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新しい世界の始まり

狩り

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翌朝7時半過ぎに起き、食堂で朝食のサンドウィッチを頂き、街を出て直ぐの草原へと足を運んだ。

足首ほどの草原は、初心者にも優しく下級の動物や魔物(モンスター)しかいない。

そこに生息する魔物の一種スライム。

初心者にとって大事な収入源だ。

夜鎖神を取り出しスライムに斬りかかる。

スッパリとは斬れるものの・・・ベタベタと剣に纏わり付いてくる。


「・・・・」


(確か核みたいなの壊さないと倒せないんだっけか・・・核・・・移動してるな)

何度か剣を振り回していたら偶然に核に当たりそれを破壊した。

破壊されたスライムは溶けるように地面に消えていった。


「・・・・」


周りを見ると同じようにスライムを殴っている人を見かけた。

その人は鉄の剣を手にしているようだが、木の棒で叩いてるようなダメージしか出ていないようだ。

現にスライムは剣で殴ったり叩けば凹んだりはしているが、一向に斬れた様子もなく苦戦しているようだ。

(何だろう・・・あれ、スライム相手に剣の切れ味悪すぎないか?)


「ぬうう・・・」


鉄の剣で斬りかかること8回目。

核を破壊できたのか、やっとスライムは力尽きたようにベシャっと潰れた。

ゼノンは視線を戻し、自分が倒したスライムの残骸があったところに小指ほどの石を見つけると、拾い上げバックに仕舞う。

スライムの小魔石核×1を獲得。

アイテムボックスと繋がったバックに入れたことにより、アイテム所持リストが更新された。

不思議な感覚だった。

その後もノンアクティブモンスターであるスライムを見つけるなり夜鎖神で核を1撃で斬り倒していく。

他にもスライムに苦戦してる人を見かけるが、装備の性能が違うのだろう、という結論に至って特に気にもしなかった。

敵が落としたアイテムはちゃんと回収する。

暫くしてあることに気がついた。


「・・・・・おなかすいた・・・」


草原や手持ちに時計がないので、詳しい時間帯は不明だが、太陽の昇り具合からして、お昼過ぎ位だろうか。


(1度戻って何か食べてこようかな・・・けどまた戻ってくるのも何か面倒くさい・・・)

そんなことを考えながら、ブラブラ歩き、みかけたスライムを倒しながら進む。

ディアリスの門を出て直ぐの初心者狩り場の草原を一回りして、気がつくと草原の奥にある森、
木漏れ日の森へと来ていた。

いつの間にか草原を抜けていたらしい。

無意識でスライムを相手にしているうちに草原と森の境を知らずに超えたのだろう。
飛び出してきた1匹のパピーウルフ。

反射的に剣を横に薙ぎ払い斬り伏せて倒した。
飛び散った血や死体は消えないので、取り敢えず死体を拾ってアイテムボックスへ回収。


ハピーウルフの死体×1を獲得。


森の入り口付近でパピーウルフ狩りをしていると、大きめの木の陰に動く何かを見つけ、警戒しながらそっと近付いていく。

いきなり熊みたいな巨大な魔物などが出てきたら倒せる気がしないからだ。
木の陰を覗き込むとそこには踞っている男の人がいた。


「あ、あの?」


話しかけてみるが反応がなく、ブツブツと呟いていて何やら様子がおかしい気がする。


「あ、あの?」


再び声をかけると男の人は、バッと顔を上げ怯えたような表情でその口を開いた。


「・・・ッ僕は、あ・・あ、れ?・・・俺は?どうしてこんな所に居るんだ?」

「え?」

「ああああぁぁぁ・・・何も思い出せない・・・どうして・・・・・・・君、安全な街へはどうやって帰るんだ?」

「え・・・えっと・・・」


アイテムボックスを開き、帰還の書を1枚取り出し、男の人に渡した。


「これは?」

「街に戻れる書です・・・」

「・・・ありがとう」


そう言って男の人は丸まっていた帰還の書を広げた、瞬間僕の目の前から姿が消えた。

男の人は装備とはいえないような普通のTシャツにまともな武器も持たない丸腰の姿だったことから、普通の一般人だったのだろう。

レベル1で1人この森に来たのなら、結論はもう出ている・・・。

この森のモンスターに追いかけられ、死の恐怖体験から、記憶を失った・・・?。

死の恐怖を体感することで記憶は失われるのだろうか?

考えても答えなど分かるはずもなく、試すことも出来ないので取り敢えずは保留で。

僕は1人夜鎖神を振り続けた。

夜鎖神の初期攻撃力はそこいらの武器よりは強いらしい。

現に出会ったスライムもパピーウルフも楽に倒せていた。

他の人の戦闘を見ると皆苦戦しているように見える。


「・・・・」


考えても無駄なのだろう、魔法の剣だから、強い。そういうことにしておこう。

(とりあえず、お腹すいた・・・)

先ほど倒したパピーウルフを取り出し、抵抗があるものの捌いて血抜きをし、肉の塊と毛皮に分け、肉を焼いて、さっと塩で味付けてしてから口に運んだ。


「ん・・・・柔らかくて旨い」


捌いた痕跡を消すために穴を掘り、土で血や骨などを隠した。

他の大型の魔物が臭いに釣られてきたら厄介だから。

暫く休憩をしてからゼノンは再び狩りを再開した。


~ゴブリンの巣窟~

80cmくらいの身長、翠色の肌、粗末ながら手には錆びた武器。

腰にはぼろ切れを巻いただけの小柄なモンスター、1匹なら初心者でも狩れるレベルだが、この種族の危険なところは、狡猾さと残忍さ、そして最も注意すべきは数の多さだ。

集団で囲まれたら初心者などあっという間に獲物にされてしまう。

(え・・あれ・・・ゴブリン?)

そこはさっきまでの見知った森から外れ大分薄暗く、じめっとした湿度の高い森の中だった。

運良くゴブリンの姿を見つけたのはこっちだけで、相手に気付かれることはなかった。

(変なところに来てしまったかも・・・引き返した方がいいかな・・・?)

ふと視線のすぐ先に緑色の何かが動いた。

ゴブリンだ!

取り敢えず目の前のゴブリンに集中。

運良くまだゴブリンに気付かれては居ない、先手を打つなら今がチャンスだ。


「ファイアーボルト!」


右手に夜鎖神を持ったまま左手をゴブリンの方につき出してスキル名を唱える。

噛まずに言えて良かった・・・。

何も起こらない。

あれ?・・・・・・魔術書に記されていたはず?たしか?

(ヤバい、何これ、不発?恥かしいんだけど・・・?!)

しかし、何も起きない。

(武器だけで倒すしかないのか・・・やばいな・・・)

数が増えたら勝ち目はないかもしれない。


『グギギァッギャァァ』


目の前に居たゴブリンに気付かれ、仲間を呼ばれた。
10匹ほどのゴブリンが集まり一斉に襲いかかってきた。


「ッふぇ?!!」


慌ててアイテムボックスから帰還の書をとりだし、急いで広げて使用した。

一瞬真っ白い光に包まれて、目を開けてられずに閉じ、再び目を開けると・・・


「・・・・こわ・・・」


一言呟いてから、ディナリスの門を通り過ぎ、宿り木の葉亭へと戻って早めの夕飯をとり、その日の1日は幕を閉じたのだった。
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