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第10章 アルテウル

もう一人の勇者

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逃げ出した魚の群れを網で一網打尽にする。とは、漁師の仕事の中でもうま味がある場面だ。

しかし、戦場では一網打尽するにも、ほとんどが逃げてしまったのだ。
替わりに身代わりの奴隷達を残して、身一つで逃げ出した。

タイマンで勝敗がついて、逃げ遅れた兵が約6万人、奴隷達約28万人と乞食等の方が約30万人と言う大人数が、新たな魔国の奴隷へとなった。

他に食糧や武具、テント等の備品は丸々残っている。王族等も居たのか、金や宝石、魔道もあったよ。

今回は、俺の『四次元部屋』を使用可能になっているので、大した時間も掛からず、回収している。(ほとんどが使い物にならないガラクタ)

でだ。奴隷達が門を潜り終わるまで、警護しなくてはならない。

本来は居なくて良いのに、篤郎が警護に率先している。

誰も、「篤郎様、ここは良いですから。」の言葉も言えないのは、あの戦いを見ているからだ。

「やっぱり、壁が出来るよなー。」

篤郎は、悄気ていた。

本気を出したら、手から光の柱が出るなんて、誰も思ってもいない事だ。
もちろん、篤郎も思ってもいない。
だから、混乱は続いているのだが、顔には出さない様にしている。
王という立場は、一応は理解しているつもりだからだ。

「本気は控えておかないと、駄目だよなー。」

今回は、馬達も出せない状況になっている。それも、篤郎の側に寄り付かない。
しかも、白龍やセキちゃんとチャーミーも側に来ないのだ。

「暇だー。」

そう言いながら、遠く離れた場所で警護しているのだから篤郎のお人好しは消えてない。

今回の動物が近寄らない件は、魔力と神力の相乗と殺気と篤郎の力が相まって、理解出来ない力が働いていた。
それは、その場所ではなく、篤郎自身がその発生源な為に誰も近寄らないのだ。

分かり難い要だから、例えを出すと、大地震の前触れを感知した動物の姿が、人でも感じれる様になった。となる。

発生源の篤郎だけが、解らない事だ。

篤郎は、それでも何か無いか、周辺を探した。
隠れていた間者を見つけて、奴隷紋章を施して魔国に送るだけで、モンスターも動物も鳥も虫さえも見えない。

「暇だー。」

篤郎の警護という探索は続いた。





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篤郎が光の柱を打ち上げた頃。

「お、お、き、な、ち、か、ら?」

一人の貴族の青年は、長い間の闘病生活で疲れはてた細い手を、窓では無い方向に伸ばしていた。
その青年の命の炎は小さく、何時消えても良い状況でもある。

「ひ、か、り。あ、の・・・・」

揺らいだ炎が消えた。
貴族と言っても、病人で寝たきりの所に、この戦である。
財政難に奴隷達を召し上げられて人手が足りなくなった為に、新たな人員を確保するにも困窮しているのだ。
病人に、人が付かない状況下で、生きるのは辛く諦めるしかなかった。

その中での死であった。


このはずの死は、少し違う事が起きた。
魂は消えて、肉体だけが残っていただけだったのだが、肉体がボコボコとあってはならない事が起き出した。

ゆっくりと新たな体が造られると、病人から健康になり筋肉が盛り上がる。
金髪だった髪が燃えるような赤に変わり、瞳の色も赤に変わっていた。
肌も土色から白色になっている。

変化が終わり着れる下着や服を探し、鏡を見ながら合わしていく。
宝石や金品もあらかた探して袋に詰めると、窓から外に出た。

誰も居なくなった部屋は、泥棒よりも強盗に入られた後の様だった。
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