白の世界

雑魚ぴぃ

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第三章〜真実と帰還〜

第16話・繰り返す運命

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 春樹は知らず知らずのうちに赤い宝玉を手に入れた。理由は千鶴と感の良いメリーだけが知っている。
 残りは黄色の宝玉、そして銀色の宝玉。
 四人は十数枚の扉を交換し、順番に開けていく。自宅のある空にはひび割れが出来ている。このひび割れが大きくなる前に何とか脱出をしないとこの世界から出れなくなる可能性が出てきた。
 数週間を費やし、扉の中を行ったり来たりし宝玉を探す四人。しかしいっこうに宝玉は見つからない。時間だけが過ぎていく。

「駄目だ……この扉もハズレだ。ヒントすらない」
「あと宝玉二個となると途端に難しくなるわね」
「千鶴、ちょっと休憩しよ。疲れた」
「私、お茶を持ってきますね。皆さんはそこでお待ち下さい」

 そう言うとメリーは自宅へと帰って行く。自宅の周辺には今までポイント交換した扉が至る所に置いてある。

「黄色の扉もほとんど見たが見つからない。やはりどこかで見落とした可能性もあるか……」
「ハルくん、ちょっと休憩しよ。見つかる時は見つかるし……!?うぅっ!」
「え?千鶴?どうした?」
「千鶴?顔色悪いよ、ここに横になって」
「ごめ……ん……ちょっと気分悪い……」

春樹と凛はまだ気付かない。千鶴が妊娠してる事に。

「皆さん、お茶をお持ちしま――あら?千鶴さん大丈夫ですの?お部屋に戻りましょうか」
「そうだな。千鶴、持ち上げるぞ」
「うん……うぅ……」

 春樹はそう言うと、千鶴を抱きかかえ自宅まで運ぶ。春樹が千鶴の部屋から出た後にメリーがそっとささやく。

「千鶴さん、おめでたですわね」
「え……メリー。やっぱりそうなのね……ここ数日気分が悪くて……」
「ゆっくりお休みください。薬も探しておきますね」
「ありがとう」

◆◇◆◇◆

――その日の夜。

 皆が寝静まり、春樹もそろそろ寝ようとリビングから部屋に戻ろうと立ち上がる。そのタイミングで二階から誰か降りてくる。

ギシギシギシ……。

「あら、ご主人様。まだ起きていらしたのですね」
「あぁ、メリー。どうした?眠れないのか」
「いえ、目が覚めてしまって。お水を飲もうかと」
「そうか、俺はもう寝るから。おやす――」
「ご主人様、ちょうど良かったですわ。大事な話がありますの」
「大事な話?」
「えぇ……」

メリーは千鶴の妊娠の話を持ち出した。

「それは本当なのか……?」
「えぇ。妊娠ニヶ月から三ヶ月だと思われます。三ヶ月だとしてあと半年以内にこの世界から脱出しないと……」
「しないとどうなる?」
「……もしこの世界で産まれてしまうと肉体の無い魂だけの幽体になるでしょう。現実世界で千鶴さんが妊娠しているかどうかも見てみないとわかりません。肉体的に性行為が無く、魂だけの性行為で妊娠しているのかどうか……」
「……ちょっと待ってくれ。メリー……あれ?今、何か……」

春樹の脳に違和感が走る。

「肉体的に性行為が無く、魂だけの性行為……」
「ご主人様?どうされたのですか」
「……いや。ちょっと……まさか……」

 春樹の脳がフル回転を始める。メリーの一言で引っかかる部分があった。

「……仮にだ。白世界で妊娠していても、現実世界では妊娠していない可能性があるとしたらだ。仮にだ。俺は……誰の子供なんだ?」
「え?それは……お母様は同一人物だとして父親は春夫様ではないのですか」
「……父さんはこの世界から帰れていない。となると母さんの子供は産まれていない事になる」
「それはそうなりますが実際ご主人様はお産まれですし、春夫様の面影あるとマザー様も言っておられましたよ?」
「……メリー。明日、マザーに会いに行くよ。千鶴を看といてやってくれないか」
「……わかりました」
「すまない、頼んだ」

 翌日、千鶴をメリーと凛に任せてマザードラゴンに会いに来た春樹。

「マザー、教えてくれ。俺の父親はここでどうやって亡くなったんだ?」
「前にも話したと思うが、寿命を使い母親を現世へと送り返した……と聞いておる」
「それは聞いた。その時に母親には子供がいたはずなんだ。たぶんそれが俺……」
「そうであろうな。それの何が疑問なんじゃ?」
「この白世界は魂の状態なのだろう?夢でも見たが現世界の肉体は別物だ。魂の状態で――」
「何を言うておる。この世界に産み落とされていないのであらば向こうの世界で赤子として産まれてくるわ」
「そ、そうなのか?俺はてっきり別物だと……」
「ふん……ただしじゃ。この世界で産まれた命はこの世界からは出れぬ」
「え?どういう意味だ?俺は現世界で……」
「お主の事ではない。そういう命もあり得るという事じゃ」
「……!?そういう事か。もし千鶴がこの世界で子供を産むと言うことはその子はこの世界で一生過ごすのか……」
「そうなるのぉ……急いで戻った方が懸命じゃのぉ」
「あぁ……俺の子をこの世界に置いていくなんて出来ないからな……」
「……はよう戻ってやらぬか」
「ありがとう、マザー」

◆◇◆◇◆

「マザー様、よろしいので?」
「ゴブエーか。うむ。自分自身で知ることも大事じゃ。全て教えてもらう人生はたいくつじゃからのぉ」
「へぇ……」
「ゴホゴホ……わしもそろそろ限界かもしれぬな」
「そんな事は仰らないでください!美緒様!」
「ばかもの。ここではマザーじゃ……ごほ」
「へ、へぇ……」
「わしの肉体もいよいよ朽ちるか……」

 春樹が帰った後、マザードラゴンは寂しそうに微笑んだ。

「春樹よ、お主らだけでも戻るがいい……。ゴブエー、後は上手くやってくれ」
「わかりました、美緒さ……いえ、マザー様」

◆◇◆◇◆

「ご主人様!お帰りなさいませ!」
「あぁ、メリー。ただいま。千鶴の容態はどうだ?」
「はい、今は落ち着いておられます。つわりは一時の事ですので、落ち着かれるタイミングで現世へ戻れればよろしいのですが……」
「あぁ……そうだな」
「それと凛さんにも事情を説明したのですが、部屋にこもられてしまって……」
「そうか。凛はしばらく一人にしとこうか」
「はい。それでご主人様、マザー様は何と?」
「あぁ、やはりこの世界で産ませるのは――」

 今、現状動けるのは春樹だけだった。残りの黄色と銀色の宝玉を見つけない事には始まらない。
 タイムリミットは半年。半年以内には何としても現世界へ戻りたいと願う。
 月日を重ね、十五歳だった春樹ももう二十歳だ。三年分はセリに対価として支払った。そう考えると二年もこの世界で生活している。

「早く……早く帰らないと」

 焦りと不安が春樹の肩にのしかかる。しかし、次の宝玉は数日後に、ふとした瞬間に見つかった。

「あっ……あれは?」

 千鶴が発見したのである。夜中に気分が悪くなりトイレに行った後、リビングで水を飲む千鶴。

「ふぅ……」

 部屋の灯りは点けていない。それが良かったのだろう。外にある、以前使っていたゴミ捨て場がなぜか光っていた。ゴミ捨て場は地下空洞へと続いていて、そこだけぼんやりと光っている。
 千鶴は一人、外に出て穴を覗き込む。地下でうごめく影が無数見える。地下空洞のお掃除ロボットだ。そのうちの一体が光っていた。

「あ……あれは?もしかして宝玉?」

 しばらく様子を見ていたが、一人で行くのは危険と判断し一旦皆を起こしに戻る。
 皆を連れて来た時にはもうお掃除ロボットはいなかった。

「千鶴が見たのが宝玉だとしてどうやって取るかだが……」

 凛は変わらず千鶴と春樹と目を合わせない。千鶴は親友であったにも関わらず、本気で春樹の事を好きになっていた。
 頭ではわかっている。親友の幸せを喜ぶべきなのだろう。しかし心が追いついてこない。葛藤している心情が顔に出ている。

「……」
「はぁ。凛さんは千鶴さんとお留守番をして頂いて、私とご主人様で取って来ましょう」
「そうだな。二人共、留守番を頼む。夜が明けたら向かおう」

 翌日。春樹とメリーは扉を使わず、ゴミ捨て場だった穴から地下空洞へと降りていく。
 中は真っ暗で、所々、天井から明かりが漏れている。
 二人はお掃除ロボットを探して見るもののどこにも見当たらない。

「もしかして夜にしか現れないのか?」
「そんなはずは……以前、ご主人様と千鶴さんが地下空洞にいらした時は昼間でしたし」
「そうだな。しばらくここで待つか」
「そうですわね」

 一時間ほどメリーと他愛もない会話し待ってはみるがお掃除ロボットはいっこうに現れない。

「現れませんわねぇ……」
「そうだなぁ。長期戦になるか……見張りを交代でするか?」
「それでしたら、ポイント交換で監視カメラとか探して見ますか?」
「それは有りだな、一旦戻ろう」

二人は自宅に戻り監視カメラを探す。

「あっ!ご主人様!ありましたわ。監視カメ……」
「本当か!って、それは亀だな……」
「えぇ、監視亀ですわね」
「1000ポイントか。まぁまぁ高価な商品だ」
「バニーガールセットと同じポイントですわね」
「まだ覚えていたのか……案外根に持つタイプなのか」
「ご主人様、普通は忘れませんよ。あんな恥ずかしい格好」
「そ、そうか。若気の至りだ」
「この亀さんと、映し出すプロジェクタ……」
「違うな。孔雀だな、その写真は……」
「そのようですわね。プロクジャクと明記されています。1000ポイントですわ」
「亀と孔雀を飼うのか。エサとかいるんだろうなぁ」
「はい。エサもポイントに載っております」
「わかった!もう全部買う!千鶴と凛に家で監視してもらえるからな!」
「わかりましたご主人様。その様に致します」

 監視カメ、プロ孔雀、餌をポイント交換し地下空洞と自宅に配備する。
 体調を崩している千鶴でも家にいる間、見張りが出来そうだ。

 春樹とメリーが一通り段取りが終わって自宅に帰って来ると、家の前には見たことのある者がいた。

「待ってましたよ、春樹殿、メリー殿……」
「お前は……!?」
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