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第34話 後継

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ミライザは、コバルトブルーの美しいドレスに身を包み、濃紺の長い髪を結いあげて王国舞踏会へ向かった。左手の薬指にはグランから貰ったゴールドの指輪を身につけている。マージャス侯爵家には、宝飾品が殆ど残っていない。母の遺品であるシルバーのネックレスだけがミライザの胸元を飾っていた。

舞踏会場に入る際に、大声で案内される。
「マージャス侯爵様のご入場です」

ミライザは、輝く大広場へ胸を張って入っていった。

ミライザを見て、大勢の貴族が驚いたような表情をしていた。

近くにいる壮年の男女は、小声でミライザを見ながら話し合っている。

「死んだはずの侯爵令嬢が生きていた」

「確か、根暗で不細工な長女と言われていませんでしたか?本当に彼女が?」

「ルクラシア様の話とは違うような」

会場にいる人達は、ミライザを見た後、戸惑ったように舞踏会場の奥の貴賓席を見る。

貴賓席には、あの人がいた。

元マージャス侯爵夫人であり、ミライザの義母でもあったルクラシアが。






金髪の気が強そうな美人であるルクラシアは、紫色の派手なドレスを身につけて、ミライザを睨みつけてきていた。

遠くにいるが、ミライザはルクラシアと眼が合った。

ルクラシアは不愉快そうに顔を歪めている。

ルクラシアの隣に座っている男性が、彼女の耳に何かを囁いている。

ルクラシアは、驚いた表情で隣の男性を見て、なにか話をしているようだった。


ミライザは、ルクラシアの事が気になった。彼女とは、父が亡くなってから一度も会っていない。それに妹のローザリンの姿が見えない。ローザリンは娘としてルクラシアの再婚相手に受け入れられたはずだ。当然今日の舞踏会にも参加するはずだと思っていた。

ルクラシアの再婚相手は、王妃の弟でもあるアシリー公爵なのだから。

アシリー公爵家は、広大な公爵領に鉱山を複数所有しており、王国内で最も裕福な貴族だった。何代も王妃を輩出しており、数代前には王女が降家している。第二の王家と言っても過言でもない家だった。現アシリー公爵は、ルクラシアを後妻に迎えた。なぜかローザリンも実子として迎え入れたらしいと噂に聞いた時は、ミライザはとても驚いた。ローザリンの美しい水色の髪は、父とそっくりで明らかにマージャス侯爵家の血筋だと分かるはずなのに、まさか義母は父だけでなく、以前からアシリー公爵とも付き合っていたのだろか?交友関係が派手な義母ならあり得るが、ローザリンの事だけはミライザは、納得いかなかった。


ルクラシアは、隣に座るアシリー公爵と共に席を立ち、どこかへ行くようだった。少し言い争っているようにも見える。ミライザは気になり、ルクラシアの元へ行こうとしている時に声をかけられた。

「ミライザ様、お会いできるのを楽しみにしていました」

声をかけてきたのは、茶髪の男性だった。ミライザは今まで社交界に参加してこなかった。目の前の男性にも見覚えがない。急に声をかけられて戸惑っていると男性が言った。

「私はロイザー・ギンガスです。お父上の事は残念でした。お父上は私と貴方の結婚を熱心に勧められていました。まさか貴方がこんなに素敵な女性だとは思っていませんでした。今からでも、私と婚約を」

(思い出した。ギンカス伯爵家の三男だわ。お父様が私との婚約を纏めていた。)

「待ってくれ!ギンガス家との縁談は破談になっているはずだ。だいたいロイザー殿は、行き遅れの不細工な長女なんてゴメンだと散々文句を言っていたでは無いですか?ぜひ私と結婚を前提に・・・・・・」

会場に入ると共に、ミライザは沢山の男性に取り囲まれた。

なぜか、若い貴族達は熱心にアピールしてくる。

彼らは数週間前までミライザの事を馬鹿にしていたはずだ。くだらない噂話を信じ込み、妄想のような事を事実だと笑っていたはずだった。

ミライザは、目の前の男達を睨みつけ
、持っていた扇を横に大きく振った。







「今日は、爵位継承の挨拶に来ました。陛下の元へ参ります。道を譲ってくださいませ。ありもしない事を噂する男性は嫌いですわ」

ミライザの言葉に、ロイザー・ギンガスは顔色を悪くして後退った。

(やっぱり、私を悪く言っていたのは、ギンガス伯爵家だったのね。本当に、お父様は人を見る目が無い)

ミライザは、男性達の間を通り抜けて前に進んで行った。








舞踏会場には、美しいドレスを身につけ、扇で口元を隠しながら笑っている女性達、刺繍を施されたタキシードを着込んだ男性が、ワイングラスを傾けている。

知らない人達ばかりの中をミライザは堂々と歩いて行った。

もう心細くもない。

グランから貰ったゴールドの指輪がミライザの指で輝いている。

ミライザは一人では無い。

マージャス侯爵領の皆の代表としてここにいる。

ミライザは、舞踏会の奥まで進み、国王へ挨拶をした。

「ミライザ・マージャスと申します」

ミライザのコバルトブルーのドレスは、波のように光り輝き、ミライザの美しさを際立たせる。


辺りから感嘆の溜息が聞こえていた。


国王はミライザへ言った。
「前侯爵は、長女が後継だと生前から言っていた。よくリアンナ夫人に似ている。噂は当てにならんな。王妃よ」

「ええ、本当に。良かったですわ。マージャス家に正統な後継が戻って来て私も嬉しいです。帝国学院で、研究されていたとか。優秀な人物だとローニャ博士が言っていました。期待していますよ。
それにしても、アシリー公爵には呆れます。我が弟ですが、あの嘘つきな女狐を迎え入れるなんて」

ミライザは訝しく思った。王妃とアシリー公爵はあまり仲が良く無いのかもしれない。それに女狐とはルクラシアの事だろうか?昔祖母からも女狐と聞いた事がある。

「ありがとうございます」


ミライザは、一礼をして王族席から離れた。王族席の下座の貴賓席は空席になっている。アシリー公爵とルクラシアはまだ帰ってきていない。

ふとミライザは視線を感じて、舞踏会場の2階を見た。

白い手摺の向こうに、水色の長く美しい髪が通り過ぎた気がした。

















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