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プロローグ『転生』
しおりを挟む───九月十三日。今日もカーテンを開けると眩い朝日が晴れを物語る。
今年の八月に十八歳になった昴は、今日から学校に行くのだ。本当はもっと前から始まってはいたのだが、今日まで夏風邪で休んでしまっていた。
「んー!久々の学校だ。皆と会えるの楽しみだなぁ」
間部昴はベッドから出て背伸びをしながら嬉しそうに言う。
「昴ー!早くしないと遅れるわよー!!」
「えっ?…やっば!ギリギリじゃん!!」
階段の下から母に呼ばれて昴は慌てて支度を始めた。
(制服良し。髪型良し。忘れ物無し。笑顔も完璧!)
身支度を済ますと、鞄を持って昴は急いで階段を下り朝食をそこそこにして家を出る。
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい、昴」
母の優しい笑顔を見届けてから玄関を閉め、昴は走って学校へと向かう。
……しかし、昴も昴の母もまさかこれが最期になろうとは…まだ知らない。
~*~*~*~*~*~*~
(……あ、れ……私、何してたんだっけ…)
フと目を覚ました昴は頭を押さえながら立ち上がる。しかし、立ち上がったは良いもののやけに視界が低い気がした。
不思議に思い下を見れば、なんと可愛らしい足が見えたではないか。昴は自分の両手を見て、またも可愛らしい手だと思った。
「……っえ?てか、これわたしのてあしだよ!?」
冷静に考えてそう言った言葉も呂律が上手く回っていないのか、まるで幼い子供のような喋り方であった。
昴は周りを見渡して近くに水溜まりが見えて急いで覗き込む。
「───なにこれぇ!?」
そう、昴は四才の頃の姿になっていたのである。
(ま、待って!なんでこんなことに!?確か私、家を出て…走って学校に向かってたは、ず…………あっ)
朝の出来事を一から順に思い出し、そしてある事に気付いたのだ。
(……私、車に引かれたんだった…)
急いでいた昴は、それはもう周りが見えない程に走っていた。それでも信号が赤の時にはちゃんと止まって青になるのを待っていたのだが、そこに大きなトラックが昴に向かって突っ込んで来た。
昴は、避ける事も出来ずにそのまま────・・・
(し、んだの?私…)
やっと自分が死んだ事を理解した昴の瞳からは大量の粒が頬から流れ落ちていく。
涙だと解った途端に昴は声を上げて泣き叫んだ。
(いやだよ!どうして!?もうパパにもママにも会えない、なんて…)
両親にも、友達にも会えない。もうあの生活には………二度と戻れない。
涙は枯れる事なく、昴の頬を濡らしていく。二度と家族に会えない悲しみと死んでしまった事の辛さは消える事なく、涙へと変わっていく。
「…大丈夫かい?」
泣き叫ぶ昴に中年の男が近寄って来た。けれど泣きすぎてしまった昴は上手く言葉がでなかった。
「ひっく……っ……パパと…ママに…ひっく…あいたいよぉ…」
「パパとママ?君、迷子かい?」
中年の男は未だ泣いている昴の視線と同じように視線を合わせしゃがんで優しく聞いた。
けれど、中年の男の言葉に昴は首を横に振る。
「え?」
「…もう、あえな、いの……ひっく…」
昴は、小さな両手で涙を拭きながらその言葉だけを繰り返した。
この中年の男が何者だとかは、今の昴にはどうでも良かった。けれど、優しく話す中年の男に素直に応えている。……一人で居たくなかったから。
「…っもしかして、両親はもう───・・・!っ辛かったね。大丈夫だよ、おじさんが側に居るからね」
中年の男はある事を思い至った。この子の両親はもうこの世に居ないのだろうと。
そして、まだ泣き止まない昴を抱き締めて優しく背中を叩いてあげた。
あるで落ち着かせるように、そっと優しく。
(……パパと同じ匂いだ…)
昴は、小さい頃を思い出していた。
それは、泣いているといつも父がしてくれた仕草で…大丈夫と繰り返して背中をポンポンと叩いてくれて……庭に咲くラベンダーの花を育てていた父の匂い。
「大丈夫、大丈夫だからね」
『大丈夫、大丈夫。昴にはパパがついてるからな』
中年の男と父の面影が重なる。昴は、小さい両手で中年の男の背にしがみついてまた泣き叫んだ。
沢山泣いて父の安心する匂いとで、昴はそのまま静かに深い眠りへと落ちた。
「……まだこんなに小さいのに、一人で居てさぞ辛かっただろうなぁ」
眠った昴を優しく抱き締めて、中年の男は悲しい顔をする。そして、ある事を決意して中年の男は立ち上がり来た道を昴を抱えたまま歩き出した。
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