15 / 20
魔獣の巣穴と光魔法
しおりを挟む
「フォル。本当にこんなに村から離れた所にミューリくんがいるの?」
『ああ、間違いない』
「いくら山になれている子供といっても、こんな所まで土地勘があるとは思えないが」
ディアナたちはやっとスピードを落としたフォルディスの背中の上で周りを見渡す。
村から山の奥へフォルディスが飛び込んでしばし。
魔獣が目指したのは村からかなり離れ、沢を一つ飛び越した先であった。
そんな所まで小さな子供が一人でやってくるにはかなりの時間が必要になるはずだ。
「もしかしてこんな遠くまで来ないとエリキ茸がもう採れなくなってるってことなの?」
「かもしれないな。だが、それにしても遠すぎるとは思うが」
『多分お主らが言っていることは間違いだ』
「えっ」
フォルディスはさらに歩む速度を緩め周りの臭いを嗅ぎながら答える。
『この辺りにはエリキ茸の臭いはしない』
「じゃあどうしてミューリくんはこんな所まで……」
『簡単なこと。そのミューリとかいう坊主は魔獣の巣に連れて行かれたからだ』
「どういうことだ?」
『そやつは村の側で魔獣に襲われて餌として連れ去られたと言っておるのだ』
「ええっ、じゃあ早く助けてあげないと」
「それよりもミューリは無事なのか?」
フォルディスの言うように魔獣がミューリを襲って餌として連れ去ったなら、もう殺されていても不思議では無い。
いや、むしろ生きている可能性の方が少ないのではないか。
『坊主なら無事だろう。多少怪我をしているようだがそれほど出血もしていないし、臓腑をまき散らしたような臭いもしない』
「臓腑……」
フォルディスの言い方に顔を青ざめさせるディアナの横で、アシュリーは何か気がついた様子で口を開く」
「餌を殺さず巣まで連れ去る……もしかしたらその魔獣というのはフォレストスパイダーか?」
フォレストスパイダー。
森の奥深くに生息するという巨大な蜘蛛型の魔獣である。
個体数はそれほど多くないが、繁殖期になると自分より大きな獣や魔獣を自らの体から吐き出した糸を使って捕獲し、巣に持ち帰りその生体に直に卵を産み付けるという生態が確認されている。
ただ殆どのフォレストスパイダーは大きくても体長は一メルほどしかなく、人を襲う事はめったに無い。
『我には魔獣の名などはわからぬが、香りからして虫けらであることは間違いなさそうだな』
「虫けらか。お前にとってはそうかもしれないが、我らにとったら子供とはいえ人間の子供を襲って生け捕りにするほどの個体は強敵だぞ」
「そんなことより早く助けに行こうよ。もしアシュリーが言ったとおりだったら卵を産み付けられちゃうんでしょ?」
「そうだな。ただまだ生きているなら卵は産み付けられていないはずだ」
底まで話した所で、ゆっくりと歩みを進めていたフォルディスがその足を止める。
『あの穴の中に坊主がいる』
フォルディスの視線を二人が追うと、山肌にアシュリーの背丈より大きな穴がぽっかりと空いているのが見えた。
それがフォレストスパイダーの巣穴らしい。
「でかいな。私も今まで何体かフォレストスパイダーは倒してきたが、あれほどの大きい巣穴は初めて見る」
「ということはその蜘蛛さんってあれくらい大きいって事だよね」
『その虫けらは近くにはいないようだな』
「多分卵を産み付けたあと子供たちが生まれたら食べるための餌がまだそろってなくて狩りにいったのだろうな」
「つまり今がチャンスってこと?」
ディアナとアシュリーが顔を見合わせて頷き合う。
『お前たちはさっさと巣穴から坊主を連れ出してこい。我は前で見張っててやる』
「頼むぞ」
「怪我しないでね」
『誰に言っている。力は戻っていないとはいっても虫けらごときに後れは取らぬ』
心配げな表情で先に巣穴には行っていくアシュリーの後を追うディアナに、フォルディスは凶悪な口に笑いを浮かべて答えると穴に背を向け見張りを開始した。
「明かりを付けるぞ」
「うん」
巣穴の中に入ったアシュリーは、村人から受け取っていた松明に魔法で火を付ける。
「光魔法が使えればそちらの方が良いんだけどな」
「私使えるよ?」
「は? 今なんて?」
きょとんとした表情でとんでもないことを口走ったディアナに、アシュリーは思わず間の抜けた声をあげてしまう。
「だから光魔法なら使えるよ。えいっ」
ディアナの間の抜けたかけ声に合わせ、二人の間に光り輝く球体が突然現れた。
それを驚きの表情で見ているアシュリーに、ディアナは自慢げな顔で胸を張る。
「光魔法なんて高度な魔法をお前が? どうして?」
「フォルがね、旅に出た日に『お前は光魔法が使えるはずだ』って教えてくれたの」
「使えるはずだって……理由はあとでフォルから聞き出すとして、それだけで使えるようになったのか?」
「うん。といっても光を出す事しかまだできないんだけどね。夜とかに便利だよ」
アシュリーは松明の火を消しながら頭を押さえる。
「そんな力があるならどうして私と会った後にキャンプとかで使わなかった……あっ。お前夕飯を食べると直ぐ寝てたな」
「旅は疲れちゃうし、ディアナのご飯美味しいからつい食べ過ぎちゃって眠くなるんだよね」
料理が美味しいと言われ、少し嬉しくなったアシュリーだったが、今はそんなことを話している場合では無い事を思い出し、ディアナに「その光を前方に向けてくれ」と告げると巣穴の奥に向けて再び歩みを進める。
ディアナの光魔法のおかげでかなり明るくなった巣穴の中は思ったより深く、かなり奥まで進んだ所でやっとそれらしき場所にたどり着く。
円形にくりぬいたような形のその部屋には、アシュリーが手を伸ばしても届かないような高さに白い繭のような物が何個もぶら下がっているのが目に入った。
『ああ、間違いない』
「いくら山になれている子供といっても、こんな所まで土地勘があるとは思えないが」
ディアナたちはやっとスピードを落としたフォルディスの背中の上で周りを見渡す。
村から山の奥へフォルディスが飛び込んでしばし。
魔獣が目指したのは村からかなり離れ、沢を一つ飛び越した先であった。
そんな所まで小さな子供が一人でやってくるにはかなりの時間が必要になるはずだ。
「もしかしてこんな遠くまで来ないとエリキ茸がもう採れなくなってるってことなの?」
「かもしれないな。だが、それにしても遠すぎるとは思うが」
『多分お主らが言っていることは間違いだ』
「えっ」
フォルディスはさらに歩む速度を緩め周りの臭いを嗅ぎながら答える。
『この辺りにはエリキ茸の臭いはしない』
「じゃあどうしてミューリくんはこんな所まで……」
『簡単なこと。そのミューリとかいう坊主は魔獣の巣に連れて行かれたからだ』
「どういうことだ?」
『そやつは村の側で魔獣に襲われて餌として連れ去られたと言っておるのだ』
「ええっ、じゃあ早く助けてあげないと」
「それよりもミューリは無事なのか?」
フォルディスの言うように魔獣がミューリを襲って餌として連れ去ったなら、もう殺されていても不思議では無い。
いや、むしろ生きている可能性の方が少ないのではないか。
『坊主なら無事だろう。多少怪我をしているようだがそれほど出血もしていないし、臓腑をまき散らしたような臭いもしない』
「臓腑……」
フォルディスの言い方に顔を青ざめさせるディアナの横で、アシュリーは何か気がついた様子で口を開く」
「餌を殺さず巣まで連れ去る……もしかしたらその魔獣というのはフォレストスパイダーか?」
フォレストスパイダー。
森の奥深くに生息するという巨大な蜘蛛型の魔獣である。
個体数はそれほど多くないが、繁殖期になると自分より大きな獣や魔獣を自らの体から吐き出した糸を使って捕獲し、巣に持ち帰りその生体に直に卵を産み付けるという生態が確認されている。
ただ殆どのフォレストスパイダーは大きくても体長は一メルほどしかなく、人を襲う事はめったに無い。
『我には魔獣の名などはわからぬが、香りからして虫けらであることは間違いなさそうだな』
「虫けらか。お前にとってはそうかもしれないが、我らにとったら子供とはいえ人間の子供を襲って生け捕りにするほどの個体は強敵だぞ」
「そんなことより早く助けに行こうよ。もしアシュリーが言ったとおりだったら卵を産み付けられちゃうんでしょ?」
「そうだな。ただまだ生きているなら卵は産み付けられていないはずだ」
底まで話した所で、ゆっくりと歩みを進めていたフォルディスがその足を止める。
『あの穴の中に坊主がいる』
フォルディスの視線を二人が追うと、山肌にアシュリーの背丈より大きな穴がぽっかりと空いているのが見えた。
それがフォレストスパイダーの巣穴らしい。
「でかいな。私も今まで何体かフォレストスパイダーは倒してきたが、あれほどの大きい巣穴は初めて見る」
「ということはその蜘蛛さんってあれくらい大きいって事だよね」
『その虫けらは近くにはいないようだな』
「多分卵を産み付けたあと子供たちが生まれたら食べるための餌がまだそろってなくて狩りにいったのだろうな」
「つまり今がチャンスってこと?」
ディアナとアシュリーが顔を見合わせて頷き合う。
『お前たちはさっさと巣穴から坊主を連れ出してこい。我は前で見張っててやる』
「頼むぞ」
「怪我しないでね」
『誰に言っている。力は戻っていないとはいっても虫けらごときに後れは取らぬ』
心配げな表情で先に巣穴には行っていくアシュリーの後を追うディアナに、フォルディスは凶悪な口に笑いを浮かべて答えると穴に背を向け見張りを開始した。
「明かりを付けるぞ」
「うん」
巣穴の中に入ったアシュリーは、村人から受け取っていた松明に魔法で火を付ける。
「光魔法が使えればそちらの方が良いんだけどな」
「私使えるよ?」
「は? 今なんて?」
きょとんとした表情でとんでもないことを口走ったディアナに、アシュリーは思わず間の抜けた声をあげてしまう。
「だから光魔法なら使えるよ。えいっ」
ディアナの間の抜けたかけ声に合わせ、二人の間に光り輝く球体が突然現れた。
それを驚きの表情で見ているアシュリーに、ディアナは自慢げな顔で胸を張る。
「光魔法なんて高度な魔法をお前が? どうして?」
「フォルがね、旅に出た日に『お前は光魔法が使えるはずだ』って教えてくれたの」
「使えるはずだって……理由はあとでフォルから聞き出すとして、それだけで使えるようになったのか?」
「うん。といっても光を出す事しかまだできないんだけどね。夜とかに便利だよ」
アシュリーは松明の火を消しながら頭を押さえる。
「そんな力があるならどうして私と会った後にキャンプとかで使わなかった……あっ。お前夕飯を食べると直ぐ寝てたな」
「旅は疲れちゃうし、ディアナのご飯美味しいからつい食べ過ぎちゃって眠くなるんだよね」
料理が美味しいと言われ、少し嬉しくなったアシュリーだったが、今はそんなことを話している場合では無い事を思い出し、ディアナに「その光を前方に向けてくれ」と告げると巣穴の奥に向けて再び歩みを進める。
ディアナの光魔法のおかげでかなり明るくなった巣穴の中は思ったより深く、かなり奥まで進んだ所でやっとそれらしき場所にたどり着く。
円形にくりぬいたような形のその部屋には、アシュリーが手を伸ばしても届かないような高さに白い繭のような物が何個もぶら下がっているのが目に入った。
10
あなたにおすすめの小説
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました
菱沼あゆ
ファンタジー
妹の婚約者を狙う悪女だと罵られ、国を追い出された王女フェリシア。
残忍で好色だと評判のトレラント王のもとに嫁ぐことになるが。
何故か、輿入れの荷物の中には、勇者の剣が入っていた。
後宮にも入れず、魔王を倒しに行くことになったフェリシアは――。
(小説家になろうでも掲載しています)
私は私で幸せになりますので
あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。
ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。
それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。
最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる