はこのそこには

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はこのそこには

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おじいちゃんからダンボールがとどいた。
毎年夏になると、お米やおやさいをいっぱいつめておくってくれる。
お母さんは大よろこび。
でもわたしの一番のもくてきは…おかし!
ふわふわのマシュマロ、さくさくのクッキー、ちょこっととけたチョコレート。
こんなにたくさんおかしをくれるなんて、おじいちゃんわたしのたん生日まちがえてるよ。
ようちえんの時、お母さんにいって笑われたっけ。

あれ、はこのそこにもう一つ、見たことないのが入ってるよ。何かな何かな……
『昆虫』ゼリー? まだならってないかん字だ。虫は読めるよ。『むし』だよね。
むしのかたちのゼリー? 男の子ならよろこびそうだけど。
おじいちゃん、いとこのこうたくんの家とまちがえちゃったのかな。
あ、でも6しゅるいのフルーツあじだって。おいしそう。もらっていいよね。

「お母さん、虫のゼリーだって。色もすごくきれいだよ。食べてもいーい?」
「? ちょっと、これ『こんちゅう』ゼリーじゃない!」
『こんちゅうゼリー』と読むらしい。
「おじいちゃんたら、まちがえちゃったのね。これは虫が食べるゼリーだから食べちゃだめよ」
「え、虫がゼリーを食べるの?」
「そうよ、でもすてるのももったいないわね。どうしようかしら」
知らなかった。なんていったっけこういうの。小学校の、田中先生がいってたよ。

……そうだ、せかいは広い、だ。

「お、昆虫ゼリーか。なつかしいな」
お父さんだ。
「お父さん知ってるの?」
「もちろんさ。子どものころはよくこれでカブト虫をおびきよせてつかまえたもんだ。」

なるほど。お父さん、ずのうはだね。

あ、まって。これをつかえばわたしもカブト虫をつかまえられるんじゃ?
虫はあんまり好きじゃないけど、カブト虫は大じょうぶ。
茶色くピカピカ光ってきれい。
学校の友だちだって、こうたくんだってかってない。
だって、こんなにきれいでおいしそうなゼリーが100こもあるんだよ。
わたしだって食べたいもん。カブト虫だって、ぜったい食べたいにきまってる。

きまりきまり。

じゅんびオーケー。
もちものは、昆虫ゼリーとお母さんのストッキング。
地めんにおいただけじゃ、カブト虫が見つけられないかもしれないからね。
ストッキングにゼリーを入れて、うら山の木にくくりつけるの。
わたしもずのうはのなかまいり。お父さんのむすめだからね。

はあ、つかれた。
100こもおくのは大へん。ぜんぶなくなっちゃったけどいいよね。
知ってた? カブト虫は夜の方が元気なんだよ。夜こうせいっていうんだって。
夜は一人で出かけられないから、明日の朝早く見にいくの。
おじいちゃん、すてきなプレゼントありがとう。おやすみなさい。

よかった。ちゃんとおきられた。
お母さんとお父さんにないしょで出てきちゃったな。けどびっくりさせたいもんね。
「な・ん・び・き・い・る・か・な~~~~~♪」


「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
むしがむしがむしがむしがむしが。
うじゃうじゃうじゃじゃ。
げじげじにょろにょろげじにょろにょろ。
なんていってるばあいじゃないって!
ぞわって!ぞわってした!
おじいちゃん、もうぜったい!
もうぜっっったい!!昆虫ゼリーなんておくってこないで!!!




おじいちゃんからダンボールがとどいた。
毎年夏になると、お米やおやさいをいっぱいつめておくってくれる。
お母さんは大よろこび。
でもぼくの一番のもくてきは…おかし!
ふわふわのマシュマロ、さくさくのクッキー、ちょこっととけたチョコレート。
あれ、はこのそこにもう一つ………
                                                                                 
                                    完
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