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第一章 どうして僕が彼女を『放』っておけなかったのか
第24話 『蠢く』異形のものたち! 今こそ力を見せるとき!
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「そうだな。あんましいい所を奪うのもわりぃしな。あとは若けぇもんにまかせるわ」
「はっ! ぬかせ!」
触手を動かし、《心臓喰らい》は獲物を探し始める。
『KYURRRR……』
何だこいつ? 今薄ら笑いを浮かべなかったか?
幼い日の記憶が蘇る。1人の吸血種に滅ぼされ、紅蓮の炎に包まれる故郷の光景。
――熱い。鮮明に呼び起こされる皮膚を焦がす灼熱。もう怒りが全身を焼き尽くしそうだ。
「ミナト。やれるか?」
「いつでも!」
既に象気は練り上げてある。
それに今日は手に、いざという時に師匠が持たせてくれた手甲【日天甲】を嵌めてある。
これは紅燐石と日霊鉱の鋼線を特殊な編み方で織ることで、象気を纏うことができるようにしたものだ。
「おっさん。俺様達が奴らの相手をする。2階からの援護、頼んだぞ!」
「あいよっ!」
ハウアさんの言葉に反応した《心臓喰らい》が一斉に振り返り、襲い掛かってきた。
怒濤の如く押し寄せる触手を全て躱し、天の象気を込めた拳を叩きつける。
『GYURッ!!』
心臓喰らいの頭蓋が爆散する。
僕は生物が好きだ。未来に向かって努力している姿が愛おしい。
弱肉強食の自然界で動物が人間を喰らうこともある。
だけどヴェンツェルの傀儡である《心臓喰らい》は違う。
存在してはいけない。そんなことを決めるなんておこがましいとは分かっている。
この世のあらゆる生命は等しく尊いとさえ思っている。
だけど《心臓喰らい》だけは許せない。
どうしてもそうは思えない。
だから人に害を及ぼす《《心臓喰らい》を殺めることを躊躇いはしない!
「まずは1匹」
仲間がやられ、怖気づいたのか、後退っていく《心臓喰らい》達。
「逃がさねよ」
怯んだ隙にハウアさんの回転式拳銃が火を吹く。
月銀の弾丸が《心臓喰らい》の頭部を貫き、あっという間に3匹を蹴散らす。
しかし銃声が一発しか聞こえなかった。
全て正確に頭部を撃ち抜いて、なんという恐ろしい精度の早撃ち。
やっぱり所詮ケモノか。操られていても死の恐怖を感じるらしい。
残りの2匹が飛び掛かってきた――その刹那。爆風のような白煙が噴き上がり、屋敷中を覆いつくす。
「な、なんだいったい!? この匂いは――煙草!?」
まさか!? これは!?
「待たせたな! ハウア、坊主。俺の【煙】で奴らの動きを止めた! 今のうちにやれ! 象気を込めた目なら、その中でも見えるはずだ!」
なるほどこれがレオンボさんの象術か。【煙】の象術なんて珍しい。
レオンボさんの言う通り、紫煙が絡みつく《心臓喰らい》の姿をはっきりと捉えることが出来た。
「行くぞミナト!」
「いつでも!」
今度は足へとの象気を集中させ、上半身のバネと反動を利用した回し蹴りの三連撃。
滅血拳の唯一の足技、【譜斑脚】を叩きこむ。
昔師匠が話してくれた。【天】の象気は吸血種にとって絶対的な弱点だって。
基本暗闇でしか生活できない吸血種ではあるが、まれに太陽の光を克服した吸血種もいる。
それらに対しても有効であると。
故郷を襲ったのがまさしくそれだ。
人と見分けが付かなかったことで、村の皆は一切疑わず吸血種の旅人を迎え入れてしまった。
結果。騙され、貪り食われた。当時は為す術がなかった。
だけど今は象術を会得し、それを見破る眼も、滅ぼす力、【滅血拳】がある!
『KYURRRRUAAA――――ッ!!』
渾身の蹴りで、《心臓喰らい》の頭部を粉砕する。
弾け飛ぶどす黒い血の舞う中、ゆっくりと息を吐いて呼吸を整えた。
構えを崩さず、神経を研ぎ澄ませ警戒を怠らない。
路地裏の時のような同じ過ちを二度も犯すもんか。
次第に晴れていくレオンボさんの【煙】。目の前にいる敵は全て倒したが、どうも胸騒ぎがする。
「終わった?」
「いや、まだみてぇだ」
ドォンというけたたましい音と共に突如扉が開かれ、大量の《心臓喰らい》が押し寄せる。
想像絶する間も無い。
圧倒的な数。僕は象気を四肢に纏い、殴る。蹴る。
何回も臓物が飛び散り、どす黒い血が雨のように降り注いだ。
「何でこんなにっ!」
多人数戦闘に慣れていない所為か、一瞬でも気を抜いたら飲み込まれそうだ。
幸い攻撃の速度は遅い。躱しながら反撃を入れるのも容易い。
「ミナトっ! そっちに行ったぞっ!」
直ぐ近くで珍しく血相変えたハウアさんが叫んだ。振り返ると2階に登ろうとする《心臓喰らい》が1体。
『KYURRUA――ッ!!』
「甘いよ!」
背後からなら仕留められると思ったのか。
伸ばしてきた1体の触手を掴んで振り回し、周りにいた数体ごと蹴散らす。
そして駆けあがっていた《心臓喰らい》へ叩きつけた。
「破っ!」
ぶつかった衝撃で怯んだ隙を突き、2匹まとめて頭蓋を蹴り砕いた。
クソっ! またまだ外から! 次々と!? なんて勢いだ!?
「いったいどんだけいるんだ!」
1匹1匹は大したことはないが、数がいると僕等も流石に疲弊してきた。
「はっ! ぬかせ!」
触手を動かし、《心臓喰らい》は獲物を探し始める。
『KYURRRR……』
何だこいつ? 今薄ら笑いを浮かべなかったか?
幼い日の記憶が蘇る。1人の吸血種に滅ぼされ、紅蓮の炎に包まれる故郷の光景。
――熱い。鮮明に呼び起こされる皮膚を焦がす灼熱。もう怒りが全身を焼き尽くしそうだ。
「ミナト。やれるか?」
「いつでも!」
既に象気は練り上げてある。
それに今日は手に、いざという時に師匠が持たせてくれた手甲【日天甲】を嵌めてある。
これは紅燐石と日霊鉱の鋼線を特殊な編み方で織ることで、象気を纏うことができるようにしたものだ。
「おっさん。俺様達が奴らの相手をする。2階からの援護、頼んだぞ!」
「あいよっ!」
ハウアさんの言葉に反応した《心臓喰らい》が一斉に振り返り、襲い掛かってきた。
怒濤の如く押し寄せる触手を全て躱し、天の象気を込めた拳を叩きつける。
『GYURッ!!』
心臓喰らいの頭蓋が爆散する。
僕は生物が好きだ。未来に向かって努力している姿が愛おしい。
弱肉強食の自然界で動物が人間を喰らうこともある。
だけどヴェンツェルの傀儡である《心臓喰らい》は違う。
存在してはいけない。そんなことを決めるなんておこがましいとは分かっている。
この世のあらゆる生命は等しく尊いとさえ思っている。
だけど《心臓喰らい》だけは許せない。
どうしてもそうは思えない。
だから人に害を及ぼす《《心臓喰らい》を殺めることを躊躇いはしない!
「まずは1匹」
仲間がやられ、怖気づいたのか、後退っていく《心臓喰らい》達。
「逃がさねよ」
怯んだ隙にハウアさんの回転式拳銃が火を吹く。
月銀の弾丸が《心臓喰らい》の頭部を貫き、あっという間に3匹を蹴散らす。
しかし銃声が一発しか聞こえなかった。
全て正確に頭部を撃ち抜いて、なんという恐ろしい精度の早撃ち。
やっぱり所詮ケモノか。操られていても死の恐怖を感じるらしい。
残りの2匹が飛び掛かってきた――その刹那。爆風のような白煙が噴き上がり、屋敷中を覆いつくす。
「な、なんだいったい!? この匂いは――煙草!?」
まさか!? これは!?
「待たせたな! ハウア、坊主。俺の【煙】で奴らの動きを止めた! 今のうちにやれ! 象気を込めた目なら、その中でも見えるはずだ!」
なるほどこれがレオンボさんの象術か。【煙】の象術なんて珍しい。
レオンボさんの言う通り、紫煙が絡みつく《心臓喰らい》の姿をはっきりと捉えることが出来た。
「行くぞミナト!」
「いつでも!」
今度は足へとの象気を集中させ、上半身のバネと反動を利用した回し蹴りの三連撃。
滅血拳の唯一の足技、【譜斑脚】を叩きこむ。
昔師匠が話してくれた。【天】の象気は吸血種にとって絶対的な弱点だって。
基本暗闇でしか生活できない吸血種ではあるが、まれに太陽の光を克服した吸血種もいる。
それらに対しても有効であると。
故郷を襲ったのがまさしくそれだ。
人と見分けが付かなかったことで、村の皆は一切疑わず吸血種の旅人を迎え入れてしまった。
結果。騙され、貪り食われた。当時は為す術がなかった。
だけど今は象術を会得し、それを見破る眼も、滅ぼす力、【滅血拳】がある!
『KYURRRRUAAA――――ッ!!』
渾身の蹴りで、《心臓喰らい》の頭部を粉砕する。
弾け飛ぶどす黒い血の舞う中、ゆっくりと息を吐いて呼吸を整えた。
構えを崩さず、神経を研ぎ澄ませ警戒を怠らない。
路地裏の時のような同じ過ちを二度も犯すもんか。
次第に晴れていくレオンボさんの【煙】。目の前にいる敵は全て倒したが、どうも胸騒ぎがする。
「終わった?」
「いや、まだみてぇだ」
ドォンというけたたましい音と共に突如扉が開かれ、大量の《心臓喰らい》が押し寄せる。
想像絶する間も無い。
圧倒的な数。僕は象気を四肢に纏い、殴る。蹴る。
何回も臓物が飛び散り、どす黒い血が雨のように降り注いだ。
「何でこんなにっ!」
多人数戦闘に慣れていない所為か、一瞬でも気を抜いたら飲み込まれそうだ。
幸い攻撃の速度は遅い。躱しながら反撃を入れるのも容易い。
「ミナトっ! そっちに行ったぞっ!」
直ぐ近くで珍しく血相変えたハウアさんが叫んだ。振り返ると2階に登ろうとする《心臓喰らい》が1体。
『KYURRUA――ッ!!』
「甘いよ!」
背後からなら仕留められると思ったのか。
伸ばしてきた1体の触手を掴んで振り回し、周りにいた数体ごと蹴散らす。
そして駆けあがっていた《心臓喰らい》へ叩きつけた。
「破っ!」
ぶつかった衝撃で怯んだ隙を突き、2匹まとめて頭蓋を蹴り砕いた。
クソっ! またまだ外から! 次々と!? なんて勢いだ!?
「いったいどんだけいるんだ!」
1匹1匹は大したことはないが、数がいると僕等も流石に疲弊してきた。
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