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第三章 『新』展開! 『新』関係! 『新』天地!
第58話 約束という名の『種』。どこまでも君と一緒に
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だが未だ未解明の遺物も多く大半のものが危険とされている。
しかしこの2つは異質だ。アルナは瓶というけど、むしろ形状は銃のようだ。
表面は淡い光沢があり、質感はなめらかで非常に硬い。材質の見当がつかない。
単眼鏡は眼窩に嵌め込むものではなく、耳に掛ける腕がある。
触ってみると弾力性があって、頭をピタッと挟める。
問題はレンズの方、先端に付いた小さな三稜鏡を通して物を見るみたいだ。
「でも、諱? マグホーニーが名前じゃないの?」
「韓家の記録だと、吸血種は決して本名を明かさず、字。ミナト達の言葉で言うと二つ名を名乗るって伝わっているの。ミナトは透鏡でマグホーニーの諱を、私は小瓶で封印する」
僕はアルナに渡された照妖透鏡をつける。
「来た!」
まるで竜巻の如く、芝生を丸裸にしながら月狼こと、ハウアさんが轟音と共に現れた。
『くそっ! 大人しくしやがれっ! 嬢ちゃんまだかっ!?』
雪のような銀色の毛並みは、無数の刺傷と、噴き出る血で染まっていて酷く痛ましい。
ハウアさんはボロボロの身体で地面へマグホーニーを押さえつける。
『しつこい狗がっ!』
マグホーニーも最早満身創痍。
全身を覆っていた黒血の鎧は半分以上が砕け散り、彼女の横顔が露になっていた。
「準備は良い、ミナト」
頷き、アルナに支えられながら単眼鏡でマグホーニーを覗き込んだ。
『言語解析開始……終了。デフォルトで起動します』
しゃ、しゃべった!? しかも女性の声!?
小瓶の側面も輝いて、でもなんだか聞き覚えのある――馬鹿かっ⁉
今はそんなことに気を取られている場合じゃないだろ!
照妖透鏡に赤く光る字が浮かび上がる。何の因果かそれはラーンより教わったアガルタの文字。分かる!
「アルナ、僕の後に続けて」
彼女はマグホーニーの方へ黒琥珀浄瓶の口を向けた。
『ターゲットを指定してください』
マグホーニーの真の名を詠みあげる。
「「メリネティカ……」」
口火を切った矢先、僕等を見るマグホーニーの顔に驚愕の色が宿る。
「「……ダクズジ・ヒッマスィヘヴァ」」
ハウアさんを押しのけ、マグホーニーが僕達へと襲い掛かってくる。
『やめろぉぉぉぉーーーっ!!』
「「マグハァス・ウァガマァニーッ!!」」
『入力が完了しました』
奴は絶叫と共に、馬上槍を振り下ろす――が届かない。
自分の眼球の先でぐにゃりと曲がっていた。まるで麺のように引き伸ばされている。
マグホーニーと一緒に視線を落すと、槍の先端が黒琥珀浄瓶へ飲み込まれている。
『座標固定完了。これより局所的重力圧縮処理を実行します』
再び女性の声がすると、今度は黒琥珀浄瓶の側面が激しく光り輝き、黒い嵐が起こった。
嵐はマグホーニーを呑み込んで暴れ、周囲の木々や大地を抉り取っていく。
な、何て力なんだ。アルナを支えるだけでやっと。
一瞬でも気を抜いたら、こっちまで振り回されそうだ。
「う……っ!!」
アルナの膝が折れ、バランスが崩れる。マズイっ!
咄嗟にアルナの手を握り一緒に黒琥珀浄瓶を支えようとしたが、耐えきれず後ろに――。
『おっと、二人とも気を緩めてんじゃねぇ! しっかり踏ん張りやがれ!』
「「ハウアさんっ!」」
倒れそうになる寸前、ハウアさんが受け支えてくれた。
有難い、もう何かに寄りかからないともちそうになかった。
「行くよ、アルナっ!」
「うん! ミナトっ!」
僕等は残る全て体力を足に注いだ。でもようやく終わる。持ちこたえれば全部終わる。
『……くっ……くくっくっ……』
なんだ? 急に笑い声が――。
暴風の中でマグホーニーが笑っている。細く引き伸ばされても奴は生きていた。
『いいだろう! 今は封じられてやる! しかし覚えとくがいい! 次に相まみえたときキサマ等を確実に殺してやる……はっはっははははっ!!』
黒血の騎士マグホーニーは最後まで高らかに嘲笑い、黒琥珀浄瓶へと飲み込まれていった。
そしていつしか黒い嵐はその鳴りを潜め、辺りは静寂が戻ってくる。
「やったのか……」
マグホーニーの姿は無い。全部終った。全身の力が抜け、二人して地面に崩れた。
地面にポツリ、ポツリと雨が滲み、やがて温かいシャワーのような雨が降り注いでくる。
「ようやく、全部終わったね。ミナト、もうこれで……」
――きっとアルナは本国へ帰ってしまう。
マグホーニーはもういない。
ボースワドゥムにいる必要もないと思ったら、気付けば彼女を背中から強く抱きしめていた。
「……苦しいよ、ミナト」
「ごめん……でも……離したくない。君を帰したくない」
「……うん、私はどこにもいかないよ。ミナトと一緒にいる」
その言葉に感情がこらえきれなくなって、想いの丈を彼女の耳元へ囁いた。
「ねぇ、アルナ。僕の実家のあるエレネスに来ないか?」
目を丸くするアルナに微笑みながら、徐に種の入った袋を見せる。
「これ……アルナ覚えている?」
「……あ……長尾鳶尾の?」
「うん……そこで一緒に植えよう。あそこならきっといいと思うんだ」
僕の告白に、アルナは瞳に涙を溜め、いつか見た、零れるような笑顔を見せてくれた。
しかしこの2つは異質だ。アルナは瓶というけど、むしろ形状は銃のようだ。
表面は淡い光沢があり、質感はなめらかで非常に硬い。材質の見当がつかない。
単眼鏡は眼窩に嵌め込むものではなく、耳に掛ける腕がある。
触ってみると弾力性があって、頭をピタッと挟める。
問題はレンズの方、先端に付いた小さな三稜鏡を通して物を見るみたいだ。
「でも、諱? マグホーニーが名前じゃないの?」
「韓家の記録だと、吸血種は決して本名を明かさず、字。ミナト達の言葉で言うと二つ名を名乗るって伝わっているの。ミナトは透鏡でマグホーニーの諱を、私は小瓶で封印する」
僕はアルナに渡された照妖透鏡をつける。
「来た!」
まるで竜巻の如く、芝生を丸裸にしながら月狼こと、ハウアさんが轟音と共に現れた。
『くそっ! 大人しくしやがれっ! 嬢ちゃんまだかっ!?』
雪のような銀色の毛並みは、無数の刺傷と、噴き出る血で染まっていて酷く痛ましい。
ハウアさんはボロボロの身体で地面へマグホーニーを押さえつける。
『しつこい狗がっ!』
マグホーニーも最早満身創痍。
全身を覆っていた黒血の鎧は半分以上が砕け散り、彼女の横顔が露になっていた。
「準備は良い、ミナト」
頷き、アルナに支えられながら単眼鏡でマグホーニーを覗き込んだ。
『言語解析開始……終了。デフォルトで起動します』
しゃ、しゃべった!? しかも女性の声!?
小瓶の側面も輝いて、でもなんだか聞き覚えのある――馬鹿かっ⁉
今はそんなことに気を取られている場合じゃないだろ!
照妖透鏡に赤く光る字が浮かび上がる。何の因果かそれはラーンより教わったアガルタの文字。分かる!
「アルナ、僕の後に続けて」
彼女はマグホーニーの方へ黒琥珀浄瓶の口を向けた。
『ターゲットを指定してください』
マグホーニーの真の名を詠みあげる。
「「メリネティカ……」」
口火を切った矢先、僕等を見るマグホーニーの顔に驚愕の色が宿る。
「「……ダクズジ・ヒッマスィヘヴァ」」
ハウアさんを押しのけ、マグホーニーが僕達へと襲い掛かってくる。
『やめろぉぉぉぉーーーっ!!』
「「マグハァス・ウァガマァニーッ!!」」
『入力が完了しました』
奴は絶叫と共に、馬上槍を振り下ろす――が届かない。
自分の眼球の先でぐにゃりと曲がっていた。まるで麺のように引き伸ばされている。
マグホーニーと一緒に視線を落すと、槍の先端が黒琥珀浄瓶へ飲み込まれている。
『座標固定完了。これより局所的重力圧縮処理を実行します』
再び女性の声がすると、今度は黒琥珀浄瓶の側面が激しく光り輝き、黒い嵐が起こった。
嵐はマグホーニーを呑み込んで暴れ、周囲の木々や大地を抉り取っていく。
な、何て力なんだ。アルナを支えるだけでやっと。
一瞬でも気を抜いたら、こっちまで振り回されそうだ。
「う……っ!!」
アルナの膝が折れ、バランスが崩れる。マズイっ!
咄嗟にアルナの手を握り一緒に黒琥珀浄瓶を支えようとしたが、耐えきれず後ろに――。
『おっと、二人とも気を緩めてんじゃねぇ! しっかり踏ん張りやがれ!』
「「ハウアさんっ!」」
倒れそうになる寸前、ハウアさんが受け支えてくれた。
有難い、もう何かに寄りかからないともちそうになかった。
「行くよ、アルナっ!」
「うん! ミナトっ!」
僕等は残る全て体力を足に注いだ。でもようやく終わる。持ちこたえれば全部終わる。
『……くっ……くくっくっ……』
なんだ? 急に笑い声が――。
暴風の中でマグホーニーが笑っている。細く引き伸ばされても奴は生きていた。
『いいだろう! 今は封じられてやる! しかし覚えとくがいい! 次に相まみえたときキサマ等を確実に殺してやる……はっはっははははっ!!』
黒血の騎士マグホーニーは最後まで高らかに嘲笑い、黒琥珀浄瓶へと飲み込まれていった。
そしていつしか黒い嵐はその鳴りを潜め、辺りは静寂が戻ってくる。
「やったのか……」
マグホーニーの姿は無い。全部終った。全身の力が抜け、二人して地面に崩れた。
地面にポツリ、ポツリと雨が滲み、やがて温かいシャワーのような雨が降り注いでくる。
「ようやく、全部終わったね。ミナト、もうこれで……」
――きっとアルナは本国へ帰ってしまう。
マグホーニーはもういない。
ボースワドゥムにいる必要もないと思ったら、気付けば彼女を背中から強く抱きしめていた。
「……苦しいよ、ミナト」
「ごめん……でも……離したくない。君を帰したくない」
「……うん、私はどこにもいかないよ。ミナトと一緒にいる」
その言葉に感情がこらえきれなくなって、想いの丈を彼女の耳元へ囁いた。
「ねぇ、アルナ。僕の実家のあるエレネスに来ないか?」
目を丸くするアルナに微笑みながら、徐に種の入った袋を見せる。
「これ……アルナ覚えている?」
「……あ……長尾鳶尾の?」
「うん……そこで一緒に植えよう。あそこならきっといいと思うんだ」
僕の告白に、アルナは瞳に涙を溜め、いつか見た、零れるような笑顔を見せてくれた。
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