを立てるなよ」
「フラグ?ですか?ご主人様、それは何ですの」
「いや、何でもない。神社に行ってみよう」
「はい……え。フラグが気になります」
「気にするな」
二人は神社へと行き、紫の宝玉を見つける。
『おめでとうございます。紫の宝玉をコンプリートされました。10,000ポイント獲得です』
久しぶりに機械音が上空で響く。
「よし!これで五つ目だ!」
「やりましたわね!ご主人様!」
「テトラ!ありがとう!これで……え?テトラ?」
春樹はテトラの姿を探す。しかし、さっきまでいたテトラの姿が見えない。
「嘘だろ。まさかフラグの……」
「おぉい!テトラちゃん!どこに行ったの!ママはここですよ!」
メリーがいつの間にかテトラの自称ママになっている事はさておき、テトラを探しながら村の入口へと引き返す。
「テトラちゃぁん!どこに……」
『ズドォォォォォン!!』
突然、村の外で地鳴りの様な大きな音が聞こえた。足元が揺れ、ふらつく春樹とメリー。
「ご主人様!今のは!?」
「わからない!けど、何かが落ちた様な衝撃だった」
二人は駆け足で音のした方へと走る。村から遊歩道に出る直前にそれはあった。
「しっ!メリー、隠れて」
「え?あ、はい」
春樹に言われメリーは身をかがめる。
「あれは何だ……魔物だとは思うが……」
「大きいですわね……」
数十メートルはあろう高さの化け物が何かを探すように歩いている。
『カラダ……ガナイ……カラダ……』
ズドォォォォォン!!
化け物は森の木々をなぎ倒し、その大きな足で地面を踏みつける。
「二人共、ここから逃げた方が良いのぉ」
「テトラちゃん!良かったぁ!無事だったのね!」
二人の頭上にテトラが現れ、メリーはほっと胸を撫で下ろす。
「テトラ、アレは何なんだ?」
「森の異変を感じて戻ったらアイツがおった。たぶんアレは噂の『オタタリ様』や」
「オタタリ様?」
「左様。桜の里の者もオタタリ様の怒りに触れぬようにどこかに隠れておるのかもしれんの。お前らもはよう逃げた方がええで」
「ご主人様、テトラちゃんの言う通りです。戦う必要はありません、逃げましょう!」
「そうだな。戦った所で俺たちにメリットはない。逃げよ――!?」
ズルッ!
その時、春樹は樹木の根に足を取られ滑って穴へと落ちていく。
「ぬほゅっ!?」
「ご、ご主人様!?」
慌ててメリーも春樹の後を追いかけ、穴へと入っていく。
「ふふ、面白い人間達やったのぉ。さて親父様に報告に戻らねば……。オタタリ様か。やっかいな事になりそうやな」
テトラはまた浮遊して森の中へと姿を消した。
◆◇◆◇◆
「いてて……ここは……」
「ああぁぁぁ……ごしゅじんさまぁぁぁ!」
「ごふっ!」
先に落ちた春樹にメリーがドッキングする。
「く、くるしい……」
「はっ!?ご主人様ご無事で!良かった!」
「メ、メリー……重い……」
「まぁ!失礼な!レディにそんな事を言ってはいけませんよ!」
春樹が辺りを見渡すと、そこは木の中の様だった。ひんやりとした空気と冷たい床に軽く身震いを覚える。
「樹洞……ですわね」
「樹洞?」
「えぇ、何百年も育った木の中に出来る空間ですわ。こんなに広い樹洞はあまり無いと思いますが」
「確かに広いな。体育館くらいはありそうだ」
「ご主人様。天井の光が漏れてる部分が落ちてきた場所の様ですわ」
「あそこか。メリー浮遊魔法で行けそうか?」
「えぇ、あの距離な――」
メリーが言いかけて、言葉を止める。
「ご主人様、何かいます」
天井から何かがこちらを見ている。
「テトラなの?」
「……」
「違う様だな、生気を感じない」
「……ご主人様、戦いますか」
「あぁ……」
二人が戦闘体制に入ると、天井からするするっと何かが降りてきた。黒いモヤの様な影が春樹達の前でゆらめいでいる。
「オマエ、モリヨゴス?タタリクル」
「タタリ?いや、俺達は森は汚さない」
「ホントウカ?」
「えぇ、本当ですわ。森は壊しませんし、ゴミも持ち帰りますわ!」
「……」
「何だ。喋らなくなったぞ?こいつは何者なんだ?」
「……ワレハ、モリノセイレイ。ジュゲム……ハッ……」
「ハッ?どうしたんだ?」
「……」
お互いにしばし見つめ合い、沈黙が流れる。
「ヘップシ!」
「くしゃみかよ!」
「スマヌ、カフンショウダ」
「森の精霊が花粉症てどういう事よ」
「キニスルナ……」
黒いもやもやした影はゆらめきながら照れくさそうにしている。
「それで、俺達はもう行ってもいいのか?」
「クシュンクシュンクシュン……ダメダ」
「まだ何かあるのか?」
「トモダチ二ナッテヤッテモイイ」
「……メリー、帰ろう。浮遊魔法を――」
「ゴメンゴメンマッテマッテ」
森の精霊は腕の様な物を伸ばし二人を止める。春樹は仕方なくジュゲムと友達になり、樹海の森を後にした。
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