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序章 こうして僕は『殺』されかけました

プロローグ 6月のある『雨』の午後

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「――どうして……殺さなきゃいけないの……」

 どうしてこうなったんだ?

 叫ぼうにも喉笛を抑えられ声が出ない。辛うじて呼吸は出来る。

 とても同い年の少女の力とは思えない。

 引き剥がそうにも足掻いたけど、全部徒労に終わる。

 橋の上で、彼女の左手から骨の軋む音が雨音に紛れて聞こえてきた。

 血管が浮き、爪が鋭く尖り、胸骨を穿いて、心臓を握りつぶす。

 あぁ……ここまでか。

 彼女に裏切られるならいっか……初恋の女の子に殺される……。

 それも悪くないかも……しれない――だけど。

 僕の人生という幕は、まるで下ろす気配がない。

 胸の皮一枚のところで爪先が止まっているのが分かる。

 ふと頬に何か触れる。彼女の髪から滴る雫? それともただの雨? だけど妙に温かい――恐る恐る瞼を開いた。

 なぜ……泣いているんだ?

 青白い髪の隙間から覗かせる彼女の瞳には、涙が滲んでいる。嗚咽を漏らし、今まで一度も見せたこと無い悲痛な表情に、訳が分からなくなる。

 自分を始末するんじゃないのか……一体何がどうなっているんだ……?

 彼女の爪が納まっていくと共に、殺意は鳴りを潜め、両手に顔を埋めた。

「……やだよ……殺したくないよ……初めて出来た友達なのに……どうして殺さなきゃいけないの……? やだ……もう誰も……殺したくない……」

 なんて哀しい叫びなんだ。

 殺されそうになったって言うのに……何だかとても彼女が……いたわしくて、愛おしくて……。どうしてそんなに……苦しそうなんだ。

 あれ? なんだ? 急に視界が傾いて……身体が後ろに……倒れる。

「あ! 危ない! ミナトっ!?」

 どうして手を差し伸べる? なんで、そんな必死に?

 変だな? 背中に淀んだ空が。

 次第に……彼女が遠くに――なんだ、水?

 そっか……橋が崩れて、川に落ちたんだ。

 駄目だ。力が入らない。意識も段々遠退いていく。

 誰かを護りたい。誰かを助けたい。昔、僕は吸血種に襲われ、ある人が燃え盛る故郷から救ってくれた。

 あの人のようになりたくて守護契約士コントラクターになったのに……。

 田舎を出て、これからだって、町の人とも打ち解けられたって言うのに。

 彼女ともようやく仲良くなれたと思ったのに、結局殺されそうになる始末。

 どうしてこうなった? そうか。事の始まりは今日の――。
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