とある聖者と魔王の攻防

三冬月マヨ

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ほんぺん

いち

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「一つ聞いても良いか?」

「はい、何でしょう?」

 月明かりだけが射し込む薄暗い部屋の中で、そんな声が聞こえていた。
 
「私は、何故、貴様に組み敷かれているのだ?」

 と、訊ねるのは、夜の闇の中でも輝く金の瞳を持つ男だ。髪は夜の帳に溶けるように黒く艷やかで長い。それが、ベッドの白いシーツの上に、これでもかと云うぐらいに広がっていた。

「何を言っているんですか? 俺の面倒を見てくれると言ったでしょう? お忘れですか?」

 と、爽やかな笑顔で答えるのは、つい先日、この館に押し掛けて来た男だ。
 髪は薄茶色で、瞳の色は緑。前髪はきっちりと七三で分け、後ろ髪はきっちりと襟足で切り揃えてある。
 白いローブに身を包んだその男は、聖職者の様に見える。と云うか、この館に来るまで、男は"聖者"と呼ばれていた。

「シモの面倒を見るとまでは言っていないっ!!」

 白い歯を剥き出しにして、ちょっと涙目になりながら叫ぶのは、その聖者とは正反対の"魔王"だ。

「いやですよ。衣食住と満たされたら、次に来るのは性欲でしょう?」

「性欲処理をしたいのなら、この島を出て行けば、幾らでも他に居るだろうがっ!! 何もわざわざ男の私でなくても良いだろう!! 貴様はまた私を殺す気かっ!!」

「そんな人聞きの悪い事を言わないで下さいよ。ちょっと仮死状態にしただけじゃないですか」

「同じだろうが、たわけがっ!!」

 そんなベッドの上の攻防は置いておいて。
 今、男達が戯れている、この場所は人々から"魔界"と呼ばれている。別に違う次元とか世界とかでは無い。ただ、人間とは違う種族…魔族…が暮らす場所、それだけだ。そこに住まう者は、人間より強い力を持ち、また、長命である。それが、せいぜい百年しか生きられない人間のコンプレックスを刺激しまくるのだ。
 彼らは脅威だと。
 やがて、我々を害するに違いない。
 そうだ、殺られるまえに殺ろう。
 と、妬みやら嫉妬やら羨望やらがごった煮になって、魔界と人間が住まう人間界とで、絶賛戦争中だ。
 魔王には、人間を害する気はないのに、一方的に喧嘩を吹っ掛けられて良い迷惑である。
 人間と同じ大陸に居たのに、気が付けば、四方を海に囲まれた、小さな島へと居住地を移していた。大陸に居た頃は、それはそれは立派な白亜の城に住んで居たが、今は、蔦がうねうねと絡まる、夜中にはちょっと近寄りたくない…そんな不気味な洋館が、魔王の住まいだ。宰相やら何やらと居たが、人間に追われる内に一人消え、また一人消え、そして気が付けば、今や、この島に居るのは魔王一人になってしまった。泣いてなんかいない。誰だって命は惜しい。
 魔族のルールに『弱者である人間を甚振ってはならない』と云う物がある。
 彼らは、自分達より儚いものなのだから、彼らが何をしようと見守るべし。気が付きゃ消えている物なのだから、と。
 しかし。
 人間は増える。
 個々の命の灯は短くとも、人間全体で見れば、とんでもない長さなのだ。
 誰がこんなルールを作ったと、泣いた夜もあったし、今だって泣いたりする。
 そんなルールなんて無視すれば良いと思うが、出来ないのだ、これが。
 ルールを破った者には、罰が下る。
 軽いものは、一週間のくしゃみと止まらぬ鼻水に涙するだけだが、酷いものだと命を落とす。
 しかし、そんな事情等人間達は知らないし、話せば『ヒャッハー!』と、嬲り殺しにされるだろう。
 そんな訳で、魔族達は防戦一方だった。
 近年は『勇者召喚』やら『聖女召喚』やらが流行っているらしく、力を持ったものがバンバンやって来る。『もう、やってられません!』と、仲間達は涙を流し、別の世界…異世界へと一人、また一人と逃げて行った。本当は魔王も行きたかったが、まだ、仲間が居るし、見捨てて等行けぬとうだうだしている内に、ボッチになった。かくして魔王は、絶海の孤島で一人暮らしをする羽目になったのだ。
 そうして、勇者やら、聖女やらの召喚に成功した国が、ドンブラコと海を越えてやって来る。
 来る度に丸裸にし、大事な大事な食料等を奪い、人間界へと送り返しているが、キリが無い。
 人間達は、魔族より寿命が短いせいか、繁殖力が強い。気が付けば、増えている。ちょっと間引いた方が良いのでは無いかと魔王は思っている。
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