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第4章 冒険の始まり

悩むハイド王

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ハイド8世はライナー宰相とフォフナー軍部卿、エンデミオ・ハイド公爵、エリオット・ハイド公爵の五人で頭を抱えていた。

「アツロウめ!これ程の譲歩でリヒッテットの罪を許せるのか、父王!」

「平民が我ら王族と国家に取引とか許せませんぞ!」

と怒る兄弟に対して、

「ゼウントが起きるまでどうする?」

「アツロウ殿の提案を受けた方が得策ですな。」

「ゼウントの兵から集めた報告なんですが、常軌を脱していますね。」

フォフナー軍部卿の書類をハイド8世は目を通して、頭を抑えていた。それをライナー宰相に渡した。

「アツロウ殿の提案を受けるか。」

「そうですね。こんな報酬は払えませんから。」

「アツロウ殿から預かった捕虜を此処に連れて来ますか?」

「いや、ゼウントが起きるまで何も出来んぞ。」

「全く、ゼウントも恐ろしい物を報酬で渡しよって。」

「「父上!」」

兄弟はハイド8世達の会話を止めた。

「父上、アツロウと云う平民ごときに、何を心配されるのです?適当な報酬を与えれば良いのです。」

「兄上の言う通りです。王が平民に降るべきではありません。」

ニヤニヤした考えの二人に、ハイド8世は絶望を感じていた。

「なら聞こう。平民一人がリヒッテットの軍勢二千を抑え、ボナーとダレットの軍勢三千を倒したのだ。卿達は報酬をどれくらい出すと考える?」

「それが怪しいのです!一人で五千の兵を倒すなど考えられません!」

「だが、現にリヒッテット、ボナー、ダレットは捕虜として来ておる。ゼウントの兵も被害もない。しかも、リヒッテット、ボナー、ダレットの領地も押さえておる。内乱に加担した者も投降しておる。この現実を説明せよ。」

「そ、それは・・・・」

「フォフナー軍部卿、二人を投獄せよ。」

「「父上?!」」

「アツロウ殿は提案に乗らないなら、白金貨を8枚と言われた。城の宝物と我が国の利権を渡しても足らぬのだ。そなた達が、アツロウ殿に要らぬことを言えばリザリアの二の舞ぞ。牢で反省でもしておれ。」

「衛兵!エンデミオとエリオットを牢へ。」

「「はっ!」」

駆け寄り二人を取り押さえた。

「「ち、父上!」」

こうして、息子達を牢へ放り込んだ。

「はー、娘を渡したかったのに、此ではなー。」

「王も悩みますか?」

「リザリアも捕虜で送って来たのだぞ。」

「取り敢えず、フォフナー軍部卿。リヒッテット、ボナー、ダレットの財産を押さえるのが先ですな。白金貨に見合う物はあるでしょう。」

「そうですね。先に押さえましょう。」

頭を下げてフォフナー軍部卿も部屋を出た。

「ライナー。他に策はないか?」

「ありません。アツロウ殿を甘く見ておりましたな。貴族を送る事も、姫を送って取り込むのも押さえられました。逆に我等に恐ろしい提案で我等を脅す結果に。老練な手法ですな。」

「策は無理だな。リザリアの件はアツロウ殿と交渉じゃな。報酬は提案で。はー。ギルド方面長殿にも連絡じゃ。内府卿の後任は誰にするか。」

「はぁ。エリオット様もエンデミオ様も無理ですな。ゼウント卿の恩賞に与えますか?」

「フォフナーに恨まれるわ。」

頭が痛い二人であった。
それからの報告だが、

ジュライ平原で篤郎は、全ての敵に紋章を施し終わらす為に機械を増設しまくっていた。反乱の罪を許すが犯罪行為は許さないと、篤郎が言うと、悪事を働いた者は罪状を事細かく書面に認めて提出していた。そこから新刑罰を戻って施行せよと言って、領地に戻らされた。
罪状により財産を放出して、被害者達に賠償を払う義務を課した。そして、その義務は速やかに行われた。
その後の報告をバイシュ城にも届けさせたのだ。もちろん、役人や商人、冒険者、村人に至る迄、刑罰を執行させて、賠償はお金か物で支払ったので、反乱した者は全て私財は無くなり、国の罰を待つのみになっていた。今回の一番の功労はゼウント騎士伯だが、被害も無く勝敗がついてしまって、形としての内乱しかない。褒賞は土地になるがリヒッテット、ボナー、ダレットの土地を渡すと渡し過ぎるし、渡さないと国が貰いすぎになりどちらも公平に出来ない。被害が少なく、土地だけが入るとなると国にも旨味が無いのだ。ハイド8世とライナー宰相は更に頭を悩ませる結果となった。

当人の篤郎の姿は既にジュライ平原には無かった。何故なら篤郎は旧王都の跡地に居たからだ。かつての都の痕は無くなってしまっている。地下も無いのだ。元から存在してなかった様に、消えているのだ。

「あの、アマのせいかな。」

少しセンチメンタルに成りつつも、次に行く先は決まった。
元魔王の城に向かうべく魔族の領域に向かう決意をしたのだ。
最後の場所にへと。



今回の奴隷紋章の人数:39,544人
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