上 下
240 / 505
第9章 ミネルシルバ

新兵訓練

しおりを挟む
「今日は諸君達にとって、今日は初日である。うっ!まさか・・・・、しょ、諸君達は怪我をしないように気を付けて!と、特別講師をしょ、紹介する!」

強面の教官だった男が震えていた。あの戦いで、篤郎の強さを間近で見たことがあったからだ。

篤郎の異常な強さは、言葉では表されない。体験した者だけが知っているのだから。

だから、歴戦の騎士の教官と違い、細身でチビの篤郎が出てきた瞬間に、場の雰囲気が変わった。

「小さいな。」

「武術なら即終わるな。」

「楽な授業だぞ。」

新兵達は浮き足だった。楽な訓練になると思ったからだ。

「アツロウ殿だ!」

教官は、呼んだ後に拍手をした。
新兵達は、教官の直立不動で力一杯の拍手に対して、おざなりのパラパラした拍手をしたのだ。

「今日は俺が、お前達の訓練を行う。教官も参加可能なので。」

「きゃ、今日は、今後の指導要項の為に観戦します!サー!」

「なんだ。残念だ。」

玩具が一体消えて、篤郎の気分が下がった。それを見て、悪そうな奴が、

「訓練でしたら、実践的にやりましょうや!」

「それ良いね!」

と、囃し立てた。
魔国の飛地は篤郎が勝手に領地にしたので、元の領地と勝手が違う。軍の侵攻を容易にしてしまう為に、防衛にゴーレムを使ってが出来ない。アルテウルの領域に近い場所には魔素が少なくて魔石が取れないのだ。モンスターも弱いのだが、その為に人も弱い。冒険の最初の大陸みたいな土地なのだ。

ビギナーな土地の為に魔石を使うゴーレムは使えない。侵攻を止めたのも、その要因があるためだ。

その為に、人の兵士が必要となった。騎士や王族はもちろん、貴族達は悉く最前線の砦で死守させている。

兵達を揃えてばっかりでは、国力が下がるからだ。

兵士の補充が優先課題となってしまったのだ。

全ては、ルナ達の目論みが外れてしまったのだ。篤郎を魔都に送れば何かをするが、それには時間を掛けるだろうと。一年程の余裕があれば魔国軍隊を整える事は可能だった。その布石の為に、篤郎を国外に出したのだ。まさか、3ヶ月で南部連合を支配下にしてしまうなんて思っていなかったのだ。

そこで急遽、飛地の魔国領では兵士を増強しなくてはならなくなった。いくら強い篤郎とて、一人では全てを守る事は出来ない。

ある程度の軍備は出来ても、防衛だけの戦力は少ないのだ。

アルテウル神国を頭にした連合と南部では、国力が違う。その為の増強なのだ。

「おお!やる気だな!」

喜ぶ篤郎と、冷や汗を流す教官。

「よし!実践的にやろう!」

「えっ?!」

「初日だしな、君達全員との一気訓練を」

「待った!待って下さい!」

「ハンデはやるよ?」

「そんな問題ですか!」

「魔法は使わないし、右手は受けしか使わないし、足技も使わないでは?」

「技とかでは無くて!」

教官が必死なのを見て、冒険者だった者が、

「多数対篤郎どので試合をするんですか?」

「おっ!そうそう。」

「君は黙って!」

「新人でも百人以上は居るのにですか?」

「そうだよ。」

「走る事と左手だけ攻撃をするとか?」

「おお!理解してるねー。」

「そうですか。やりましょうや。」

百人以上の新兵は怒っていた。

身体の筋肉もそんなに無くて、身長も低い。片や、新兵でも身長も高く、筋肉隆々な猛者が沢山いる。元冒険者の肩書きが多いのだ。

そう、見た感じは大人達と子供に見える。

なのに、特別講師は新兵達と戦うと言うのだ。普通なら舐めた事だと思う。だから怒っても仕方は無い。

「準備運動を始めろ!」

「アツロウさま!」

新兵達が冷静で言う事を聞いていたら、教官の『さま』を聞いていただろう。彼等は冷静に、どう虐めるかを相談していた。

「お前とお前が最初に押さえろ。後はリンチだな。」

「痛めるだけか?腕の1個はも切ろうぜ!」

「いいぜ!特別講師を泣かそうぜ!」

怒りを通り越して、残虐の事を大きな声で相談を始めた。それを聞いた教官は黙った。

「出来れば、明日の訓練が出来る程度でお願いします。」

「まっかせて!身体は魔法で治すし。心は知らんけどな。」

「仕方ありません。」

30分後に、

「では、開始する。」

と、篤郎は言った。

「あっ?」

「今から開始と言ったんだが?」

「今から?」

「そう、今から。」

近い者でも10メートルも離れて居ない。要は襲えと言わんばかりの事なのだ。蛮勇か阿保のどちらかと普通なら考える事だ。

「今からか・・・・イケー!」

篤郎は笑顔であった。

最初の行動は、襲って来たので逃げたのだ。捕まりそうで捕まらない距離を調整しながら、逃げた。向きになって追いかけた。

篤郎は脱落した者の近く行き、嘲ったりからかったりをして復活さしながら走らせた。要はマラソンをさせたのだが、新兵達には理解できなかった。其ほどに怒っていたから。

「たった一人も捕まえられないのか?」

「うるさい!待てやごらぁ!」

「もうちょっとだぞ。ほら捕まえてみな。」

「ぜーぜー、くそー!」

これを約20キロを続けたのだ。

「そろそろだな。」

「ま、待ってー!」

全ての新兵が走りきったのだ。それには教官も驚いた。

この走りは大抵は、走りきる者が少ない。初日にはランだけで脱落するものも居る。二時間と言う最低限の時間で、身体に変調も無く行うのは並大抵の事ではない。

「よし!少し休んだら皆で掛かってこい!」

「嘗めんなよ!」

そう、此処までは優しかったのだ。

1対百なら、数が多い百が勝つ。

だが、篤郎は一人で何万もの兵を殺さずに平伏させたのだ。体力も魔力も技術も考えられない程の高さがあるのだ。

新兵達は知らないから、襲って来た。

蟻が大河を襲うように・・・・

ベキッ!

投げ飛ばすのでは無い。正面から左で殴って静めたのだ。

まさに鬼の特訓と化したのだ。

篤郎の怒りによる攻撃だったが、全ての顔に篤郎の左拳の痕が着いた。

「物足りないな。」

「篤郎様・・・・・」

「お前、ちょっと遊ばない?」

「嫌ですよ!」

「そうか・・・・」

そう、篤郎の強さを知っている者は拒否をする。

「誰か相手してくれないかなー。」

篤郎の言葉は、近々現実とかすのだ。
しおりを挟む

処理中です...