33 / 44
第二章 パッショナートな少女と歩く清夏の祭り
第32話 再会の場所は炎揺らめく窪溜
しおりを挟む
幾何学模様が刻まれた石畳の上に僕等は腰を下ろして、大人しく救助を待つことにした。
ふと見上げると、岩壁に囲まれた窪溜は西日で一層赤く染まり、曲がりくねった地層が燃え盛る紅蓮の様に揺らめいる。
そのあまりの壮観な景色に僕は感嘆の溜息が漏れる。
「さて、辿りついちゃったのは良いけど、ここで救助を待ちましょうか。位置情報は送ってあるから、もうすぐ来ると思うわ」
「そうですね。ここなら開けているし、救助隊の人も見つけやすいと思います。あっ! あれ見てください。飛び石がありますよ」
僕は水面の一か所に飛び石があるのを見つけ、目で追っていくと、崖の上に繋がる石で出来た階段を見つける。
「あの回廊はやっぱりここに繋がっていたのかもしれません」
「そうだったのね。それにしてもこの遺跡は何なのかしら? ニュースでは水晶碑が見つかったって言ったけど、ここには無いのね」
「ああ、それは彫像の裏にある楽譜を弾かないと出てこないんですよ」
「楽譜?」
「えっと確かにこっちにあったと思います」
僕は彫像の裏側へリシェーラさん案内する。ベアトリッテ遺跡と同じく譜面の刻まれた石板がそこにあった。
だけど僕はスペクリムの文字はまだ全然読めない。元々音楽に対して興味も無かったので、まして譜面なんて読めない。
「ほら、ここに……でも僕は音楽がからっきしなので、何が書いてあるのか全然分からないんですけどね」
「あら、そうなの? 結構何でも卒なく熟せそうな印象だったけど、意外ね。ソラトにも苦手なものもあるのね」
「へぇ~、「にも」っていう事は、リシェーラさんにも苦手なものがあるんだ?」
「そ、それは私にだって苦手なものの一つや二つあるわよ」
洞窟の一件で少し距離が縮まった所為もあって、僕は少し魔が差してしまった。少しだけ揶揄ったらリシェーラさんは少し拗ねてしまった。
「それよりも今は楽譜でしょう? 仕方がないわ。音楽の苦手なソラトの代わりにリシェーラお姉さんが譜面を読んであげるわよ。えっと――」
いつの間にか攻守逆転して、揶揄っていた僕の方が弄られている。
「これはエアデフェの譜面ね。なんていえば良いのかしら? こう木とか鉄の筒や椀に動物の皮や繊維の膜を張った楽器で、叩くと音が鳴るの。ソラト達の世界では何て言うのかしら? そもそもあるのかしら?」
「筒や椀に膜……太鼓かなぁ? うん、確かに似たものならあるよ」
「そう、そっちではタイコっていうの。つまりそのタイコが無いと水晶碑は出てこないという訳ね」
「そういう事だね。それにただ上手いだけじゃ駄目みたいだし、楽器も無い状態じゃあ、どうにもしようもいね」
「そうね……」
譜面を見るリシェ―ラさんは口角が下がり物悲しい顔をしていた。何か思うところがありそうな様子。
「……もしかして、リシェーラさん。弾けるの?」
「……弾けないわ」
返事までの一瞬の間。やっぱりリシェーラさんには何か思うところがあるようだった。でもあまり踏み込んではいけないような気がする。
いくら距離が縮まったとは言っても、心の傷にまでズカズカと入り込むほど僕は無神経じゃない。何せ自分がそうだったから。
「ん? なんだろう?」
不意に水の潺と一緒に微かな人の声が聞こえた気がした。
どこかで聞き覚えがあった気がしたので、僕は声の主を探し周囲を見渡す。
「どうしたの? ソラト」
「いや、何か、声が聞こえたような気がして」
「声?」
「おーいっ!」
やっぱり誰かの声かと思ったら、アリスの声だった。
さっき僕が眺めていた飛び石の先の崖の上からアリスは手を振っていた。後ろには愛花の姿も見える。
アリスは相も変わらず元気そう。アイカの方はというと疲れ果ててぐったりしているけど、命に別状は無いようだ。
「良かった。あの子達も無事だったのね」
「そうですね。本当に良かった。無事で」
僕も手を振ってアリス達に無事を知らせる。それにしても本当に良かった。
「おーいっ! ちゅーちゃーんっ!」
「なっ!」
アリスの口から出た言葉に、僕の思考が一瞬止まった。それは――
「ちゅーちゃん?」
「いや……その……」
ちゅーちゃん。それは幼馴染の愛花と省吾から言われていた小学校の頃のあだ名だ。
なんでそのあだ名が生まれたかというと、僕の名前の『宙人』に『宇』を付けると『宇宙人《うちゅうじん》』になる訳で、そこから『宙人』で『ちゅーちゃん』になった。
それをアリスが知る訳もないはずで、多分ソースは愛花以外考えられない。
何せ『ちゅーちゃん』というあだ名を最初に言い出したのは愛花なのだから。
くそっ! 愛花の奴。アリスに教えたな。
「ちゅーちゃんっ! リシェーラさんっ! 無事だったんだっ! 良かったぁ~」
崖を駆けあがってくるや間髪入れずアリスは僕の手を掴んでぶんぶんと振る。
再会の喜びを全身使って表現するアリスの表現の豊かさには感心する。けど恥ずかしい。
「あ、アリス達も無事でよかったよ。それより――」
「宙人たちが急にいなくなるんだもん……びっくりしたよ。私達……すんごく探したんだからね」
あだ名の件を聞こうとした途端、愛花が息を切らせつつ詰め寄ってきた。
心配したのはこっちだって同じって言いそうになったけど、もう気力も体力もあまりないので、今日のところは再会を喜び、僕は安堵することにした。
ふと見上げると、岩壁に囲まれた窪溜は西日で一層赤く染まり、曲がりくねった地層が燃え盛る紅蓮の様に揺らめいる。
そのあまりの壮観な景色に僕は感嘆の溜息が漏れる。
「さて、辿りついちゃったのは良いけど、ここで救助を待ちましょうか。位置情報は送ってあるから、もうすぐ来ると思うわ」
「そうですね。ここなら開けているし、救助隊の人も見つけやすいと思います。あっ! あれ見てください。飛び石がありますよ」
僕は水面の一か所に飛び石があるのを見つけ、目で追っていくと、崖の上に繋がる石で出来た階段を見つける。
「あの回廊はやっぱりここに繋がっていたのかもしれません」
「そうだったのね。それにしてもこの遺跡は何なのかしら? ニュースでは水晶碑が見つかったって言ったけど、ここには無いのね」
「ああ、それは彫像の裏にある楽譜を弾かないと出てこないんですよ」
「楽譜?」
「えっと確かにこっちにあったと思います」
僕は彫像の裏側へリシェーラさん案内する。ベアトリッテ遺跡と同じく譜面の刻まれた石板がそこにあった。
だけど僕はスペクリムの文字はまだ全然読めない。元々音楽に対して興味も無かったので、まして譜面なんて読めない。
「ほら、ここに……でも僕は音楽がからっきしなので、何が書いてあるのか全然分からないんですけどね」
「あら、そうなの? 結構何でも卒なく熟せそうな印象だったけど、意外ね。ソラトにも苦手なものもあるのね」
「へぇ~、「にも」っていう事は、リシェーラさんにも苦手なものがあるんだ?」
「そ、それは私にだって苦手なものの一つや二つあるわよ」
洞窟の一件で少し距離が縮まった所為もあって、僕は少し魔が差してしまった。少しだけ揶揄ったらリシェーラさんは少し拗ねてしまった。
「それよりも今は楽譜でしょう? 仕方がないわ。音楽の苦手なソラトの代わりにリシェーラお姉さんが譜面を読んであげるわよ。えっと――」
いつの間にか攻守逆転して、揶揄っていた僕の方が弄られている。
「これはエアデフェの譜面ね。なんていえば良いのかしら? こう木とか鉄の筒や椀に動物の皮や繊維の膜を張った楽器で、叩くと音が鳴るの。ソラト達の世界では何て言うのかしら? そもそもあるのかしら?」
「筒や椀に膜……太鼓かなぁ? うん、確かに似たものならあるよ」
「そう、そっちではタイコっていうの。つまりそのタイコが無いと水晶碑は出てこないという訳ね」
「そういう事だね。それにただ上手いだけじゃ駄目みたいだし、楽器も無い状態じゃあ、どうにもしようもいね」
「そうね……」
譜面を見るリシェ―ラさんは口角が下がり物悲しい顔をしていた。何か思うところがありそうな様子。
「……もしかして、リシェーラさん。弾けるの?」
「……弾けないわ」
返事までの一瞬の間。やっぱりリシェーラさんには何か思うところがあるようだった。でもあまり踏み込んではいけないような気がする。
いくら距離が縮まったとは言っても、心の傷にまでズカズカと入り込むほど僕は無神経じゃない。何せ自分がそうだったから。
「ん? なんだろう?」
不意に水の潺と一緒に微かな人の声が聞こえた気がした。
どこかで聞き覚えがあった気がしたので、僕は声の主を探し周囲を見渡す。
「どうしたの? ソラト」
「いや、何か、声が聞こえたような気がして」
「声?」
「おーいっ!」
やっぱり誰かの声かと思ったら、アリスの声だった。
さっき僕が眺めていた飛び石の先の崖の上からアリスは手を振っていた。後ろには愛花の姿も見える。
アリスは相も変わらず元気そう。アイカの方はというと疲れ果ててぐったりしているけど、命に別状は無いようだ。
「良かった。あの子達も無事だったのね」
「そうですね。本当に良かった。無事で」
僕も手を振ってアリス達に無事を知らせる。それにしても本当に良かった。
「おーいっ! ちゅーちゃーんっ!」
「なっ!」
アリスの口から出た言葉に、僕の思考が一瞬止まった。それは――
「ちゅーちゃん?」
「いや……その……」
ちゅーちゃん。それは幼馴染の愛花と省吾から言われていた小学校の頃のあだ名だ。
なんでそのあだ名が生まれたかというと、僕の名前の『宙人』に『宇』を付けると『宇宙人《うちゅうじん》』になる訳で、そこから『宙人』で『ちゅーちゃん』になった。
それをアリスが知る訳もないはずで、多分ソースは愛花以外考えられない。
何せ『ちゅーちゃん』というあだ名を最初に言い出したのは愛花なのだから。
くそっ! 愛花の奴。アリスに教えたな。
「ちゅーちゃんっ! リシェーラさんっ! 無事だったんだっ! 良かったぁ~」
崖を駆けあがってくるや間髪入れずアリスは僕の手を掴んでぶんぶんと振る。
再会の喜びを全身使って表現するアリスの表現の豊かさには感心する。けど恥ずかしい。
「あ、アリス達も無事でよかったよ。それより――」
「宙人たちが急にいなくなるんだもん……びっくりしたよ。私達……すんごく探したんだからね」
あだ名の件を聞こうとした途端、愛花が息を切らせつつ詰め寄ってきた。
心配したのはこっちだって同じって言いそうになったけど、もう気力も体力もあまりないので、今日のところは再会を喜び、僕は安堵することにした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる