暗殺少女を『護』るたった一つの方法

朝我桜(あさがおー)

文字の大きさ
59 / 65
第三章 『新』展開! 『新』関係! 『新』天地!

第58話 約束という名の『種』。どこまでも君と一緒に

しおりを挟む
 だが未だ未解明の遺物も多く大半のものが危険とされている。

 しかしこの2つは異質だ。アルナは瓶というけど、むしろ形状は銃のようだ。

 表面は淡い光沢があり、質感はなめらかで非常に硬い。材質の見当がつかない。

 単眼鏡は眼窩がんかめ込むものではなく、耳に掛ける腕がある。

 触ってみると弾力性があって、頭をピタッと挟める。

 問題はレンズの方、先端に付いた小さな三稜鏡プリズムを通して物を見るみたいだ。

「でも、諱? マグホーニーが名前じゃないの?」

「韓家の記録だと、吸血種は決して本名を明かさず、ジィ。ミナト達の言葉で言うと二つ名ニックネームを名乗るって伝わっているの。ミナトは透鏡でマグホーニーの諱を、私は小瓶で封印する」

 僕はアルナに渡された照妖透鏡をつける。

「来た!」

 まるで竜巻の如く、芝生を丸裸にしながら月狼こと、ハウアさんが轟音と共に現れた。

『くそっ! 大人しくしやがれっ! 嬢ちゃんまだかっ!?』

 雪のような銀色の毛並みは、無数の刺傷と、噴き出る血で染まっていて酷く痛ましい。

 ハウアさんはボロボロの身体で地面へマグホーニーを押さえつける。

『しつこい狗がっ!』

 マグホーニーも最早満身創痍まんしんそうい

 全身を覆っていた黒血の鎧は半分以上が砕け散り、彼女の横顔が露になっていた。

「準備は良い、ミナト」

 頷き、アルナに支えられながら単眼鏡でマグホーニーを覗き込んだ。

『言語解析開始……終了。デフォルトで起動します』

 しゃ、しゃべった!? しかも女性の声!?

 小瓶の側面も輝いて、でもなんだか聞き覚えのある――馬鹿かっ⁉

 今はそんなことに気を取られている場合じゃないだろ!

 照妖透鏡に赤く光る字が浮かび上がる。何の因果かそれはラーンより教わったアガルタの文字。分かる!

「アルナ、僕の後に続けて」

 彼女はマグホーニーの方へ黒琥珀浄瓶の口を向けた。

『ターゲットを指定してください』

 マグホーニーの真の名を詠みあげる。

「「メリネティカ……」」

 口火を切った矢先、僕等を見るマグホーニーの顔に驚愕の色が宿る。

「「……ダクズジ・ヒッマスィヘヴァ」」

 ハウアさんを押しのけ、マグホーニーが僕達へと襲い掛かってくる。

『やめろぉぉぉぉーーーっ!!』

「「マグハァス・ウァガマァニーッ!!」」

『入力が完了しました』

 奴は絶叫と共に、馬上槍を振り下ろす――が届かない。

 自分の眼球の先でぐにゃりと曲がっていた。まるで麺のように引き伸ばされている。

 マグホーニーと一緒に視線を落すと、槍の先端が黒琥珀浄瓶へ飲み込まれている。

『座標固定完了。これより局所的重力圧縮処理を実行します』

 再び女性の声がすると、今度は黒琥珀浄瓶の側面が激しく光り輝き、黒い嵐が起こった。

 嵐はマグホーニーを呑み込んで暴れ、周囲の木々や大地を抉り取っていく。

 な、何て力なんだ。アルナを支えるだけでやっと。

 一瞬でも気を抜いたら、こっちまで振り回されそうだ。

「う……っ!!」

 アルナの膝が折れ、バランスが崩れる。マズイっ!

 咄嗟にアルナの手を握り一緒に黒琥珀浄瓶を支えようとしたが、耐えきれず後ろに――。

『おっと、二人とも気を緩めてんじゃねぇ! しっかり踏ん張りやがれ!』

「「ハウアさんっ!」」

 倒れそうになる寸前、ハウアさんが受け支えてくれた。

 有難い、もう何かに寄りかからないともちそうになかった。

「行くよ、アルナっ!」

「うん! ミナトっ!」

 僕等は残る全て体力を足に注いだ。でもようやく終わる。持ちこたえれば全部終わる。

『……くっ……くくっくっ……』

 なんだ? 急に笑い声が――。

 暴風の中でマグホーニーが笑っている。細く引き伸ばされても奴は生きていた。

『いいだろう! 今は封じられてやる! しかし覚えとくがいい! 次に相まみえたときキサマ等を確実に殺してやる……はっはっははははっ!!』

 黒血の騎士マグホーニーは最後まで高らかに嘲笑い、黒琥珀浄瓶へと飲み込まれていった。

 そしていつしか黒い嵐はその鳴りを潜め、辺りは静寂が戻ってくる。

「やったのか……」

 マグホーニーの姿は無い。全部終った。全身の力が抜け、二人して地面に崩れた。

 地面にポツリ、ポツリと雨が滲み、やがて温かいシャワーのような雨が降り注いでくる。

「ようやく、全部終わったね。ミナト、もうこれで……」

 ――きっとアルナは本国へ帰ってしまう。

 マグホーニーはもういない。

 ボースワドゥムにいる必要もないと思ったら、気付けば彼女を背中から強く抱きしめていた。

「……苦しいよ、ミナト」

「ごめん……でも……離したくない。君を帰したくない」

「……うん、私はどこにもいかないよ。ミナトと一緒にいる」

 その言葉に感情がこらえきれなくなって、想いの丈を彼女の耳元へ囁いた。

「ねぇ、アルナ。僕の実家のあるエレネスに来ないか?」

 目を丸くするアルナに微笑みながら、徐に種の入った袋を見せる。

「これ……アルナ覚えている?」

「……あ……長尾鳶尾チェンメイユァンメイの?」

「うん……そこで一緒に植えよう。あそこならきっといいと思うんだ」

 僕の告白に、アルナは瞳に涙を溜め、いつか見た、零れるような笑顔を見せてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...