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第4章 冒険の始まり

冒険と云うもの

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ラリー村でボブゴブリンを倒した事を村長に報告して、一週間の調査を村人と行う事になった。
と言っても、篤郎とラッツ以外は使い物にならない状況で、渋い顔をした篤郎をラッツが冷や汗をかきながらの対応になっていた。ゴブリンは耳が報酬になるが、此を50対を集めた。ボブゴブリンも耳になるが、ゴブリンよりも素材が魅力なので、篤郎が全て回収している。

「一週間も付き合うのか~。」

「済みません、旦那。」

「素材集めしたいよ~。」

「我慢してくだせぃ、旦那。」

と、我が儘な篤郎をあやすラッツのコンビが、ラリー村の名物になっていた。問題は五人だ。
村長にけしかけられて飛び出したエミーを筆頭にデュースは頭の怪我が酷く、ラップとミソオとハルは血の欠損が酷い状態で教会で寝ている。村長との倒せる倒せないの喧嘩が発端なので、村長を含めて篤郎の威圧に怯えている。そして、ボブゴブリンにやられた心の傷は酷かったのだ。
モンスターシンドローム。大敗したり、モンスターに殺されかけるとなる心の病気であり、冒険者の大半はこれで辞めてしまう。云わば冒険者の宿命と云うものだ。傷が治ってもどうしようも無い事だ。これを乗り越えた者が上位の冒険者に上がるのだから。
しかし、五人の心は折れていた。

「怖いよ~。」

陽気なエミーの心の叫びである。教会の布団に丸まりながら怯えていた。

一週間とは長いようで短い。
篤郎にとっては短い。森に入れば、言葉と違って直ぐに消えてしまい、大量な猟をしてくるのだ。
それ以外にも薬草や鉱物の採取をしてしまうので、村人からも恐ろしい存在になっていた。
そして、ボブゴブリンは居ないが、他のモンスターを狩ってるのが引かれる結果になっていた。常識を覆す狩り方になっているのは、剣で狩らずにマトックで狩るのだ。誰もが引く狩り方とは?になるのだが、目の前をマトックが回転しながら飛んで狩る方法なのだ。ゲームなら理解も出来るネタになるだろうが、現実の世界で行われると笑いしか起きない。ビュンの音はラリー村の恐怖になってしまうのだが、別の話だ。

「旦那~、村人達の目の前に投げないでくだせーよ!」

ガサガサとする方に向かってラッツが注意を呼び掛けていた。殺気を感じたラッツは直ぐに地面に這いつくばると、ビュンとマトックが飛んで、ザクッと何かに突き刺さる。緑の血が見えたので、モンスターには間違い無い様だ。

「分かってるって。」

そう声を残して、ラッツの頭をを越えて森に消えて行く。

「アツロウさんって、冒険者よりも狩人の方があってますよね?」

「んだ。あの人にとってはモンスターもウサギも変わらんぞね。」

「何でも狩るや採取もこなすもんねー。」

「あはははは。旦那を庇うの無理ですよ?」

篤郎を、感心している村人達と涙目のラッツに別れていた。ラッツとて、ボブゴブリンでは本当の事は話せないでいた。ゴブリンでも上位種である、ナイト、アーチャー、マジシャン等が混じっていたのだ。ボブゴブリンの上位種が混じっててもおかしく無いのだ。悪魔が混じっていたのだ。数が少なくてもキングがいたのだ。篤郎の存在こそどうするのか、ラッツは心配でしかなかったのだから。

「ヒャホー!」

そして、この男は何とも迷惑な事を平気で行っていた。封印された悪魔に奴隷の紋章を施したのだ。封じ込めたままに悪魔なのに、天使の様に清い心を持たされたのである。デミさんといい、悪魔を悪魔ではない存在にしてしまったのだ。人知れずに驚異は去っていたのだ。ある女神を除いては。





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白い部屋に岩で埋もれたモノがある。そこに女神アルテウルは手をかざしていた。

「本当に面倒だわ!あのガキの性でこんな事に!」

遅々として溜まらない神気に苛立ちが募っている。

「本当なら、私の啓示を受けた勇者が仲間を連れて魔王と相討ちしていたのに!計画が遅れるわ!くそっ!」

女神で芸術と健康で、エレリーナ星の80%を信者として囲っているのに、アルテウルは落ち着けないのだ。元の主神であるミネルシルバを封じ込め、その神力を使い現主神よりも力を持った神となっても、心配なのだ。いつ、自分も同じ目に遭うかも知れないからだ。

「まだ、ね。これじゃ、一人しか無理だかね。くそっ!」

アルテウルは必死になりながらも、焦る理由が合った。
それは、此処に居るからエレリーナの状況が分からないのだ。力を裂けば溜めながら、見張る事も可能だが、計画が遅れてしまうのだ。必死で勇者と従者が最低でも一人は連れて来たいのだ。
番ならばアルテウルを裏切れないハズなのだ。
黒い感情に取りつかれながら、アルテウルは神力を集めていた。
それが何なのか知らない。
新たな悪魔を育てている事さえ知らないのだから。
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