旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ

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 今年は雪が多いですね。
 先日までの淀んだ空が嘘の様に、今日は青く晴れ渡って居ます。
 青く青く澄んで、凛とした空気の中で、僕は白い息を吐きながら庭に積もった雪を掻いて居ます。
 朝の光に照らされて、雪の白さが際立ちます。
 日中、気温が上がれば幾らかは溶けるのでしょうか?
 そうして春になれば、雪とはまた暫くお別れですね。
 雪は僕の緒です。
 沢山の緒です。
 僕を、僕達を結んでくれた沢山の緒です。
 春が来て、夏が来て、秋が来て、その間は雪が降る事はありません。
 ですが、それは姿を変えて在ると、奥様が仰いました。
 水となって、大地に染みて、潤して。
 それは、やがて芽になり、花を咲かせると。
 それは、沢山の恵みに繋がると。
 そんな素晴らしい物だと。
 そう奥様は仰いました。
 それを聞くまでは、雪はとても嫌な物でした。
 ですが。
 それを聞いてからは。
 現金だとは思いますが。
 僕は自分の名前が好きになりました。
 奥様が仰って下さった様に、沢山のえにしを結ぶ緒、その様な意味を込めて亡き両親がこの名を付けてくれたのかは解りませんが。
 ですが。
 そうだとしたのなら、どれだけ嬉しい事でしょう。
 願った通りになりましたよ。
 そう、伝えたいです。
 僕は、今、とても幸せです。
 沢山の縁が。ゆかりが。
 その名を持つ人が、ここに、僕の傍に居て下さるのですから。

雪緒ゆきお。雪掻きはもう良いだろう。風邪を引く。中へ入れ。風呂を沸かしたから、ゆっくりと温まれ」

「ふわっ!? は、はい、申し訳ありません!」

 縁側から、旦那様が僕を呼ぶ声が聞こえます。
 雪かきに夢中になり過ぎた様です。
 こんな日なのに汗を掻いています。
 確かに、このままでしたら風邪を引くかも知れません。

「謝るな、阿呆が。風邪を引かれたら大変だろうが」

 少し口を曲げて旦那様がそう言いますが、それは心配から来るのだと云う事を、僕は知っています。
 僕は何処かくすぐったい胸を押さえて、玄関へと急ぎました。

 何時か、この緒の話をしましょうと思いながら。
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