お菓子づくりのアマオウさま! 〜魔王は転生して勝手気ままにお菓子を作りたい〜

心太

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〜一番の側近と両親〜

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「ーーとまぁ、そこからなんやかんや勇者に首を捥がれたジュジュは転生魔法を発動させ、今この時代、あれから六百六十六年後のここフラウマール家の嫡男として生を受けたというわけじゃ。あ、転生といっても死産する魂に融合する法式じゃから、ジュジュは魔王でもありお母上とお父上の子供でもあるのじゃよ!!」

バァーンと効果音が鳴りそうなくらいドヤ顔で言うジュジュに、目の前に座る両親は呆気にとられた顔をしておる。まぁ話してる途中から分かってはいたがの。

「……ジュジュアン、明日治療院に行ってきなさい」
「ジュリーちゃんは想像力たくましくて、お母さん嬉しいわよ~」
「う~む想像通りの答えすぎてさすが両親と思わなくもないが……本当の話なんじゃよ二人とも。ワシは魔王の生まれ変わりじゃ!!」
「こんな夜中に大きな声を出すな!  お前はお菓子屋〝フラウマール〟の天才菓子職人と言われるほどの才能の持ち主だが、だからこそ夜中に奇声を発していたなど変な噂が立ったらどうするんだ!!」
「じゃが事実なのじゃよお父上~あと声がジュジュより大きいぞい?」
「あとその呼び方はなんだ!  昨日までのお父様お母様に戻しなさい。それに口調もだ」
「あら、これはこれで可愛らしいと思うわよ私は。だってジュリーちゃんはお母さんに似て超絶美形の十二歳児なんですもの~」
「いやこの顔はジュジュの生前のものじゃが?  なるべく近そうな顔の両親を選ぶようにしておったが、ほれジュジュのほうが五割増しで美形じゃろ?」
「うちのジュリーちゃんに反抗期が!!?」

違う違うと言ってもお母上は聞いてくれず、お父上も難しい顔をして腕を組んだままじゃ。
まぁ、確かに昨日まで普通じゃった我が子が突然こんな事を言い出したら戸惑うのも分かるのじゃが……もう『時間がない』んじゃよの~。
家名を持っておるがフラウマール家は貴族ではない。ただのーーいやかなり有名なお菓子屋なだけじゃ。
ジュジュが魔王の頃は家名有りの人間族といえば貴族か爵位持ちじゃったが、六百年も経てば変わるもんじゃな……と、そんな益体のないことを考えておる場合じゃなかったわい。

「まったく、大事な話があるからと明日の仕込みを置いてきてみれば、まさか夢の話をするとはな……ジュジュアンよ。お前も来年は十三歳、職業を決める成年式があるんだぞ。だいたいジュジュアンという名前の魔王なんて俺は聞いたことがない。なんでお前と同じ名前なんだ?  それこそ前世の記憶じゃなく夢という証拠じゃないか。そんな話を嬉々として喋る暇があるなら自分の将来に真剣に悩みーー」
「ーーそれは私が、巷で話題のイケメン占星術師に扮してこの名前を推して推して推しまくった結果でございます。お話中申し訳ありません。魔王……いえ〝アマオウ様〟、お迎えにあがりました」

それは、魔法灯の明かりが届かぬ家具の隙間から滲み出るように姿を現した。全身黒の燕尾服に、胸ポケットには魔法で作り出した白薔薇を差しておる。
黒い髪の隙間から覗く真紅の瞳を輝かせながらーーセバスチャンはジュジュに向けて恭しくこうべを垂れた。

「う~む、まだ説得の途中じゃが概ね時間通りじゃのセバスチャン」
「ええ、家具の隙間でタイミングを計っていて良かったです」
「なにそれ怖っ」

軽妙な会話に懐かしさを感じ笑みを浮かべると、セバスチャンも口元に微笑を浮かべ。

ーーそしてなぜか鼻血を垂らした。

「なんでじゃ!?」
「申し訳ありませんアマオウ様。幻惑魔法で老体に姿を変えていない素顔のままで、しかもこのような短パンの似合うショタの姿に転生し笑顔を浮かべるものですから思わず鼻血が出てしまいました」
「え、おぬしそんなやつだったかの?」

この六百年の間に、セバスチャンの性格が変な方向にいっておるようじゃ……なんでじゃ、懐かしさと同時に悪寒が止まらんぞ!!

「あ、だ、誰だあんたっ」
「これはすみません、アマオウ様の父君殿。我が主人との久々の会話に私ともあろう者が興奮してしまったようで挨拶が遅れました。私はアマオウ様の一番の側近、名をセバスチャンと申します。これはつまらないものですが魔界のお土産三十年連続一位の味噌饅頭です」
「あ、これはご丁寧にどうも。饅頭に味噌とはまた珍しいーーじゃなくて!!  あんたは誰だ、どこから入ってきたんだ!!  か、母さん憲兵を呼べっ」
「あらやだイケメンっ……」
「ははは、貴女もまだまだお若くお美しい。さすがアマオウ様の母君殿でございます」
「母さん!!?」

イケメンに弱いお母上は良いとして、いま憲兵に来られると色々面倒じゃ……仕方ない。お父上には少し身動きを制限させてもらうかの。

「すまんの~お父上」
「な!?  なにをするジュジュアン!!?」

ジュジュは拘束魔法でお父上を椅子に縛り付け、改めて向き直った。縛ったことへの罪悪感が半端ないなこれ……

「お菓子屋フラウマールでは様々な材料を使ったお菓子を見てきた。じゃがジュジュはもっともっと、この世界だけでなく異世界のお菓子も全て知って作りたいと思っておるのじゃ。一年後の成年式までには必ず戻るので、とりあえずジュジュはセバスチャンと旅立とうと思うておる」
「なにを言っている!  お前はその男に魔王などと言いくるめられて騙されているんだ!!  旅など危ないものを俺は許さんぞジュジュアン!!?」
「ジュリーちゃんが居なくなったらお母さん寂しいわっ」
「ありがとうの~。ジュジュのことちゃんと心配してくれて、お父上とお母上の子に転生できて本当に良かったぞい。許可を貰えないのは予想しておった……じゃからこそ、月が満ちる夜の前日に記憶が戻るようにしておったのじゃ」
「アマオウ様、銀の酒杯に満たした御神酒が満月を捉えました。今なら月の女神の魔力を奪って大規模魔法が使えます」
「大規模魔法だと……待て、なにをするつもりだ?」
「なに、一年だけこの町の者達に幻惑魔法をかけるだけじゃ。ジュジュが居るようにな……それではお父上、お母上。忙しなくてすまんが、一年後には必ず帰ってくるのでな。どうか無病息災であれ」
「ジュジュアン!!?」
「ジュリーちゃん!!?」

両親の叫びに胸を痛めながらジュジュは幻惑魔法を発動し、セバスチャンと共に闇夜の中へ飛び込んだーー
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