玻璃色の世界のアリスベル

朝我桜(あさがおー)

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第一章 フラジオレットな少女と巡る旅の栞

第13話 この、ひと時の奇跡は銀河より

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「地球だとス●ールって言うんだぁ。実はこれツェパーという飲み物で、さっき私達が森で見た ヘーセァトの乳を少しだけ発酵させたものなんだ。アルコールは入っていないけど、ビタミンやミネラルが豊富で、栄養満点なんだよ」

 それはそうでしょ? なにせ伝説の 一角馬ユニコーンの乳酸菌飲料なんだから。

「まさか不老不死になったりしないよね? それとも寿命が100年延びるとか?」

「まっさかぁ~そんなことある訳ないよ。そんな話聞いたことも無いよ」

 僕の与太話が余程ツボだったようで、アリスは失笑した上に、お腹を抱えて笑い始めた。

「あらあら、何だかそうしていると、二人ともまるで恋人同士ね」

「やだなぁ、フェイさんったら、恋人っていうより姉弟じゃないですかぁ?」

「そうかしら? とてもお似合いだと思うのだけど?」

 年齢だけ見れば、姉妹と言うより親子ぐらいの年齢差だ。

 正直なところ僕がアリスに対して持っている感情は、年齢の事を抜きにして、尊敬の念という感情が近い。

「う~ん、僕は既に姉さんいるしなぁ、少し年の離れた親戚のお姉さんって感じかなぁ」

「へぇ、ソラト、お姉さんいるんだ。どういう人なの?」

「そうだなぁ、どこから話そうかなぁ……」

  虹霓こうげいの癒しの風を全身に浴び、僕らは 星瓜スチャルンメローナを摘まみながら、他愛の無い話に花を咲かせる。

 アリスと話していると今まで長い迷路にいたのではないかという錯覚をしそうになる。

 因みに 星瓜スチャルンメローナの味は甘熟のマンゴーのようで、触感は林檎に近かった。

「ねぇ? ソラト知ってる? 実は私達の世界も 暗黒物質ダークマターの全てが見える訳じゃないんだよ。私達を構成している物質も、全体の中の地球人の言う 暗黒物質ダークマターの精々四分の一、それから計算すると、偶然にもソラトたちと割合が大体同じになるんだ」

「流石、お爺様が天文学者だけあって、アリスちゃんは宇宙の事に関して詳しいわね。本当、アリスちゃんの言う通り、それは何て偶然なのかしら……いいえ、奇跡なのかしら……」

「奇跡って自然の複雑な系が生み出す特別な現象なんですよねぇ……」

「本当にそうね……」

 自然が作り出した奇跡に僕らは溜息を漏らすばかりだ。

「そうですね。じゃあ、こうしてアリスとファイユさんと出会えたのは奇跡みたいなものだね」

「そうだね、この奇跡はきっと私達の銀河がくれた一時の贈り物なんだよ」

「その言葉は本当にこそばゆいよ」

「ふぇ~なんで~」

 でも、そんなこそばゆい感じも悪くない。

 世界には奇跡とも呼べる絶景がある事なんて知らなかった。まして僕達が住む宇宙の中に別の世界があったなんて信じられなかった。

 結局僕は見たいものだけを見て、信じたいものを信じていただけだという事を痛感する。

「じゃあ、この素敵な出会いの締めくくりに、アリスちゃん、ベアトリッテ遺跡に行って見ない?」

「ベアトリッテ遺跡ですか? 良いですよ。ここからだと徒歩30 ミウンテぐらいで行けると思います」

「あら、意外に近いのね。私この場所初めてだから方角が分からないの。アリスちゃん、また案内お願いできる?」

「ベアトリッテ遺跡?」

 アリスの話だと、ベアトリッテ遺跡とは、アリス達の世界には今から3000年以上前に三賢女と呼ばれる人物がいたという。

 その人達は各地の混乱や災いを沈めたとされているそうで、彼女等を祭った遺跡が世界各地に点在しているとか、ベアトリッテ遺跡もその一つらしい。

「了解でぇす。でもフェイさん、ベアトリッテ遺跡に何か思い入れでも?」

「いいえ、ただ……少し面白いものを見つけたの」

「面白いものですか?」

「それは着いてからのお楽しみ」

 ファイユさんは不敵な笑みを浮かべる。

 アリスは不思議そうな顔をしていたけど、僕にはファイユさんの思惑が何となくだけど分かった。
 再び深い森の中を掻い潜ってくことになった。でも森をかき分けるとすぐ砂利の敷かれた遊歩道に出られたので、今度の山道は苦にならなそうだった。

 ベアトリッテ遺跡は毎年、観光客の訪れる世界遺産で、遺跡へと通ずる道はちゃんと整備されているんだそうだ。

 そうなると必然と思うところがある。

「ねぇ。アリス。最初からこの道を使えばよかったんじゃないのかな?」

「え? でもそうするとお昼までにあの場所に着かなかったよ? 町から結構距離あるし、私、車の免許持っていないし、でもフェイさんは持ってましたよね?」

「あらあら、まあぁ良いじゃない。車だと、こうしてゆったりと観光を楽しむことなんて出来なかっただろうし」

「そうですね。楽しかったからいっか」

「あ~もしかしてソラト、私の漕ぐ手漕ぎ舟スケーレン、気に入ってくれたんだ?」

 僕の顔を覗き込んでくるアリスに、僕の心臓が跳ね上がった。

 図星なのは確かなんだけど、何だろう心が弾むような妙な感じ、凄く照れる。

「うん、まぁ~そう、だね」

「やったねっ!」

 アリスの弾むような笑顔はとても自然で、裏も無く、褒められたことを本当に喜んでいるようだった。僕もその笑顔に動かされて、つい口元が綻ぶ。

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