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~佐東家~
二話『家族』
しおりを挟むあれから邑漣と秋芭に連れられて家を案内してもらった私は、色々と驚く事ばかりで頭がパンクしそうになった。
まず、お風呂は昔の人が使っていた割った薪を入れてお湯を沸かす仕組みだった事。それからトイレは和式のしか使えない事も。これは庶民だからだと聞いた。
どうやら貴族達はお金持ちだから洋式のトイレでないと駄目だからだとか。なんだそれって思ったけど、口には出さなかった。
そして一番驚いた事は、ココにはモンスターという生き物が存在しているという事だった。
人間を襲う恐ろしいモンスターらしく、邑漣はしつこいくらいに夕方から外に出てはいけないと私に言い聞かせていた。
でも、秋芭が言うには森にさえ近付かなければめったに襲われる事はないだろうから安心してもいいという話。
「───ねぇ、モンスターってみんなわるいの?」
「んー、皆が皆悪くはないけど…そうね、例えばゴブリンは人間を食べたりしない代わりに悪戯ばかりするわ。中には親切なゴブリンをホブゴブリンと区別しているのよ」
「へぇー!」
昴は自分が居た世界で聞いた事や本で読んだ事のある名前が出てきたのに目を輝かせた。
ゴブリンが出てくるという事は、他にも色々居るのだろうかと興味を持ちはじめる昴の思考はまるで本当の子供のような好奇心が芽生えている。
それに感づいた邑漣は不思議に思ってしまう。
邑漣は昴の両親はモンスターに食べられた訳ではなかったのかと。しかし昴は一言もモンスターに食べられたとは言っていなかったのを思い出す。
(モンスターじゃないなら、どっかの山賊にやられたのか?……いや、今はすばるにする話じゃないな)
何はともあれ、両親が亡くなったのに代わりはないだろうと邑漣は思い昴に聞く事はしなかった。
昴と秋芭の笑っている姿を見て邑漣は微笑み、心の中である事を誓うのである。
(…すばるはもう家族だ。僕の、娘なんだ……守ろう。この子が幸せに暮らせるように)
「ゆうれん、どうしたの?」
「…っえ?」
心の中で決意をしていた邑漣に気がついた昴が声を掛けると、邑漣は我に返ったように昴に視線を合わせる。
「へんなかおになってるよ?」
「いやいや、変じゃないでしょ!?」
「アハハハハ!」
昴に言われて慌てて否定すると、昴はその顔が面白かったのか声を出して笑い出した。
側にいた秋芭も笑っている。邑漣は不満はあれど昴が笑っているのを見て、まぁいいかと思った。
今ココに居て自分の家族として笑っている姿を見られる事に、邑漣自身は嬉しく思っているのである。
「ああ、秋芭。そろそろ夕飯にしようか」
「そうね。すばるちゃんもお腹が空いた頃でしょうし、作りましょうか」
「あ!おてつだいする!」
昴は嬉々として手を上げて立候補すると、秋芭は微笑み「じゃあ一緒に作りましょうか」と言って昴と手を繋ぎキッチンに向かった。
邑漣はそれを見送り、自分は畑の水やりをしに向かった。
昴が目覚めるまで側についていたせいで、昼に水やりをするのをスッカリ忘れていたのだ。
夕飯を作りに行った二人は、何にしようかと相談して楽しそうに作っている。
(良かった。料理はあっちと同じで…)
正直に言って料理まで違っていたらどうしようかと思った昴だが、同じ事に一安心して胸を撫で下ろした。
今日の夕飯は昴のリクエストでカレーになり、出来たのは外が真っ暗になった頃。
邑漣は既に家の中に戻って来ており、昴が邑漣を呼びに向かった。
ココではテレビはなく、邑漣は自室で難しそうな本を読んでいた。
「ゆうれん、ごはんできたよ!」
「ん?そうかい。すぐに行くよ」
呼びに来た昴に邑漣は微笑み本を閉じる。しかし、昴は扉から動こうとしないので不思議に思って首を傾げる邑漣。
「どうした?」
「…あのね、ゆうれんにいわなきゃいけないことがあるの」
「ん?」
「えっとね…かぞくにしてくれて、ありがとう!」
「っ!」
照れるようにモジモジしながら言う昴に邑漣は驚き、そして昴をギュッと抱きしめた。
「ゆ、ゆうれん?どうしたの?」
「…此方こそ、家族になってくれて有り難う。昴を家族に出来た事に僕達も嬉しいよ」
こんなに小さい幼女が、とても愛おしく思う邑漣は自然と涙を零した。
「ゆうれん、ないてるの?」
「駄目だね…年をとるとつい涙もろくなってしまうな」
「……よしよし。ゆうれんがなきやむまでなでなでするから、はやくなきやんでね」
昴に頭を撫でられて、邑漣はまた涙を流してしまう。
辛い思いをした筈なのに昴はこんなにも優しく人に接している。本当に昴は強い子だと邑漣は思った瞬間である。
暫くして、二人が来ない事に秋芭が不思議に思って迎えに行くと何故か邑漣が泣いていて昴がそれを慰めている姿があり、どうしたのかと昴に聞くと「ゆうれんはなきむしさんなんだね」と秋芭に答えた。
それになんとなく状況を把握した秋芭は微笑み「そうね」とだけ言う。
また暫くして邑漣が泣き止むと、三人揃ってリビングに向かい仲良く食事をした。
「ごちそうさまでした。おいしかった!」
満面の笑顔で言う昴に二人揃って微笑み、まるで最初っから家族だったように和んでいる。
…この幸せが、ずっと続けばいいと三人は心から本当に思った。
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