7 / 35
Season1 セオリー・S・マクダウェルの理不尽な理論
#007 猟犬の過去 Psychopath
しおりを挟む
一度公安部に戻った暁たちは、捜査状況を整理するため専用会議室でブリーフィングが行われる。
専用会議室は一つの執務机と、数十人が座れるようなU字型のソファーと応接テーブルがあり、会議室と言うよりはちょっとした応接室のようだった。
トップバッターに選ばれたのはセオリー。レトロウイルスベクターと狼の歯型ついて影浦をはじめとするメンバーに分かりやすく説明した。
「――狼は喉元へ的確に一撃を加えていたところから見て、専門の訓練を受けていたと見受けれれます。また、これは推測ですが、三島大臣の件から考えて、レトロウイルスベクターについてはGADSから一時的に逃れるために使用したと考えられますわ」
三島大臣は選挙の際、レトロウイルスベクターを使用し、政治家適性を上げた以外に考えられなかった。
「セオリー嬢ちゃん、それは予め二種類を用意しておけば、また元に戻ることは可能か?」
「可能ですわ。寧ろそちらの方が良いですわね。レトロウイルスベクターも完璧ではありません、乱用すれば癌のリスクが高まりますので」
しかし犯罪として立証することは難しい。データ改竄ならいざ知らず、遺伝子の改竄となると『経歴詐称』や『詐欺罪』と言ったところだろう。
引き続いて影浦が巧綾会の調査結果について話をし始めようとすると――
「遅くなった。オヤジ、タカさん」
「お、おお遅くなりましたっ!」
(猟師みたいな方と、もそっとした方が出てきましたわね。本当に警察官かしら?)
綺麗に整えられた髭面で、見た感じ趣味人じみた風貌の男。分析班の岐部幸二。
そして、どう見ても警察官とは思えない挙動不審な眼鏡を掛けた地味な女性。同じく分析班の石寺千冬が現れる。
「遅いぞ、岐部、石寺、それでどうだった?」
至って事務的に叱責する穏田。遅刻については咎める様子も無く足早に話しを進める。
「ハードディスクは駄目だった。他の監視カメラの映像も周辺1kmのものは軒並みやられてやがる。ただ一つだけネット接続されていない監視カメラがありまして、そいつは大丈夫でした」
岐部は映像に出せと指で合図をすると、石寺は狼狽えながら端末を操作して、監視カメラの映像をスクリーンに投影させる。
映像の端に大型犬と人影が路地を走り去っていく姿が映っていた。
「この時間帯……俺が周辺で聞き込みをした情報と一致するな。周辺では巨大な狼をみたっていう目撃証言があり、それと黒のレザースーツを着た女を見かけたらしい」
「とっつぁん。ちょっと良いか?」
ふと、ソファーの端に座って寛いでいた筋骨隆々の大男、多田羅大治が徐に手を上げる。
「三島大臣の背後関係を洗っていたんだが、この大臣はセレスティアルクランクロニクル
とかいうVRゲームに一時期ハマっていたらしい。他の議員の中にもこのゲームをプレイしている多い。度々そのVRコミュニティに顔出していたんだが、選挙を境に妙な連中と付き合いだしてそれから来なくなったらしい」
携帯端末を操作して多田羅がスクリーンに画像を表示させた。CelestialClanChronicleという表題に天空の花畑と思わせる映像が映し出される。
「直訳すると天上の一族の物語かしら? 意味がよく分かりませんわ……大抵のゲームの表題はあまり意味をなしてなかったり、タイトルと内容が異なったりしますが……」
「嬢ちゃんの言う通りだな。多田羅、このセレスティアルクランクロニクルというのは調べたのか?」
「ああ、一応はな……どうやらそいつは巷ではかなり流行っているらしい。高校生の間では今まで無かった没入感で、ゲームから戻ってこない所謂廃人が社会問題にないつつあるらしい」
「要領を得ねぇな。暁はどう思う?」
ソファーに座らず、壁際で冷静にスクリーンを眺めていた暁。ブリーフィング早々から終始無言で何か考えている様子だった。
「とっつぁん。この事件の犯人は二人いる。レザースーツの女とレトロウィルスベクターをばら撒いている奴は別物だ。推測だが真犯人はそのVRゲームのコミュニティを使ってベクターをばら撒いている」
(あら、意外ね……)
意外に的を得ている暁の意見にセオリーは共感を覚える。
レトロウィルスベクターを裏で密かにばら撒くという巧妙さとは裏腹にレザースーツの女の方は、色々証拠を残し過ぎて詰めの甘さにセオリーも引っ掛かりを感じていた。
「ほう、そいつは同じ穴の貉だから分かるってことかぁ?」
「……ああ、そうだ」
嫌味たらしい不敵に微笑む多田羅の言葉に対して、冷淡にも似た冷静さで受け流す暁。
(……一体、何ですの?)
場の雰囲気が妙に重々しく変わり始めた空気に、セオリーは顔を顰める。
7月16日、首都高――
一夜明けて、セオリーと暁はについてセレスティアルクランクロニクルについて調べることになった。
車中ずっと暁は終始無言。いつも通り不愛想な顔つきだ。
(こればっかりは仕方がないとは言えないですわね……)
暁の横顔を見つめ、考え込んでしまう。彼がどうしてそうなってしまったかについて――
「どうした? 俺の顔に何か付いているのか?」
「い、いいえ、別に」
見られていたことがバレてセオリーは一瞬動揺する。
「どうせ、その様子だと俺の過去についてとっつぁんから聞いたか?」
図星を付かれセオリーの肩が跳ね上がる。実のところセオリーは昨日の会議の後、会議中の雰囲気の変化が気になって、影浦から話を聴いてしまった。
最初は渋っていた影浦だったが、セオリーの真剣な顔つきに根負けして、暁の過去について話し出した。
「……なぜ、分かりましたの?」
「そんな顔をしていれば大体な」
「怒らないのですの?」
「……怒ったところで仕方がない。そもそもそんな情動は俺には無い。あるのは唯一つ、あいつとの約束を果たす信念だけだ」
暁は言葉とは裏腹に、彼の目に煮えたぎる怒りが満ちているようにセオリーには見えた。
(これは重症ですわね……)
暁がこのような性格になってしまったのも、GADS導入当初の人間の対応にに原因がある。
それは暁が当時大学生だった頃の話だ――
GADSが導入されて間もなくの頃、就職活動中の学生を対象とした企業合同説明会ではGADSによる企業適性診断が行われていた。
優秀な人材を集められるという魅力的なシステムに、多くの企業がこれに飛びついていた。
しかし、その説明会会場の血液検査で暁は――
『こ、これは……サ、サイコパス予備軍っ! す、直ぐに出ていなさいっ! 警備員っ! は、早くこいつを摘まみだせっ!』
暁に鵜も言わさない企業側の対応に会場が騒然とする中、理不尽にも警備員に摘まみだされた。
MAOA遺伝子欠失――暁はそう診断された。
専用会議室は一つの執務机と、数十人が座れるようなU字型のソファーと応接テーブルがあり、会議室と言うよりはちょっとした応接室のようだった。
トップバッターに選ばれたのはセオリー。レトロウイルスベクターと狼の歯型ついて影浦をはじめとするメンバーに分かりやすく説明した。
「――狼は喉元へ的確に一撃を加えていたところから見て、専門の訓練を受けていたと見受けれれます。また、これは推測ですが、三島大臣の件から考えて、レトロウイルスベクターについてはGADSから一時的に逃れるために使用したと考えられますわ」
三島大臣は選挙の際、レトロウイルスベクターを使用し、政治家適性を上げた以外に考えられなかった。
「セオリー嬢ちゃん、それは予め二種類を用意しておけば、また元に戻ることは可能か?」
「可能ですわ。寧ろそちらの方が良いですわね。レトロウイルスベクターも完璧ではありません、乱用すれば癌のリスクが高まりますので」
しかし犯罪として立証することは難しい。データ改竄ならいざ知らず、遺伝子の改竄となると『経歴詐称』や『詐欺罪』と言ったところだろう。
引き続いて影浦が巧綾会の調査結果について話をし始めようとすると――
「遅くなった。オヤジ、タカさん」
「お、おお遅くなりましたっ!」
(猟師みたいな方と、もそっとした方が出てきましたわね。本当に警察官かしら?)
綺麗に整えられた髭面で、見た感じ趣味人じみた風貌の男。分析班の岐部幸二。
そして、どう見ても警察官とは思えない挙動不審な眼鏡を掛けた地味な女性。同じく分析班の石寺千冬が現れる。
「遅いぞ、岐部、石寺、それでどうだった?」
至って事務的に叱責する穏田。遅刻については咎める様子も無く足早に話しを進める。
「ハードディスクは駄目だった。他の監視カメラの映像も周辺1kmのものは軒並みやられてやがる。ただ一つだけネット接続されていない監視カメラがありまして、そいつは大丈夫でした」
岐部は映像に出せと指で合図をすると、石寺は狼狽えながら端末を操作して、監視カメラの映像をスクリーンに投影させる。
映像の端に大型犬と人影が路地を走り去っていく姿が映っていた。
「この時間帯……俺が周辺で聞き込みをした情報と一致するな。周辺では巨大な狼をみたっていう目撃証言があり、それと黒のレザースーツを着た女を見かけたらしい」
「とっつぁん。ちょっと良いか?」
ふと、ソファーの端に座って寛いでいた筋骨隆々の大男、多田羅大治が徐に手を上げる。
「三島大臣の背後関係を洗っていたんだが、この大臣はセレスティアルクランクロニクル
とかいうVRゲームに一時期ハマっていたらしい。他の議員の中にもこのゲームをプレイしている多い。度々そのVRコミュニティに顔出していたんだが、選挙を境に妙な連中と付き合いだしてそれから来なくなったらしい」
携帯端末を操作して多田羅がスクリーンに画像を表示させた。CelestialClanChronicleという表題に天空の花畑と思わせる映像が映し出される。
「直訳すると天上の一族の物語かしら? 意味がよく分かりませんわ……大抵のゲームの表題はあまり意味をなしてなかったり、タイトルと内容が異なったりしますが……」
「嬢ちゃんの言う通りだな。多田羅、このセレスティアルクランクロニクルというのは調べたのか?」
「ああ、一応はな……どうやらそいつは巷ではかなり流行っているらしい。高校生の間では今まで無かった没入感で、ゲームから戻ってこない所謂廃人が社会問題にないつつあるらしい」
「要領を得ねぇな。暁はどう思う?」
ソファーに座らず、壁際で冷静にスクリーンを眺めていた暁。ブリーフィング早々から終始無言で何か考えている様子だった。
「とっつぁん。この事件の犯人は二人いる。レザースーツの女とレトロウィルスベクターをばら撒いている奴は別物だ。推測だが真犯人はそのVRゲームのコミュニティを使ってベクターをばら撒いている」
(あら、意外ね……)
意外に的を得ている暁の意見にセオリーは共感を覚える。
レトロウィルスベクターを裏で密かにばら撒くという巧妙さとは裏腹にレザースーツの女の方は、色々証拠を残し過ぎて詰めの甘さにセオリーも引っ掛かりを感じていた。
「ほう、そいつは同じ穴の貉だから分かるってことかぁ?」
「……ああ、そうだ」
嫌味たらしい不敵に微笑む多田羅の言葉に対して、冷淡にも似た冷静さで受け流す暁。
(……一体、何ですの?)
場の雰囲気が妙に重々しく変わり始めた空気に、セオリーは顔を顰める。
7月16日、首都高――
一夜明けて、セオリーと暁はについてセレスティアルクランクロニクルについて調べることになった。
車中ずっと暁は終始無言。いつも通り不愛想な顔つきだ。
(こればっかりは仕方がないとは言えないですわね……)
暁の横顔を見つめ、考え込んでしまう。彼がどうしてそうなってしまったかについて――
「どうした? 俺の顔に何か付いているのか?」
「い、いいえ、別に」
見られていたことがバレてセオリーは一瞬動揺する。
「どうせ、その様子だと俺の過去についてとっつぁんから聞いたか?」
図星を付かれセオリーの肩が跳ね上がる。実のところセオリーは昨日の会議の後、会議中の雰囲気の変化が気になって、影浦から話を聴いてしまった。
最初は渋っていた影浦だったが、セオリーの真剣な顔つきに根負けして、暁の過去について話し出した。
「……なぜ、分かりましたの?」
「そんな顔をしていれば大体な」
「怒らないのですの?」
「……怒ったところで仕方がない。そもそもそんな情動は俺には無い。あるのは唯一つ、あいつとの約束を果たす信念だけだ」
暁は言葉とは裏腹に、彼の目に煮えたぎる怒りが満ちているようにセオリーには見えた。
(これは重症ですわね……)
暁がこのような性格になってしまったのも、GADS導入当初の人間の対応にに原因がある。
それは暁が当時大学生だった頃の話だ――
GADSが導入されて間もなくの頃、就職活動中の学生を対象とした企業合同説明会ではGADSによる企業適性診断が行われていた。
優秀な人材を集められるという魅力的なシステムに、多くの企業がこれに飛びついていた。
しかし、その説明会会場の血液検査で暁は――
『こ、これは……サ、サイコパス予備軍っ! す、直ぐに出ていなさいっ! 警備員っ! は、早くこいつを摘まみだせっ!』
暁に鵜も言わさない企業側の対応に会場が騒然とする中、理不尽にも警備員に摘まみだされた。
MAOA遺伝子欠失――暁はそう診断された。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる