とある聖者と魔王の攻防

三冬月マヨ

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ほんぺん

ろく

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 スンフォエが生まれる前から、村の周りから徐々に魔物の数が減って行った。村人達は不思議に思ったが、畑を荒らされなくて済む家畜を襲われなくて済む、誰かが怪我をしたり命を落としたりしなくて済むと、喜んだ。
 そして、スンフォエが産声を上げた瞬間から、魔物はぱたりと姿を消したのだ。
 村人達は、神の祝福だと喜んだ。
 小さな村だ。
 王都から周囲の警戒に騎士や兵士が派遣される事など無い。
 若者は少しでも大きな街へと移り住んで行った。
 スンフォエの両親は、それ程の若者でも無く、新天地を求める程の探求心も無かったから、村に残っていただけだった。三十代で、村一番の若者だった。そんな二人の子供だから、周りは喜び、世話を焼いていた。神の祝福とかは、正直どうでも良かった。ただ、生まれたこの子が元気なら、と。
 しかし、転機とは突然に訪れる物だ。
 行商人など滅多にやって来ないこの村に、それがやって来た。他所で売れずに残った物を売りに来たのだ。売れれば儲けもの。売れなくても、一晩泊めて貰えればラッキーと、それはやって来た。国の外れにある村だし、隣の国へ行くには険しい山道を越えなければならない…そんな辺境の地にあるカイナの村へとやって来た行商人は、驚いた。空気が驚く程に澄んでいたからだ。村に近付くにつれ、それは感じていた。感じてはいたが、田舎故のものだろうと思っていた。いたが、実際に村へと足を踏み入れて、今、自分が歩いて来た道を振り返った。空の色が違う、と思った。

『…あの~…その話、まだ続く…のか…?』

 スンフォエの腕の中で、もにもにと魔王(魂)が動いた。
 その動きにスンフォエが目元を細めて微笑ましそうに笑う。

「あ。飽きましたか?」

『うむ…まあ、生まれながらに貴様は無意識に周囲の浄化をしていた。そう云う事なのだろう? 淀んだ空気も無く、醜い人の心が無ければ、魔物は寄り付かぬからな』

 聖者や聖女の力であるそれを魔王(魂)は口にした。もにっとした動きは頷いたのだろうか。
 そんな魔王(魂)の頭を宥める様に撫でながら、スンフォエは話を続ける。

「ええ、そうですね。それで、その行商人は、一泊して村を出て行ったんです。…それで終わっていれば良かったんですけどね…。その行商人は、村の事を話したんですよ。誰も見向きもしなかった村だったのに…"魔物が出ない"、"空気が美味い"、"水も美味い"…彼に悪気は無かったんだと思いますよ。ですが、その話は風に乗って、王都へと届き、神殿に、王宮へと届き、あれよあれよと云う間に俺は王都へと連れて行かれた。年端も行かない子供だから、俺の両親も後から来る筈だったんです…」

『…来なかったのか?』

 スンフォエの沈んだ声に釣られて、魔王(魂)の声も沈んだ物となった。

「…五年待ちました。その間に周りに話を聞いたり、教えて貰った拙い字で手紙を書いたりしました。周りの返事はいつも決まって"私達は何も聞いていません"。手紙の返事は、一度も帰って来る事はありませんでした。そんな夜の事でした。尿意を覚えて目を覚ましてしまったんですよね。…トイレに行った帰りに聞いてしまったんですよ…」

 ――――――――あの村が、五年前に無くなったなんて言えないわよね…。

「…って…。その話をしていた人達に詰め寄りましたよ。でも"知らない"、"何も言えない"と…。そのまま俺は王宮を飛び出しました。まあ、十歳になっていたとは云え、まだまだ子供ですから、直ぐに捕まりましたけど。でも、俺は足掻いたんです。足掻いて足掻いて、気が付いたら廃村に…俺の生まれた村に居たんです…無我夢中で、転移していたんですね…。…何も…いえ、荒れた家があるだけで…俺が居た頃の面影なんてありませんでした。地面に座り込んで、手をついて…そうしたら、土が過去の光景を見せてくれたんです…荷造りをする父や母、それを手伝う村人の姿…の他に見知らぬ人々…何故、こんな小さな村なのに、こんなに豊かなんだと…俺が生まれてからは、不作知らずの村でした…雨も適度に降り、井戸の水が枯れる事も無かった…それらが他所から来た人には信じ難く、羨ましくもあり、妬ましくもあり…そんな思いが渦巻いて…呼んでしまったんですね…魔物を…。…あっと言う間でした…父も母も…村人も…他所の人達も…家畜も…畑も…何もかも…それを見ながら、俺は泣いていました。泣いて泣いて…疲れて、地面に倒れるようにして眠って…目が覚めたら、また眠って…何回繰り返したのか解りません。気が付いたら、王宮に向かう馬車の中に居ました…それで…俺は思ったんです…」

 そこで途切れた言葉を拾うかの様に、魔王(魂)が口を開いた。

『その魔物達を殺そうと、か?』

「この国を滅ぼそうって」

何故なにゆえっ!?』

 しかし、軽く首を振ってから発せられたスンフォエの言葉は想像外の物だったから、魔王(魂)は目を剥いて叫んだ。
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