鴉喰の華 ～日本に転生したのに、異世界に転移させられた！～

第７章 魔王進行

不安と恐怖

勇者達は、馬車に乗り都を離れる事が出来た。
馬車も文雄が運転しているのだが、荒い操作である。

「一週間で操作出来るもんで無いのに。たく、もうちょい云うことを聞いて～！」

文雄の声が聞こえているかは知らないが、幌の中でも大変であった。とにかく、しがみつかなくてはならない程にひどい。

「あ、厚木君。馬車を止めて歩く事を提唱す、ウップ。」

跳びはねる事は無いが、揺れがひどい為に、竹下は後ろで吐いている。厚木は、何とか耐えているようだが。

「うるさいよ、グズ。」

高圧的な厚木の言葉に、荒木は従うしかなかった。どうして、アルテウル神国から出なくてはならないのかは、厚木しか知らない。本当は聞きたいが、厚木の行動にケチがつけられない。

理由は、２５５の数値を二個を持つ厚木に勝てないからだ。竹下は高い能力を持っているが、魔力値が１７２が最高であった。荒木は耐久値が１５２、文雄は知力値が１０２が最高だ。数値で負けている。

「使えない。」

厚木は言ったが、荒木でも文雄でない。自分の事を言ったのだ。戦闘に参加もせずに、レベルが９９になり、能力も高い。高いのに、戦えないのが厚木の今だ。不安以上に恐れが勝って、戦えない状態なのだ。神国では守ってもらえないが、仲間は守ってくれると信じていた。自分の暴言も、許してもらえると、信じていた。

だから、今は神の使者と言う、アルテウル神国を逃げたいのだ。出来るだけ早く、何処かに隠れれる土地を探したいのだ。

逃げたい、だけの情けない女の子になっていたのだ。
そして、その祈りを潰す様にして、モンスターが現れる。それは２匹のゴブリンであった。文雄は馬車を止めて、

「ゴブリンだ！」

と声をかけた。荒木はヨロヨロなりながら馬車を降り、竹下も吐きながら降りた。厚木も怖いが、悟られない様に外にでる。

文雄はゴブリンと交戦中だ、荒木も何とか戦っているが、劣勢である。竹下はまだ吐いて、応援できる処ではない。

「厚木さん、荒木の支援を！」

厚木は揺れの問題に影響もなく、戦える。強さも４人の中で一番である。３ヶ月ぶりに真剣を持って、ゴブリンを見た。荒木と泥臭い戦いをしている。声を出して参戦する予定だった。

剣を構えて、いざとなると声が出なくなり身体も強ばる。その内に、身体も震えてしまい、剣を落としてしまった。
その音に反応するように、ゴブリンが襲ってきた。

「アギャー！」

「い、いやー！」

恐怖のみが厚木にあった。死が目の前にきたと思っていた。目を瞑り泣き叫んでいた。

焦らず、冷静にすれば、怖がる事が無かった。文雄が、もう一匹のゴブリンを倒したので、支援に入ろうとしていた。荒木と戦っていたゴブリンも、傷だらけで、戦うよりも逃げていた。

荒木は逃げたゴブリンを追って、厚木の手前で倒した。

「大丈夫か？！厚木君！」

荒木に揺さぶられて、目を開けた厚木は、そのまま荒木に抱きついた。

「あ、あ、あ、厚木君？！」

荒木は慌てていたが、幼子の様に抱きついて気を失った。