7 / 15
うわごと
「あ"~、お"ばよ"ー」
それは爽やかな朝の爽やかな挨拶には程遠い声だった。
今朝のリディルの声は、月も星も雲に隠された深夜の墓地に響くのが似合いの声だった。
「リディル? 声がおかしいが…。顔色も悪いな。昨夜風呂上がりに濡れた髪のままで筋トレとやらをしたせいか?」
テーブルに用意して置いた朝食を俺はちらりと見た。
焼かれたパンに、オムレツにサラダにスープ…リディルは食べられるのか? オムレツに添え付けてある腸詰め肉は無理だろう。普段から脂の多い物は苦手だし。
しかしリディルは俺の心配を他所にテーブルへと近付いて行く。
俺が椅子を引けばストンと腰を下ろしてフォークを手に取った。
どうやら食欲はあるらしい。
それならば、問題ないか?
「ん"あ"ー? ごの"時期に"髪が濡れ"だぐら"い"で具合が悪ぐな"る"がよ"」
いや。思い切り声の具合が悪いのだが。
あの高く澄んだ声は何処へ消えたんだ?
いや、今のリディルならば、この声の方が良いとか言うかも知れないが。
まあ、食欲があるのならば、ただの鼻風邪だと云う事なのだろうか。
「あ"あ"、ぷりぷりのウ"ィ"ン"ナ"ー、い"い"よ"な"。ごの"皮がばぢ切れ"る"ぐら"い"ま"で焼ぐの"い"い"よ"な"」
ん?
肉は鶏肉以外は駄目かと思っていたが、腸詰め肉はいけるのか。覚えて置こう。
そう思いながら、リディルの対面へと回り込み、そこにある椅子に腰を下ろそうとしたら。
「う"げぼろ"ぉ"ボぼぼぼぼぼぼぼお"~」
「リディル!?」
リディルがいきなり吐いた。
オムレツと腸詰め肉の乗った皿が大惨事だ。目もあてられないとは、正にこの事か。
慌ててリディルの傍へと寄り、その背中を擦る。
「ごの"あ"ぶら"…お"っ"ざん"に"ばギヅい"…」
なら、何故食べたっ!!
「あ"~…吐い"だら"頭がグラ"グラ"じで来だ…寝る"…」
そのまま立ち上がり、ふらふらとベッドへと向かおうとするリディルを押し留まらせて、水で口を濯がせて汚れた服を着替えさせてからベッドへと運んだ。その間何の抵抗も無かった事から、かなりの具合の悪さだと判断する。
額に濡れたタオルを乗せれば、気持ち良さそうに目を細めた。
筋肉は無理に鍛えようとすれば負荷が掛かり、逆に身体に良くはない。
リディルのこれは身体を無理に鍛えようとして、逆に身体を痛めつけてしまったのだ。身体が休ませてくれと悲鳴を上げたのだろう。
「風邪だと思うが、念の為に医師を手配して来る。このまま大人しく寝ている様に」
「い"ら"ね"え"。寝でれ"ば治る"」
熱で朧に潤んだ目を向けられて思わず喉が鳴る。
ではなくて。
ここまでは大人しくしていたのに、いきなりの頑な様に舌を巻いてしまう。
「そう云う訳にはいかない。早く良くなりたいだろう? 治れば、俺も筋肉を鍛える事に付き合うから」
リディルが時々俺の筋肉を羨ましそうに見ているのは知っている。
しかし、筋肉の鍛え方等俺は知らない。気が付いたら筋肉が出来ていたから。
だが、こう言えばリディルは大人しくなるのでは、と思った。
「…う"…。…でぼ、医者ばや"だ…。薬草…あ"る"…収納袋がら"出ぜ…」
熱を持ったタオルを再び水に浸し、絞りながらそう言えば、それでもリディルは医師は嫌だと口にした。
「…しかし…」
何故、そこまで頑なに拒絶するのか?
「……見ら"れ"だぐな"い"…」
「え?」
目を閉じてぼそりと呟かれたリディルの言葉に俺は軽く首を傾げた。
「……身体…。……×〇▽□……以外に"…」
不意に呼ばれた自分の名前に、身体が震えた。
リディルが前世を思い出してから、初めて俺の名を口にしてくれた。
「わ、かった! 薬草煎じて来るから、待っててくれ!」
俺以外に肌を見せたくないと云う言葉も嬉しかったが、名前を呼ばれた事が何よりも嬉しかった。
ただそれだけの事なのだが、俺の心は天にも昇りそうだ。
次は是非、意識がはっきりしている時に呼んで貰いたいし、俺以外に肌を見られたくないと、もう一度言って欲しい。
しかし。
「あーばよっ!!」
熱が下がって元気になったリディルにそう言えば、そんなの覚えて居ないと言われて、俺は見事に空へと飛ばされてしまった。
だが、飛ばされる直前に見えたリディルの頬が微かに色付いて見えたのは、俺の気のせいだろうか?
それは爽やかな朝の爽やかな挨拶には程遠い声だった。
今朝のリディルの声は、月も星も雲に隠された深夜の墓地に響くのが似合いの声だった。
「リディル? 声がおかしいが…。顔色も悪いな。昨夜風呂上がりに濡れた髪のままで筋トレとやらをしたせいか?」
テーブルに用意して置いた朝食を俺はちらりと見た。
焼かれたパンに、オムレツにサラダにスープ…リディルは食べられるのか? オムレツに添え付けてある腸詰め肉は無理だろう。普段から脂の多い物は苦手だし。
しかしリディルは俺の心配を他所にテーブルへと近付いて行く。
俺が椅子を引けばストンと腰を下ろしてフォークを手に取った。
どうやら食欲はあるらしい。
それならば、問題ないか?
「ん"あ"ー? ごの"時期に"髪が濡れ"だぐら"い"で具合が悪ぐな"る"がよ"」
いや。思い切り声の具合が悪いのだが。
あの高く澄んだ声は何処へ消えたんだ?
いや、今のリディルならば、この声の方が良いとか言うかも知れないが。
まあ、食欲があるのならば、ただの鼻風邪だと云う事なのだろうか。
「あ"あ"、ぷりぷりのウ"ィ"ン"ナ"ー、い"い"よ"な"。ごの"皮がばぢ切れ"る"ぐら"い"ま"で焼ぐの"い"い"よ"な"」
ん?
肉は鶏肉以外は駄目かと思っていたが、腸詰め肉はいけるのか。覚えて置こう。
そう思いながら、リディルの対面へと回り込み、そこにある椅子に腰を下ろそうとしたら。
「う"げぼろ"ぉ"ボぼぼぼぼぼぼぼお"~」
「リディル!?」
リディルがいきなり吐いた。
オムレツと腸詰め肉の乗った皿が大惨事だ。目もあてられないとは、正にこの事か。
慌ててリディルの傍へと寄り、その背中を擦る。
「ごの"あ"ぶら"…お"っ"ざん"に"ばギヅい"…」
なら、何故食べたっ!!
「あ"~…吐い"だら"頭がグラ"グラ"じで来だ…寝る"…」
そのまま立ち上がり、ふらふらとベッドへと向かおうとするリディルを押し留まらせて、水で口を濯がせて汚れた服を着替えさせてからベッドへと運んだ。その間何の抵抗も無かった事から、かなりの具合の悪さだと判断する。
額に濡れたタオルを乗せれば、気持ち良さそうに目を細めた。
筋肉は無理に鍛えようとすれば負荷が掛かり、逆に身体に良くはない。
リディルのこれは身体を無理に鍛えようとして、逆に身体を痛めつけてしまったのだ。身体が休ませてくれと悲鳴を上げたのだろう。
「風邪だと思うが、念の為に医師を手配して来る。このまま大人しく寝ている様に」
「い"ら"ね"え"。寝でれ"ば治る"」
熱で朧に潤んだ目を向けられて思わず喉が鳴る。
ではなくて。
ここまでは大人しくしていたのに、いきなりの頑な様に舌を巻いてしまう。
「そう云う訳にはいかない。早く良くなりたいだろう? 治れば、俺も筋肉を鍛える事に付き合うから」
リディルが時々俺の筋肉を羨ましそうに見ているのは知っている。
しかし、筋肉の鍛え方等俺は知らない。気が付いたら筋肉が出来ていたから。
だが、こう言えばリディルは大人しくなるのでは、と思った。
「…う"…。…でぼ、医者ばや"だ…。薬草…あ"る"…収納袋がら"出ぜ…」
熱を持ったタオルを再び水に浸し、絞りながらそう言えば、それでもリディルは医師は嫌だと口にした。
「…しかし…」
何故、そこまで頑なに拒絶するのか?
「……見ら"れ"だぐな"い"…」
「え?」
目を閉じてぼそりと呟かれたリディルの言葉に俺は軽く首を傾げた。
「……身体…。……×〇▽□……以外に"…」
不意に呼ばれた自分の名前に、身体が震えた。
リディルが前世を思い出してから、初めて俺の名を口にしてくれた。
「わ、かった! 薬草煎じて来るから、待っててくれ!」
俺以外に肌を見せたくないと云う言葉も嬉しかったが、名前を呼ばれた事が何よりも嬉しかった。
ただそれだけの事なのだが、俺の心は天にも昇りそうだ。
次は是非、意識がはっきりしている時に呼んで貰いたいし、俺以外に肌を見られたくないと、もう一度言って欲しい。
しかし。
「あーばよっ!!」
熱が下がって元気になったリディルにそう言えば、そんなの覚えて居ないと言われて、俺は見事に空へと飛ばされてしまった。
だが、飛ばされる直前に見えたリディルの頬が微かに色付いて見えたのは、俺の気のせいだろうか?
あなたにおすすめの小説
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です
ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。
理由は不明、手紙一通とパン一個。
どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。
そんな理由でいいのか!?
でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適!
自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない!
……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。