19 / 125
幼馴染み
【番外編】笹と向日葵
しおりを挟む
さわさわとした音が高梨の耳に届く。
庭に刺した笹の葉と、それに下げられた色取り取りの短冊が風に揺れる音だ。
その後ろでは、今年も色鮮やかな向日葵が陽に背伸びをして咲き誇っていた。
時刻は間もなく夕方に差し掛かる頃か。それでも夏の陽はまだ明るく辺りを照らしていた。
縁側に腰掛けながら、高梨は盃を手に目の先で揺れるそれをぼんやりと見ていた。
今日は特別休暇だ。
遠征に赴いた隊は、翌日が休みとなっていた。とは言え夜を徹しているので、ほぼほぼ寝るだけで一日が終わってしまうのだが。
「…どうしたものかな…」
ぼそりと誰に向けるでもなく零れた言葉は、直ぐにそよそよと吹く風に攫われて消えて行く。
まあ、どうしようもないのだろうが。
答えは既に出ているのだから。
高梨の頭にあるのは、昨夜の事だ。
昨夜の瑞樹の姿だ。
あれでは駄目だ。あのままでは駄目だ。
あれはそうそう治る物でもないだろう。
ならば、高梨が出す答えは一つしか無いし、既に出ているのだが。
それでも、高梨は迷っていた。
深く息を吐いて頭をガリガリと掻いた時、穏やかな声が耳に届いた。
「ただいま戻りました。あ、もう呑んでいらしたのですか?」
門を通った時に見えたのだろう、雪緒が真っ直ぐと庭へとやって来て、高梨が持つ杯へと視線を落とした。
「…それでは、ゆ」
「いや、食うぞ! 腹は減ってる!」
悲しそうに目を伏せて、夕餉の必要は無いのでしょうかと言い掛けた雪緒の言葉を遮り、高梨は食い気味にそう言った。
「…本当でしょうか…? 無理されてませんか…? 無理して食べて胸焼け」
「無理なんぞしてはいない!」
また更に食い気味に、その上立ち上がって高梨が言えば、雪緒はそれを見上げてふわりと笑う。
「それなら良かったです。今朝お戻りの時には何時も以上にお疲れの様でしたし、何事かを考えていらしたので心配していましたが…お元気そうで何よりです」
「ぐ…っ…!」
優しく労わる様に雪緒に見詰められて、高梨は喉を詰まらせた。
口元を手で隠し、そんなに顔に出ていたのかと高梨は思う。
「…僕では何のお力にもなれないでしょうが…それでも、少しでも…その悩み事が軽くなるのでしたら…どの様な些細な事でも構いませんから…話して下さいませんか…?」
「…雪緒…」
僅かに笑顔を曇らす雪緒に、高梨は『また、やってしまった』と思った。
そんな顔をさせたい訳では無いのに、と。
仕事の話で、雪緒には関係の無い事なのに、と。
それも、これは心の傷に関わる話で、雪緒には辛い話なのに、と。
それでも、話さずに居るよりは話した方が、雪緒は安心するのだろう。
恐らく、雪緒は今日の勤務中ずっとその事を考えていたのだろうから。
そう思えば、高梨が取る行動は一つしかない。
「…夕餉の席で話そう…お前には辛い話になるが…」
「僕なら大丈夫ですよ。それで紫様のお心が軽くなるのでしたら。では、直ぐに支度をしてしまいますね」
高梨の言葉に、雪緒は晴れやかな笑顔を浮かべて玄関へと足早に歩いて行った。
その後ろ姿を見送る高梨の耳に、さわさわとした笹の葉が揺れる音が届く。
その後ろでは黄色い向日葵がそっと揺れていた。
それは、まるで心配の必要は無いと笑っている様に高梨には見えて、彼は小さく肩を竦めたのだった。
庭に刺した笹の葉と、それに下げられた色取り取りの短冊が風に揺れる音だ。
その後ろでは、今年も色鮮やかな向日葵が陽に背伸びをして咲き誇っていた。
時刻は間もなく夕方に差し掛かる頃か。それでも夏の陽はまだ明るく辺りを照らしていた。
縁側に腰掛けながら、高梨は盃を手に目の先で揺れるそれをぼんやりと見ていた。
今日は特別休暇だ。
遠征に赴いた隊は、翌日が休みとなっていた。とは言え夜を徹しているので、ほぼほぼ寝るだけで一日が終わってしまうのだが。
「…どうしたものかな…」
ぼそりと誰に向けるでもなく零れた言葉は、直ぐにそよそよと吹く風に攫われて消えて行く。
まあ、どうしようもないのだろうが。
答えは既に出ているのだから。
高梨の頭にあるのは、昨夜の事だ。
昨夜の瑞樹の姿だ。
あれでは駄目だ。あのままでは駄目だ。
あれはそうそう治る物でもないだろう。
ならば、高梨が出す答えは一つしか無いし、既に出ているのだが。
それでも、高梨は迷っていた。
深く息を吐いて頭をガリガリと掻いた時、穏やかな声が耳に届いた。
「ただいま戻りました。あ、もう呑んでいらしたのですか?」
門を通った時に見えたのだろう、雪緒が真っ直ぐと庭へとやって来て、高梨が持つ杯へと視線を落とした。
「…それでは、ゆ」
「いや、食うぞ! 腹は減ってる!」
悲しそうに目を伏せて、夕餉の必要は無いのでしょうかと言い掛けた雪緒の言葉を遮り、高梨は食い気味にそう言った。
「…本当でしょうか…? 無理されてませんか…? 無理して食べて胸焼け」
「無理なんぞしてはいない!」
また更に食い気味に、その上立ち上がって高梨が言えば、雪緒はそれを見上げてふわりと笑う。
「それなら良かったです。今朝お戻りの時には何時も以上にお疲れの様でしたし、何事かを考えていらしたので心配していましたが…お元気そうで何よりです」
「ぐ…っ…!」
優しく労わる様に雪緒に見詰められて、高梨は喉を詰まらせた。
口元を手で隠し、そんなに顔に出ていたのかと高梨は思う。
「…僕では何のお力にもなれないでしょうが…それでも、少しでも…その悩み事が軽くなるのでしたら…どの様な些細な事でも構いませんから…話して下さいませんか…?」
「…雪緒…」
僅かに笑顔を曇らす雪緒に、高梨は『また、やってしまった』と思った。
そんな顔をさせたい訳では無いのに、と。
仕事の話で、雪緒には関係の無い事なのに、と。
それも、これは心の傷に関わる話で、雪緒には辛い話なのに、と。
それでも、話さずに居るよりは話した方が、雪緒は安心するのだろう。
恐らく、雪緒は今日の勤務中ずっとその事を考えていたのだろうから。
そう思えば、高梨が取る行動は一つしかない。
「…夕餉の席で話そう…お前には辛い話になるが…」
「僕なら大丈夫ですよ。それで紫様のお心が軽くなるのでしたら。では、直ぐに支度をしてしまいますね」
高梨の言葉に、雪緒は晴れやかな笑顔を浮かべて玄関へと足早に歩いて行った。
その後ろ姿を見送る高梨の耳に、さわさわとした笹の葉が揺れる音が届く。
その後ろでは黄色い向日葵がそっと揺れていた。
それは、まるで心配の必要は無いと笑っている様に高梨には見えて、彼は小さく肩を竦めたのだった。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
仮面の王子と優雅な従者
emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。
平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。
おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。
しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。
これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる