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第四章〜新しい世界〜
第21話・手紙
しおりを挟む千鶴の出産から一週間後。千鶴は産まれたばかりの赤子を連れ、春樹の家にやって来た。
「千鶴さん、お疲れ様。さぁ、上がってちょうだい」
「お邪魔します……はぁ、久しぶりだなぁハルくん家」
「千鶴サン、荷物は持ちますカラ、そこに置いといてくだサイ」
「メリーありがとう。おばさ……お母さん、ハルくんの部屋は変わらずですか?」
「えぇ、二階の左手よ」
「お邪魔します!ここがパパのお家よ」
三人は病院で何度も今後について話し合った。最初は春樹の母親が両足が不自由になり介護が必要になった話題がきっかけだった。
今は外部から宮司さんに通ってもらっているが、今後は神社の経営を続けていくのは難しく、春樹がいなくなった今、神社をたたむことにしたのだ。その後は実家に戻り、養生するという母親。
千鶴とメリーはその片付けのお手伝いにやって来た。一週間位は泊まり込みで春樹の部屋を中心に片付ける予定でいる。
メリーはと言うと、長らく留守にしていたアパートが家賃滞納により追い出された格好になっていた。それを聞いた春樹の母親はメリーを一時的ではあるが家に呼んだ。住む所もなく、当面春樹の実家で片付けをしながら住む所を探すらしい。
そして千鶴は春樹の部屋の片付けを自らが申し出た。気持ちに踏ん切りをつけようと思ったのである。
「ハルくんはもう……いない。本当に死んでしまったのね……」
机の上に飾られたクラスの集合写真。春樹の隣で恥ずかしそうに頬を赤らめる自分を見て、千鶴は涙が出た。
カラカラカラ……。
当分開いてなかった窓を開けると、風が吹き込んでくる。高台にある春樹の家からは小さな町を一望出来る。千鶴も小さい頃は良くこの景色を眺めていた。
と、一階の屋根に光る物が見え気になった。ゴミ袋などではない。白い封筒がビニールの袋に入っており、光が反射している様だ。
「あれは何……?ねぇ、メリー。あれって取れる?」
「ハイ、ちょっと待っててくださイネ――」
メリーは脚立を用意し屋根に上がり、ビニール袋を取ってくれる。
「ありがとう、メリー。これ何かしら?」
「手紙……の様ですワネ。だいぶ袋は汚れてますけど、中身は綺麗ですネ」
宛名は無い。袋を開け、封筒の裏を見て二人は驚愕した。
「うそ……!?」
「千家……春樹……!?ご主人サマ!?」
封筒には二通の手紙が入っていた。
「ハルく……んの字だ……」
ポロポロと涙がこぼれる千鶴。
…
……
………
――千鶴へ
この手紙が届くかはわからないが、今は奇跡を信じて書いている。
千鶴とメリーの後を追って現世界への扉に入ろうとしたが、入れなかった。俺の肉体がすでに亡くなっていたそうだ。凛とも再会出来たが、凛の肉体もすでに亡くなっていたそうだ。
二人で話し合った結果、こっちの世界でやり残したオタタリ様の封印を試みる事にした。その為には樹海のテトラ達の力で人間でも無い、魂でもない、モノノ怪として生きるしか方法は無いらしい。
成功するとも限らない。この手紙が最後になるかもしれない。それでも生きる可能性があるなら賭けてみたいと思う。
写真を同封する。ちゃんと届くかは不安だが、監視カメに残っていた物だ。
俺と凛はモノノ怪になるかもしれない。記憶も残るかどうかもわからない。でも千鶴とメリーの事は忘れたくない……そして俺の子供が本当に生まれるのであれば育ててやって欲しい。名前はそうだな――
最後になるが、オタタリ様の封印が終わればメリーに連絡を試みる。樹海へ一度来てくれ。こっちの世界と現世界の樹海が繋がっていることを祈る。
千鶴、愛している。千家春樹
………
……
…
「ハル……くん……うぅ……」
千鶴への手紙とは別にメリー宛のお礼の手紙もあった。そこには鈴が一つ入っていた。
「この鈴が鳴った時……ご主人サマを探して樹海へ行きましょウ。千鶴サン……」
「えぇ……行きましょう。ずっと待ってる……」
二人はもう一通の手紙を開く。それは凛から千鶴に宛てた手紙だった。
――千鶴へ
急にいなくなってごめんなさい。謝っておきたくて最後に手紙を書いてます。
春樹くんが学校を早退したあの日、たまたま春樹くんの机に御札が貼ってあるのを見つけたの。その時は何の意味があるかはわからなかった。だけど、あの御札に触れた事が原因で私も白の世界に飛ばされたのだと思う。
それと白の世界の学校から、春樹くんが持って帰った御札を破いたのは私です。どうしても現世界へ帰りたくなかった。もっと春樹くんと一緒にいたかった。
私は春樹くんが好き。でも千鶴がいつも春樹くんと一緒にいた。嫉妬したよ。千鶴は悪くない。私が……私が抑えれなかったの。その気持ちがいっぱいになって家を飛び出した。心配かけてごめん。
結果的にオタタリ様に殺されてしまって戻れなくなったの。自業自得だと思う。
これからどうなるかわからない。不安しかない。けど、春樹くんと一緒だから私は大丈夫……。
親友の好きな人を好きになってごめん。でも後悔はしてないよ。これで本当に死んでしまっても、私は満足してる。
千鶴いっぱいごめん。もう親友ではいられないけど、白の世界で四人で頑張った事は忘れない。すごく楽しかった。ありがとう……ばいばい。凛
…
……
………
「凛っ!!こっちこそ…気付いてあげれなくてごめん……凛……!!」
「千鶴サン……」
メリーは千鶴を抱きしめる。泣きじゃくる母親になった千鶴。その横ですやすやと眠る赤ちゃん。
凛の手紙には何度も書いて消した跡があり、そこには『春樹くんは誰にも渡さない』と書いてあった。メリーは黙って手紙を閉じた。
メリーは思う。もしかしたら最初は小さな事だったのかもしれないけれど……オタタリ様を呼び寄せたのは凛だったのかもしれない。
霧川小夜子と、もし凛が接触していたとしたら……そんな思いすらした。それだけ重い手紙だった。
――夕方。
地元の警察が春樹の家を訪れる。退院祝いにと、果物を持って来ていた。
「何度もすいませんねぇ。春樹くんの部屋を見せて頂けないかと思いまして――」
「はぁ……しつこいですねぇ……」
春樹の母親も疲れていた。何度も病院で事情聴取を受けていたのだ。
千鶴とメリーも事情聴取を受けていた。霧川小夜子と春樹が戦った学校。
現世界では爆発事故で二階から上が吹き飛んだ事になっていたのだ。そして死人も出た。
刑事は春樹の部屋の物を物色しながら、千鶴とメリーに話しかける。
「当時ね。お二人は入院していて知らないかもしれませんが、千家春樹君がね。刀剣らしき物を振り回していたと言う証言があるのですよ……それもたくさんね」
「知りません。ハルくんはそんな事はしません」
「そして体育館で大勢の怪我人、そして冬弥君の遺体。学校は二階部分が爆発され、重症者多数。校庭には霧川先生の遺体……この無差別テロの犯人がなぜその様な行為に及んだのか。教えてくれませんか。あなた方は何かを知っている」
「知りません。私達は病院で動けない状態でした。それはハルくんも同じです」
刑事は開いていた窓を閉める。
「春樹君はね。もういないんですよ。かばっても何もないですよ、わしら刑事は本当の事が知りたいだけなのです」
「刑事サン!言い方に気をつけなサイ!」
「おやおや、メリー先生が怒る筋合いは無いと思いますが……今日はこの辺で失礼しますかね……。退院おめでとうございます。またお話を聞かせてください」
そう言うと刑事は春樹の部屋を出る。一階から、春樹の母親の声が聞こえ刑事が帰って行くのを確認した。
「メリー……私……どうしたらいいの……」
「千鶴サン。ご主人様は何も悪くありまセン。すべてはキリ様の……」
「メリー、全部教えて……セリの目的は何だったの?何のために私達はあの世界に行かないと行けなかったの?」
「……そうですワネ。全部答えれるかはわかりませんガ――」
メリーは窓の外を見る。刑事の車が帰って行くのを確認し、話始める。
「セリ様の目的はこの世界と表裏一体の世界に生きるモノノ怪達の存在から世界を守るコト。それには強く汚れの無い者を育てる必要があっタ……」
「メリー、それはモノノ怪では駄目だったの?」
「えぇ……中には知恵のあるモノノ怪もいマス。けれどこの人間が住む世界を守ろうとする者はほとんどいませン。人間は人間に守らせる、それが暗黙のルール」
「セリは悪い神様では無かったのね。もっと早く言ってくれたら良かったのに」
「言えなかったのでスヨ。神様が人間に肩入れしているとなればどこで火種が飛び火し、戦争が始まることヤラ……」
「ふぅん……何だか面倒くさそうね」
「そうなんでス。人間寄りの神様もいれば、モノノ怪寄りの神様もいル。お互いが干渉しない事で世界の調和が保たれていマス。そして生み出された世界があの『白の世界』なんデス……」
白の世界から脱出する……言わば神の脱出ゲーム。これをクリア出来る者は、人間の心を持ち、なおかつ、モノノ怪にも匹敵する強さを得る。
「千鶴サンはお気付きでしタカ?白の世界は男女が対で選ばれてる事ニ……」
「え?私とハルくんはわかるけど、メリーと凛が対なの?え?メリーってもしかして男の子……」
「違いマス!私はセリ様のお付きデス!凛サンは、冬弥サンと対だったのかもデスヨ」
「冬弥君と!?そう言えば冬弥君が凛を好きってウワサは聞いた事あったなぁ……」
「色んな意味で試される世界が白の世界……なのデス」
「それにしてもメリーは知らない事だらけだったよね?」
「あ……イエ。実は家には山の様に資料とか本があるのですが、パチン……学校の仕事が忙しくテ、ほとんど手つかずでシテ……」
「パチンコ行ってたのね……。はぁ、ちゃんとメリーが読んでたらもっと早く帰って来れたかもしれないわね」
「申し訳ないデス……」
「冗談よ。攻めてはないわ。あなたがいなければ私もこの子もいなかったかもしれないし……」
「そう言えば、千鶴サンと凛サンの母親は大丈夫デシタカ」
「うん、二人共タクシーの後部座席だったから軽症で済んだみたい。ハルくんのお母さんは助手席だったから……」
「そうでしたカ……」
そんな話をしていると、一階から声がかかる。
「二人共、ご飯にしましょう!」
「はぁい!今行きます!メリー、行こ」
「ハイ、続きはまた今度……」
外はいつの間にか暗くなり、虫の音が聞こえてくる。三人で囲む食卓はそれはそれで楽しかった。
「しばらく手紙の事は伏せていよう」千鶴はメリーに目配せした。メリーも察してうなづく。
「お母さん、実はご主人様から――」
「え?春樹から?どうしたの?」
(おい、メリー。今、言うな、て合図送ったよな?)
「い、いえ!ご、ご主人サマ……千鶴さんのご主人サマの物真似が、う、うますぎてお母さんにも見てもらおうと思いましテ……はは……ハ……」
「あら、千鶴さんそうなの?見たいわ」
「え?なぜに」
目配せの意味がわかっていなかったメリーと、春樹の物真似を必死でする千鶴の姿を見て、いつもよりたくさん笑う春樹の母親。
こうして現世界での生活を少しずつ取り戻していくのであった。
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