寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

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幼馴染み

【番外編】笹と向日葵

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 さわさわとした音が高梨の耳に届く。
 庭に刺した笹の葉と、それに下げられた色取り取りの短冊が風に揺れる音だ。
 その後ろでは、今年も色鮮やかな向日葵が陽に背伸びをして咲き誇っていた。
 時刻は間もなく夕方に差し掛かる頃か。それでも夏の陽はまだ明るく辺りを照らしていた。
 縁側に腰掛けながら、高梨は盃を手に目の先で揺れるそれをぼんやりと見ていた。
 今日は特別休暇だ。
 遠征に赴いた隊は、翌日が休みとなっていた。とは言え夜を徹しているので、ほぼほぼ寝るだけで一日が終わってしまうのだが。

「…どうしたものかな…」

 ぼそりと誰に向けるでもなく零れた言葉は、直ぐにそよそよと吹く風に攫われて消えて行く。

 まあ、どうしようもないのだろうが。
 答えは既に出ているのだから。

 高梨の頭にあるのは、昨夜の事だ。
 昨夜の瑞樹みずきの姿だ。
 あれでは駄目だ。あのままでは駄目だ。
 あれはそうそう治る物でもないだろう。
 ならば、高梨が出す答えは一つしか無いし、既に出ているのだが。
 それでも、高梨は迷っていた。

 深く息を吐いて頭をガリガリと掻いた時、穏やかな声が耳に届いた。

「ただいま戻りました。あ、もう呑んでいらしたのですか?」

 門を通った時に見えたのだろう、雪緒ゆきおが真っ直ぐと庭へとやって来て、高梨が持つ杯へと視線を落とした。

「…それでは、ゆ」

「いや、食うぞ! 腹は減ってる!」

 悲しそうに目を伏せて、夕餉の必要は無いのでしょうかと言い掛けた雪緒の言葉を遮り、高梨は食い気味にそう言った。

「…本当でしょうか…? 無理されてませんか…? 無理して食べて胸焼け」

「無理なんぞしてはいない!」

 また更に食い気味に、その上立ち上がって高梨が言えば、雪緒はそれを見上げてふわりと笑う。

「それなら良かったです。今朝お戻りの時には何時も以上にお疲れの様でしたし、何事かを考えていらしたので心配していましたが…お元気そうで何よりです」

「ぐ…っ…!」

 優しく労わる様に雪緒に見詰められて、高梨は喉を詰まらせた。
 口元を手で隠し、そんなに顔に出ていたのかと高梨は思う。

「…僕では何のお力にもなれないでしょうが…それでも、少しでも…その悩み事が軽くなるのでしたら…どの様な些細な事でも構いませんから…話して下さいませんか…?」

「…雪緒…」

 僅かに笑顔を曇らす雪緒に、高梨は『また、やってしまった』と思った。
 そんな顔をさせたい訳では無いのに、と。
 仕事の話で、雪緒には関係の無い事なのに、と。
 それも、これは心の傷に関わる話で、雪緒には辛い話なのに、と。
 それでも、話さずに居るよりは話した方が、雪緒は安心するのだろう。
 恐らく、雪緒は今日の勤務中ずっとその事を考えていたのだろうから。
 そう思えば、高梨が取る行動は一つしかない。

「…夕餉の席で話そう…お前には辛い話になるが…」

「僕なら大丈夫ですよ。それでゆかり様のお心が軽くなるのでしたら。では、直ぐに支度をしてしまいますね」

 高梨の言葉に、雪緒は晴れやかな笑顔を浮かべて玄関へと足早に歩いて行った。
 その後ろ姿を見送る高梨の耳に、さわさわとした笹の葉が揺れる音が届く。
 その後ろでは黄色い向日葵がそっと揺れていた。
 それは、まるで心配の必要は無いと笑っている様に高梨には見えて、彼は小さく肩を竦めたのだった。
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