「とにかく顔がいい」らしい

黄泉

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最低な出会い

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「あなたの顔がやばいくらいに好きです!付き合ってください!!!」
 
家の近くのカフェで一人紅茶を飲んでいたら、いきなり告白された。
正しくは、向かい合う形の二人席に座っていたら、正面の席に断りもなく座られ割と大きな声で叫ばれたのだ。

「あなたを見た瞬間、私はあなた以上に顔が好みな人はいないと確信しました。私にはあなた以外いません!私と結婚してください!」

私はあまりの出来事に目を大きく見開いた。

何言ってるの、このひと。

一途な愛の告白っぽく言ってるけど顔が好きって・・・。しかも初対面なのに。やばい、この人頭おかしいわ。
しかも、さっき付き合ってくださいって言ったくせに、次は結婚してくださいとか言ってるんだけど・・てか誰だよあんた!!

「申し遅れましたが、私トマトと申します。」

うわー、ツッコミどころが多すぎて私がフリーズしている間に、冷静に自己紹介されたー。ってかトマトって何?!ふざけてんの?まじで頭おかしいヤツ来ちゃった!こわい、一周まわってめちゃくちゃ怖いわ。

「あっ、初対面の人にはよく間違えられるんですが、トマトって言うのは野菜の方じゃなくて『 十真都』って書くんです。ちゃんとした苗字なんですよ?」

と、十真都は空中に漢字を書きながら説明した。

「あ、そうなんですか。すみません、野菜のトマトの方かと思って正気を疑ってしまいました。」

「そんなわけないじゃないですかーw」

「ですよねーw」

・・・いや、そんなのんきなこと話してる場合じゃないわ。完全に相手のペースになってる。目を覚ますんだ私!

「では、私は用事があるのでこれで失礼します。」

こんなの帰ったもん勝ちだわ。はよ帰って忘れよ。

「では、またお会いしましょう。」

十真都は全てを見透かすような目で笑いながら私を見送った。

私は足早に自分の家を目指した。歩いて15分かかる道のりを強歩し、約9分で家にたどり着いた。そして倒れ込むようにソファーに寝転んだ。
  
なんだったんだ?今までこんな体験無さすぎて(ある人はほとんどいないと思うが)パニックだよ。びっくりしすぎて最短記録で家までついてしまった。

・・・ん?
ってかアイツまたお会いしましょうだのなんだの言ってた?いや、会わねーよ・・・会わないと信じたい。

あとなに?私の顔が好きとか言ってた?私そんなに美人じゃないんだけど?ブスとまではいかないけどさ、よくある顔代表みたいな目立たない顔だと自覚してるよ?わけわかんないー。

頭で処理できない出来事が起こり、ソファの上でのたうちまわった。そしてそのままソファの上から転がり落ちた。

痛っ!

頭を抱えて飛び上がり、痛みで少し冷静になった。そして彼女は思った。

よし、忘れよう。うん、今日は何も無かった。

25歳独身佐原 朋美さはら ともみは、考えることをやめた。

 
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