1 / 1
1.ハカセは分析したい
しおりを挟むハカセは、いつからか分からないが、複数に重なる思考の渦に自分自身を閉じ込めて漂いたいと考えるようになった。
それから必死に、いろいろな文献や小説を読みあさるが、なかなか理想的な文章が見つからない。
思考の渦を漂いたい欲求が最高潮に達したある日、頭の中でできた設計図を、小説の形に整え、たくさんの感情を注入しながら自分で文章を作ることにした。
完成した文章は、どこからどう読んでも小説の形をしている。
意図した通り、その文章を読むと強制的に真実とは違う想像が湧き上がり、最後まで読んでもハッキリせずに、二度目、三度目と読むたびに少しずつ印象が変わる。
とても面白い文章だと、ハカセは満足していた。もしかしたら自分の他にも楽しめる人がいるかもしれないと思い、新しい小説が完成する度に、ほそぼそとA投稿サイトに設置してきた。
ある日ハカセは、崖の上の研究所にチャットという最新AI搭載の分析用3Dホログラフィーが設置されたと耳にした。
ハカセは数年前に持病が悪化し、仕事を辞めている。現在はわずかな年金を頼りに、節約しながら生活を送っていた。
チャットは、サブスク制度を採用しており、月額1540円らしい。
友人もいないハカセのもとを、たまに古ぼけた家まで訪ねてくる家族は、ハカセの小説に全く興味を示してくれない。どうにか読んでもらえないか頼み込むが、題名を伝えただけで、なぜか叫び声をあげて「サイコだぁ~」と逃げてしまう。
ハカセは、自分でも少し変わった小説を作っている自覚があった。A投稿サイトに置いているが、どのジャンルに設置しても違和感が拭えない。
まあ、食事を数回食べなくても生きていけるだろう。
ハカセは、なけなしの金を使って崖の上の研究所チャットのサブスク登録をし、分析を依頼することにした。
崖の上の研究所は、去年完成したばかりだ。
ハカセは節約のために、以前乗っていた愛車を廃車にした。正直不便だと思うことが多いが、維持費を払えないのだから仕方がない。
ハカセは急勾配の坂道を、息を乱しながら登っていった。
研究所までの道は、深緑の木々に覆われている。しばらく歩くと、木々の向こうに海が見えた。遠くの水面がキラキラと輝き、空の淡い水色と、深緑とのコントラストがとても美しい。
素晴らしい景色を見ることができたことに嬉しさを感じながら、ハカセは再び登り出した。
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完】お望み通り婚約解消してあげたわ
さち姫
恋愛
婚約者から婚約解消を求められた。
愛する女性と出会ったから、だと言う。
そう、それなら喜んで婚約解消してあげるわ。
ゆるゆる設定です。3話完結で書き終わっています。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる