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空見 大

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序章

旅の始まり

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 色鮮やかに光り輝くネオンの色に目を細めながら、菜月はゆっくりと息を吐き出す。
 それと同時に鳴り出した耳が痛くなるほどの音楽と、身体の芯から震えるほど大きな周りからの拍手が近くで鳴っているはずなのに、何故かどこか遠くで鳴り響く音のように感じられた。

 いつもそうだった。

 間違っているのか正しいのかは別として、いつもこうして人生の分岐点では時がゆっくりとすぎるような感覚が体を襲う。
 光の粒が手元でうっすらと形を成していき、そして異世界行きチケットと共通言語で書かれた文字が、菜月に現実を突きつけるように視界の端でぼんやりと映るのだった。

 01

 時代は2256年。
 1972年に始めて家庭用ゲーム機が発売されてから、既に約300年ほどの月日が経過している。
 その時代の人間のニーズに合わせてより良いものへより良いものへと進化していった過程用ゲーム機は、2100年代初頭、ついにゲームとしての枠組みを超えることとなる。

 2100年代初頭にフルダイブ型ーーコントローラを握って操作するのではなく、まるで実際にゲームの中に入っているかのような感覚で遊ぶことのできるゲーム機ーーが発売されてから、人類は電子の世界へと足を進めていったからだ。
 そうして100年の時を経て人類は仮想の世界に自らの肉体をインストールし、その空間で生きていくことで人々は半永久的な幸福と自由を手にすることに成功していた。

 既に肉体的に死亡していようともこの世界で生きている人物は確かに存在し、それを生きていると判断するかは別としてそんな生き方があるのも確かである。
これは人間の生きる新たな道であり、急速に進化していく世界の速さに追いついている人が何人世界に居るのだろうか。

「ーース! ギルマス!」

 聞き慣れた声が自分を呼び、その声でふと離れていっていた意識が徐々に身体に戻る。
 六畳一間程の狭い空間には大きめの炬燵がこれしか必要ないだろうと言わんばかりに設置され、自分を呼んだ彼はというと自分から見て右側に座っていた。
 見てみれば服の袖を可愛らしくちょこんと掴み、くいくいと引っ張っている。

「起きた?  昨日遅くまでなんかしてたけど、疲れてるの? 寝るならベッドで寝た方がいいと思うよ?」
「まだ寝る時間でもないので起きます……。 昨日はちょっと業務処理をしてただけなので、それほど疲れていませんよ。
心配してくれてありがとうございます、アルライドさん」
「いつもいろいろしてくれてるんだから、心配くらい当然でしょ? ねー、すら丸!」

 アルライドと呼ばれた少年がそう言うと、彼の横に置いてあったポーチから水色のどろどろとした液体が顔を出す。
 すら丸と呼ばれたそれは、アルライドが一から手がけて作成したサポート用の魔獣であり、そのドロドロとした見た目の通りスライムと呼ばれる種族だ。
 そんなすら丸は彼に非常に懐いており、よくアルライドの頭の上に帽子のように収まっているのを見かける。

「ほらすら丸も頷いてるよ!」

 そう言いながら彼はにっこりと少年らしい笑みを浮かべる。
 少女のような華奢な体格に、薄い金色のショートカット。
 少しだけ青色がかって見えるその目は、本人の純粋さを表すように光の反射でキラキラと輝いており、腰につけた三つのルービックキューブは、彼の趣味がなんなのかをざっくりと教えてくれる。

 はっきり言って彼、アルライドは美少年だ。
 仮想空間なのだからわざと不細工にでもしない限りは美男美女であるのは当たり前なのだが、とはいえ彼らが作られた美であるのならば、こちらは生まれ持っての美しさだ。
 彼が有名になりだしてからパズルゲームの競技人口が増えたというのも、そう考えてみればあながち嘘ではないのだろう。

 それほど彼の見た目は人を惹きつける美しさがあり、彼の内面の優しさと純粋さはそれを引き立てている。

「マスターはすぐに無理をする癖を辞めたらどうだい? 霊ちゃんやハーミルンさん、雷蔵も心配していたよ?
 まぁ雷蔵は模擬試合が出来ないのが嫌だなんだと馬鹿なこと言っていたが」

 腹の底に響くような低音で菜月に向かってそう言ったのは、ギルドメンバーの内の一人、バレンである。
 性格は比較的温厚、190近い身長は近づくだけで威圧感を与え、腹の底に響くような低音はそれに拍車をかけるが、喋ってみれば優しい人物だ。

 こんな見た目をしているものの酒やタバコは嗜む程度にしかせず、賭け事などは仲間内でのおふざけ程度にしかしているところを見たことはない。

「あーバレンさん! そんな事言ったら雷蔵さん泣いちゃうよ? この前もギルマスに模擬試合拒否されて『迷惑だったか…』って泣いてたのに!」
「あいつまたそんな事を言っていたのか……?」
「まぁギルマスの回避能力は僕らも一目おく位だしね~、試合前とかにギルマスと勝負するとすっごく攻撃当たりやすくなるよ?」
「だから大会前とかよく僕のとこ来たんですか? 人を的にしないでくださいよアルライドさん!」
「あっははーごめんごめん」
「ギルマスも大変だねぇ」

 頬杖をつきながらバロンがそう言うが、実際はたまには良いだろうと加減を考えず飲み過ぎて酔った彼の対処が菜月的には一番面倒なのだが、それを本人に伝えるのは酷というものだろう。

 そんな彼、バレンの服装は初期設定のアバターが着用していても疑問に感じないほど、質素な服装をしている。
 これは彼が普段からしているゲーム内容に関連するのだが、それはまた別の機会に語ることとしよう。
 バレンは筋肉隆々、身長は190を超えている巨漢であり、彼の選んだ種族の中ではかなり体格のいい方に分類されていると、少し前に本人から聞いたことがある。

 見た目は少し老いが始まっている程度に見えるが、実年齢はかなり上らしく偶に茶髭を撫でながら、一人で酒を嗜んだりしているのを菜月も見たりする。
 菜月からすればギルド内において近接戦闘最強の雷蔵と戦うなど勘弁して欲しいのだが、本人がそこまで戦闘したいと言うのならば、今度戦ってあげるのもいいだろう。

 そんな事を考えながら菜月は調べ物をするために炬燵から体を抜いて、何もない空間に半透明なディスプレイを出す。

「ギルマスなんか調べ物~?」
「今やってたゲームが終わったので、何か新しいゲームを探そうかと思いまして。ついでに新しい情報も手に入れようかなぁとーー?」

『農業系ギルドが新商品を発売! これを食べれば試合にも勝てる!』『超大型イベント攻略専用サイト!』『大人のみに許された時間を味わうために、是非一度遊街へ』『あの有名な映画が続編決定! 詳細は下記リンクで!』
 少しでも興味を引こうと様々な色でデカデカと記載されたその広告を無視しつつ、何か面白い話でもないかと情報を探しているとふと、スクロールしていた指が止まる。

 電脳世界においてはそもそもこうやってわざわざスクロールする必要などなく、さらに言うのであれば視界にディスプレイを浮かべることも可能なのだが、なぜそうしているかといえば単純にこの方が菜月は慣れているからだ。
 簡単な情報収拾程度ならば、こちらの方が作業の効率がいくらかいい。
 余談はさておき、菜月は気になった広告を他の二人にも見えるように拡大して、目の前の画面に映し出す。

 今時にしては古臭いWebページに飛んで内容を見てみれば、政府が長年かけて制作していた異世界への転移装置が、ようやく完成したとの旨が記載されていた。
 転移する先の世界に関してはこちら側で細かく指定する事は出来ないが、とはいえおおよその世界観程度ならばこちらの希望通りにいくらしい。

 細かく指定することができないのに世界観というざっくりとしたものならば指定する事が可能なのは、まだ機械を制作してまもないからだろうか?
 参加資格は公式からプロと認められたゲームプレイヤーが二人以上参加しているギルドで、転移権当選直後にそのギルドのギルドメンバーとなっていたものに限るらしい。
 二人とも既に菜月の横までやってきており、既に記事の内容を読み終えていたようだった。

「平行世界…か。どうです菜月さん? 興味はありますか?」
「そりゃあ、まぁ多少は興味もありますが…平行世界という事はここみたいに命の保証もないわけですし。それにこんなの当たりませんよ、それに本当に異世界に行けるとも思えませんし、新しいゲームの広告でしょうね」
「ギルマスなら当てちゃいそうだけどなー? ちょうどプロがここに二人いるわけだし、こんなの後から拒否しても良いわけだから行くだけ行ってみない?」

 いま菜月の横にいるこの二人、実は政府から公式に認められたプロのゲームプレイヤーなのだ。
 というより菜月が所属し、そしてギルドマスターをしているこのギルド『栄枯盛衰』に所属しているプレイヤーは、菜月以外の全員が何かしらのゲームのプロだ。

 企業から給料をもらったりスポーサーになって貰ったりして働いている企業プレイヤーと呼ばれるもの達とは違い、国から公式に認可を受けてゲームの賞金をもらっている彼らの実力は菜月とは当たり前だが比べ物にならない。
 この電子世界『アメイジア』において国から認められるには、なんらかの世界大会で一位になる必要があるのだが、そもそもこのアメイジアという世界、かなり癖が強い。
 大元となるのはアメイジアなのだが、派生して様々なゲームをすることが出来るのだ。

 アメイジアを簡単に説明するのならば、現実世界とファンタジーが混ざり合った世界というのが適切だろう。
 第一に驚くべきなのは地球上に存在する全ての生命体を電子体にしたとしても問題なく処理できるほどの、圧倒的とまで言える情報処理技術によって生み出される様々な生き物だ。
 どうやってそれほどの情報処理技術を誇っているのか未だに謎ではあるが、噂によれば一つの星を丸ごと情報通信用設備にしたらしい。
 太陽系の外へ人類が飛び出して早100年。それくらいの技術があっても不思議はないといえばないが。

 詳しくアメイジアというゲームの特性を説明するのなら、まず種族からだろう。
 種族は基礎となる四種族があり、人間種・亜人種・悪魔・天使に分かれる。
 人間種は文字通りそのまま人間としてアメイジアで暮らす事が出来るのだが、そもそもアメイジアに来てまで人間種であろうとする人間は少ない。
 派生する職業やクラスは他の種族に比べ圧倒的に多くはあるものの、とはいえ最終まで鍛えたのなら人間種がどれだけ頑張ろうと、他の種族に勝ちうる要素は一つもない。

 とはいえ物好きな人間はやはりどこの時代においても一定数存在するので、大きな街などに行けばそれなりの人数はいるのだが。
 菜月もその内の一人なのだが、統計的に見てもやはりプロになるのは他種族だし、人間種であろうと元の自分と同じ見た目で生活しているものはほとんどいない。
 だが自分の姿を忘れることを嫌った菜月は、現実世界の自分とまったく同じ身体を作成し、アメイジアで暮らしている。

 そう言った特異性も原因の一つとして菜月はギルドメンバー達と出会ったのだが、とはいえそれはまた別の話、今は置いておくこととしよう。
 亜人種は人間ではないものの、人間のような見た目をしている種族のことを指す。
 日本で言うのならば天狗などがそれに該当する。
 スキル類を使用しない単純な攻撃性能では四種族の内トップであり、それ故に人気の高い種族でもある。

 悪魔と天使は宗教的な垣根は無くなったものの、やはりグレーゾーンとされており、こちらも率先してなろうとする人は少ない。
 次に先程から出ているクラスやスキルといった単語についてだが、こちらについては説明できる範囲を少し超えている。
 アメイジアは一つの国が大きすぎる力を持たないように、その運営を各国が共同で作り出したAIによってその運営がなされている。
 つまりどう言うことかといえば半永久的にクラスやスキルは増えていき、そして消えていくので、菜月程度の情報収拾能力では、その全てを理解することはかなり難しいのだ。

 武器や防具などの装備品に関しても様々な特性があるが、基本的にはゲーム内でのアイテムはコンバート前提なので、それ程恐ろしく高い性能の防具は無い。
 とはいえそれはゲーム内で獲得できるアイテムの話であって、アメイジア公式が配布している防具や武器はそのルールには当てはまらない。
 アメイジア性の武器は性能が様々なゲームにおいて、その武器と同じ程度のレアリティの武器と同等の効果が出るように作られているので、コンバートなどを気にする必要が無いのだ。

 それに見た目もかなり自由にいじる事が出来るようになっており、アメイジア性の武器というだけでも高額で交換する事ができる。
 しかしアメイジア性の武器はなんらかの大会で得られるポイントを使用してガチャを引き、そこで当てる必要性があるのでそもそも入手が難しい。
 今回の異世界転移の資格獲得はさらに難しい事だろう。

「さすがに許可を取らずしてそれは…大丈夫なんですかね?」

 とはいえ万が一、確率的に言えば億が一でも足りないだろうが、当たってしまったとして、向こうに行くかどうかの判断をギルド内でろくに相談もせず勝手にしても良いのだろうか。
 こう行った国家ぐるみの案件を拒否したとなれば、後々国公認のプロである彼等の立場が悪くなるのは菜月でもなんとなくわかる事ではある。
 不安感を拭えないのは仕方のない事だろう。

「大丈夫だって、中央広場でいつでもやってるみたいだし、行ってみようよ!」
「まぁアルライドさんがそう言うなら……」

 今思えば、ここで他の仲間達を待とうとしたならば、また違った未来もあったのだろう。
 だがそれを今更考えたところで無駄なのだ。
 運命はもう決まってしまったのだから。
 ーー以上回想終了
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