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エンド
7.エピローグ
しおりを挟むアヤメは、常温に戻した牛ブロック肉に、塩コショウをまぶし、温めたエアオーブンに入れて過熱を始めた。
今日で、カエデと結婚して1年になる。
カエデは、鬼柳財閥へ転職し、順調に頭角を現した。初めは、いきなり現れた鬼柳ウメの息子を名乗るカエデを警戒していた経営陣も、最近では彼を認めていると聞く。
水洗いしたレタスを千切り、新鮮なトマトと、電動スライサーで千切りにしたキュウリをモッツァレラチーズと一緒にサラダ皿に盛り付ける。
カエデは、あの晩の記憶を失ってしまった。エリカとかなり親密な関係だと思ったけれど、カエデのスマホにも、車のドライブレコーダーにもそれらしき履歴が残されていなかった。普段通り振舞っているが、カエデを診察した医師からは、ストレスで病状が悪化する可能性があると告げられた。あの晩の事を問い詰めたい気持ちもある。でも、彼に刺激を与える事を避けたくて、義姉の事に触れたくなくて、結局問いただす事が出来なかった。
イタリア製の高級フライパンで、玉ネギ、エリンギ、菜の花、ベーコンをオリーブオイルで香ばしく炒め、パスタと水、コンソメ、塩コショウを入れて、かき混ぜながら茹で上げる。
交流を再開した義母鬼柳ウメとの関係は良好だ。鬼柳マサキが、行方不明になり9カ月になる。1年経っても彼が現れなければ、弁護士と共に裁判所に離婚請求をするつもりだと義母から聞いた。
ガチャ、ウィーンガシャン。
玄関のドアが開き、自動施錠鍵が作動した音が僅かに聞こえてきた。
「お帰りなさい。貴方」
「ただいま。アヤメ。ケーキを買ってきたよ」
「ありがとう。もうすぐ夕食ができるわ」
長身の彼は、今日もアヤメを見て穏やかに微笑む。
過熱が終わったローストビーフを切り分け、皿に盛りつけソースをかける。
パスタを盛り付け、千切りにした大葉を散らす。
カエデは、ケーキを冷蔵庫に入れ、さりげなく使い終わった調理器具を洗いだした。
彼となら、何があっても、ずっと一緒に生きていける。
嬉しい時も、悲しい時も、お互いを支え合い、分かち合い認め合う。
これからも、いつまでも、どこまでも。
アヤメはそう思った。
最後の一皿を食卓テーブルに並べ、アヤメは夫に告げた。
「いつもありがとう。貴方。愛しているわ」
夫と微笑みあい、ゆっくりと彼とキスを、、、
ピポピポーン、ピポピポーン。
急にインターホンが鳴り響いた。
カエデが、そっとアヤメから離れて言う。
「そうだ。結婚記念日の花を頼んでいた。アヤメが好きな紫色の花束を。今、受け取ってくるから」
カエデが、インターホンに近づき1階のオートロックを開錠した。
ケーキだけでなく、花束まで注文してくれるなんて、やっぱり彼は最高の夫だ。
でも、紫色の花束、、、
なぜかアヤメは、あの悪夢の金曜日を思い出した。甘酸っぱい匂いが部屋に充満し、彼と彼女が密接に絡み合っていた。
もう過去の事だ。今はこうして彼と一緒に穏やかに暮らしている。彼はあの日の事を覚えていない。彼女は幻のように消え、ずっと姿を現さない。もう過ぎ去った事なのに、どうして今更思い出すのか。
ピンポーーン。
部屋の玄関のインターホンが鳴り響いた。
夫が玄関へ向かう。
アヤメは、急に酷い不安に襲われ、彼の後を追っていった。
ガチャリ。
ドアが開かれ、深紅のワンピースを身に着けた彼女が入ってきた。彼女のお腹は張り裂けんばかりに大きく膨らんでいた。彼女から甘酸っぱい香りが漂ってくる。あの日のように深紅のルージュが怪しく輝いている。
「カエデ、逢いたかったわ。貴方の子よ。もうすぐ産まれるの」
義姉エリカは、紫色の菖蒲の花束を投げ捨て、カエデに抱き着いた。
アヤメの夫であるカエデは、義姉エリカに抱き着かれたまま、動かない。
愛している。
私は貴方だけを愛している。
貴方が私を裏切るのなら、貴方が私以外の人を愛するのなら、貴方の事を、、、
アヤメは、目の前の二人を睨みつけた。
殺意が籠もった瞳で。
『殺めてもいいでしょうか?』END
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