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鬱(最終的にはハピエン?)
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攻め…エリオット。高位貴族。
受け…カロン。低位貴族。
―――――――――――――――――――――
「おめでとうございます、妊娠四カ月目ですね。」
僕はその言葉にそっと絶望した。
愛しているはずの人、でも彼は僕を愛しては居ない。別の人を愛していて、その人が子供を産めないから代わりに僕が産むだけ。
交わったことはない。けれど、彼の精液を自分で中に入れるのだ。彼の目の前で。
酷く屈辱だった。
辛かった。
心が張り裂けてしまいそうなほど悲しかった。
泣かないように必死に耐えていた僕を、彼は冷たい瞳で一瞥し、早く入れるようにと急かす。
入れ終わるところを見届けると、彼はさっさと本当の妻の元へ急ぐのだ。
僕はそこでやっと涙を零すことを許される。
冷たいシーツの上で声を殺して嗚咽をし、ひとり寂しく彼の名を呼んだ。
「旦那様、妊娠四ヶ月だそうです。」
「そうか、ご苦労。」
「はい、失礼します。」
彼の執務室から出て自室に戻ろうとすると、廊下の向かいから彼の妻がやってきた。
咄嗟に僕は顔を伏せて廊下の端に寄り、使用人のように妻が過ぎるのを待つ。
いつもは目もくれず彼の元へ急ぐのだが、今日は違ったようだった。
「ねぇ、顔を上げてくださいよ。」
落ち着きを払った声音でそう言われると、可愛らしいこの男の子には逆らえなくなる。
「…っはい…。」
「そんなに怯えないでください。貴方と僕の関係じゃないですか。
………妊娠したそうですね、おめでとうございます。僕にはできないことなので、とても羨ましい…。
ええ、本当に。憎いくらい、ね。」
「…申し訳…ありません…。」
柔らかそうな金の髪、陶器のように白く滑らかな肌、紅を引いたような赤い唇。
どこをとっても可愛らしい人ではあるが、その瞳はすべてを食らいつくすかのような獰猛な獣のソレで。
「何を謝っているんです…?僕は貴方を責めているわけではないのに。
ああ、子供が生まれそうになったらお知らせくださいね。応援しに駆けつけますから。
…ふふ、彼に似た子供が生まれると良いですね。
貴方の色は不愉快…いえ、少々変わった色味ですので。
旦那様も何故貴方を選んだのか不思議ですけれど。」
じゃあ、と穏やかに彼の部屋の方へ去る妻。
つま先が凍え、彼が見えなくなっても暫くは、そこから動けないでいた。
案外妊娠生活というものは楽なものらしい。
もともと部屋から出ない質ではあったが、今は益々出ないし、屋敷の者たちも妊婦を気遣ってか色々なことを先回りしてやってくれている。
僕はただ、この薄暗い牢屋のような部屋で、膨らんだ腹を擦りながら本を読むことしかしなくなっていた。
妊娠報告をしたあの日から、旦那様はこの部屋に近づかなくなっていた。
それが寂しいと思うものの、あの冷えた瞳をこちらに向けられないのが安心するような。
ただ、この単調すぎるとも言える生活が、ぼんやりと物事を深く考えずに済むような、そんなものに変わってきたのだ。
日がな一日本を読んではぼんやりとし、どこまで読んだか…と1ページ前から再び読む。
けれどこんな登場人物いたっけ…となって、数ページ遡る…を繰り返すのが、どことなく心地よいものになっていたのだ。
ある日、ベッドで微睡んでいるとじわじわとくる痛みに目を覚ました。
お腹でも壊したのかな…と思ってお手洗いに行こうとすると、何故かお腹が膨らんでいる。
おかしい、どうして、おかしくなってしまった?
数秒だったか数分だったか、今となっては分からないがそれほどの時間考えていると、パシャっと股の間から水が出てきて。
益々パニックになった僕は、部屋の外に向かって
「誰か!!助けて!」
そう声を出していた。
腹痛とグラグラする視界に、倒れ込むようにして水たまりができたカーペットに座り込む。
するとやってきたのは見知らぬ男の人たち。
「カロン様、今から赤子を取り出しますから安心してくださいね!」
「大丈夫ですよカロン様!」
そう口々に言われるも、カロン様って誰のこと?と一人首を傾げる。
彼らにベッドへ運ばれて、焦って走ってきたような老齢の医者がこちらへ来る。
「おお、おお!カロン様!もう大丈夫ですから!安産ですよこれは!もう頭が見えておる!!」
だから、カロン様って誰のことだ…!僕は…、
「僕、は……?っぐぅぅ…!いだ、いだぃぃ…」
自分の名前を思い出せない、なんだっけ僕の名前。思い出そうとすると、再び強烈な痛みが襲ってきて。
「そうだ!もっと力みなさい!いい調子だ!」
長く感じる時間の中、やっと下半身を支配する痛みと違和感がなくなった、そう思ったらどっと疲れが押し寄せてきたのだ。
「おお!カロン様そっくりの可愛らしい子だ!おめでとうございます、カロン様!」
取り上げられて見せてもらった、僕のお腹から出てきたという子供は、何処となく見たことがある色合いで…、
「見たことある色…だね。」
「そりゃカロン様そっくりだものな!」
お医者様はそう言うけれど…
「カロン様って…?」
そう言った途端、この部屋の温度が極端に下がったような気がした。
ふにゃふにゃと泣く赤子をタオルに巻いて、お医者様は慌てて部屋を飛び出してしまった。
周りにいる使用人と思しき人たちは、焦る顔を隠しきれないようで。
すると急に扉が開き、あのおじいちゃんのお医者様が戻ってきたのかと思ったら…。
「あ、もう生まれたの?呼んでね、って言ったのに。…まあ、もう覚えてないんでしょうけど。
ふふ、ふふふふ、こんなに上手く行くなんて!
もう自分が誰かも分からないんじゃないですか?ねぇ、カロン様?
誰との子かも分からないでしょう?ふふ、ふふっ!
良い気味!!あっははははは!!!
……あ、子供。…なんだ、旦那様に全然似てないじゃない。要らない、こんなの。」
可愛らしい、華奢な男の子はそう言うと、懐からナイフを取り出して使用人に抱えられている僕が産んだ子に振り下ろした。
おそらく僕の記憶がないのはこの男の子のせいなのだろう。そして僕を大層憎んでいたということも理解できた。
けれど、その後の流れるような行動には、脳の処理が追いつかなくて。
気がつけば、怯えて腰が抜けた使用人と、返り血のついた男の子。
僕が産んだ子は、息の根が止まっていた。
「はぁ。次は旦那様そっくりの子を産んでよね、カロン様?…聞こえてないか。」
そう言うとそのまま彼は部屋を出ていった。
そして誰が言ったか。
「誰か!アルノー医師を!!旦那様も呼んで!!早く!!」
その声で使用人達は動き出し、この部屋にはぐったりした赤子と、怯えた使用人と、何も理解できない僕だけがいた。
「あなたは、誰ですか?」
「…私はエリオット。貴方の夫です。」
「おっと?って、なんですか?」
「貴方を心から愛している人がなるものです。」
「あなたはぼくを愛してるんですか?」
「ええ、心から。」
「どうして?」
「一目惚れでした。一目見て、貴方の全てを愛し、慈しみ、守りたいと思ったのです。」
「ふふ、ぼくはしあわせものですね。」
「……申し訳、ありません…。」
「どうしてあやまるんですか…?」
「愛した貴方を、守ることができなかったからです。愛した貴方との子を、魔の手から守ることができなかったからです。」
「……えと、ごめんなさい。わからないです。」
「………申し訳ありません…。カロン…。愛しています、ずっと…。」
「ありがとう、ございます…?エリオットさん?」
「愛しているから…愛して、いるから…。」
「エリオットさん、泣かないで…。どうしたの?どうして泣いてるの?ぼくも悲しくなってしまいます、エリオットさん。」
「カロン……、私は。私は、貴方を心から愛しているのです…。それだけは、どうか。どうか…忘れないで…。」
「ん…んと…はい。わかりました。ぼくのおっとですもんね!じゃあぼくも、あなたのおっとになります。ふふ、ぼくも愛してます。どうしてかはわからないけれど、今日あなたに初めてあってから、すきになったから。」
「………ありがとう、ありがとう…カロン…。」
「ふふ。………あったかいですね、エリオットさんの手は。」
「……ええ。これからも、ずっと温かいですからね。」
「ふふ、わかりました。」
高位貴族のエリオットは、政略結婚で同じく高位貴族の子息と結婚した。
しかし、その人物との間に子はできなかった。
そこで白羽の矢が立ったのが、エリオットの初恋であるカロン。
カロンは貴族であったものの、位が低かったために身分違いで本妻になることはできなかった。
カロンを屋敷に呼ぶことは叶い、表に出さず喜んだものの、本妻にはバレてしまい。
嫉妬に駆られた本妻は、カロンに手を出されたくなければ想いは封じろ、交わりも許さぬと決められた。
だが世継ぎは欲しいのは本妻も同じ。
だから精液だけ渡すということになった。
いつも泣きそうな顔で、夫の目の前で痴態を披露せねばならず、可哀想だと思っていた。
妊娠してしまえば暫くは本妻も手は出さないであろう、そう思っていた。
だが、蓋を開けてみれば本妻はカロン付きの使用人数名を買収し、記憶力を低下させる薬を毎日食事に混ぜており。
挙げ句出産した暁には、エリオットに似ていないということで待望の長男を殺害。
赤子の死体と、疲労困憊で意識を失ったカロンを見たエリオットは、我を忘れて本妻を殺害した。
貴族裁判にて、本妻のしたことの凶悪さで、エリオットは無罪に。そしてカロンを本妻にすることも叶った。
だが、薬の効果は抜けなかった。
1日経てばその日のことは忘れてしまう、そうなってしまったのだ。
だからエリオットは毎日カロンに告げる。
「心から愛している。」
と。
「あなたは、誰ですか?」
「私はエリオット。貴方の夫です。」
「おっと?ってなんですか?」
「貴方を心から愛している人がなるものです。」
「じゃあ僕も、貴方の夫?」
「………カロン?」
「どうしましたか?エリオットさん?」
「愛しています、カロン。貴方に会った日から、ずっと、ずっと…。一目惚れだったんです、でも…貴方に思いを告げられませんでした。…本当に、愛しているんです…。」
「僕も、ずっと愛しています。貴方にお会いした日から。」
「…やっぱり…?」
「ふふ。やっと思いが通じましたね。」
「…私の手は。温かいですか。」
「ええ、ずっと。」
受け…カロン。低位貴族。
―――――――――――――――――――――
「おめでとうございます、妊娠四カ月目ですね。」
僕はその言葉にそっと絶望した。
愛しているはずの人、でも彼は僕を愛しては居ない。別の人を愛していて、その人が子供を産めないから代わりに僕が産むだけ。
交わったことはない。けれど、彼の精液を自分で中に入れるのだ。彼の目の前で。
酷く屈辱だった。
辛かった。
心が張り裂けてしまいそうなほど悲しかった。
泣かないように必死に耐えていた僕を、彼は冷たい瞳で一瞥し、早く入れるようにと急かす。
入れ終わるところを見届けると、彼はさっさと本当の妻の元へ急ぐのだ。
僕はそこでやっと涙を零すことを許される。
冷たいシーツの上で声を殺して嗚咽をし、ひとり寂しく彼の名を呼んだ。
「旦那様、妊娠四ヶ月だそうです。」
「そうか、ご苦労。」
「はい、失礼します。」
彼の執務室から出て自室に戻ろうとすると、廊下の向かいから彼の妻がやってきた。
咄嗟に僕は顔を伏せて廊下の端に寄り、使用人のように妻が過ぎるのを待つ。
いつもは目もくれず彼の元へ急ぐのだが、今日は違ったようだった。
「ねぇ、顔を上げてくださいよ。」
落ち着きを払った声音でそう言われると、可愛らしいこの男の子には逆らえなくなる。
「…っはい…。」
「そんなに怯えないでください。貴方と僕の関係じゃないですか。
………妊娠したそうですね、おめでとうございます。僕にはできないことなので、とても羨ましい…。
ええ、本当に。憎いくらい、ね。」
「…申し訳…ありません…。」
柔らかそうな金の髪、陶器のように白く滑らかな肌、紅を引いたような赤い唇。
どこをとっても可愛らしい人ではあるが、その瞳はすべてを食らいつくすかのような獰猛な獣のソレで。
「何を謝っているんです…?僕は貴方を責めているわけではないのに。
ああ、子供が生まれそうになったらお知らせくださいね。応援しに駆けつけますから。
…ふふ、彼に似た子供が生まれると良いですね。
貴方の色は不愉快…いえ、少々変わった色味ですので。
旦那様も何故貴方を選んだのか不思議ですけれど。」
じゃあ、と穏やかに彼の部屋の方へ去る妻。
つま先が凍え、彼が見えなくなっても暫くは、そこから動けないでいた。
案外妊娠生活というものは楽なものらしい。
もともと部屋から出ない質ではあったが、今は益々出ないし、屋敷の者たちも妊婦を気遣ってか色々なことを先回りしてやってくれている。
僕はただ、この薄暗い牢屋のような部屋で、膨らんだ腹を擦りながら本を読むことしかしなくなっていた。
妊娠報告をしたあの日から、旦那様はこの部屋に近づかなくなっていた。
それが寂しいと思うものの、あの冷えた瞳をこちらに向けられないのが安心するような。
ただ、この単調すぎるとも言える生活が、ぼんやりと物事を深く考えずに済むような、そんなものに変わってきたのだ。
日がな一日本を読んではぼんやりとし、どこまで読んだか…と1ページ前から再び読む。
けれどこんな登場人物いたっけ…となって、数ページ遡る…を繰り返すのが、どことなく心地よいものになっていたのだ。
ある日、ベッドで微睡んでいるとじわじわとくる痛みに目を覚ました。
お腹でも壊したのかな…と思ってお手洗いに行こうとすると、何故かお腹が膨らんでいる。
おかしい、どうして、おかしくなってしまった?
数秒だったか数分だったか、今となっては分からないがそれほどの時間考えていると、パシャっと股の間から水が出てきて。
益々パニックになった僕は、部屋の外に向かって
「誰か!!助けて!」
そう声を出していた。
腹痛とグラグラする視界に、倒れ込むようにして水たまりができたカーペットに座り込む。
するとやってきたのは見知らぬ男の人たち。
「カロン様、今から赤子を取り出しますから安心してくださいね!」
「大丈夫ですよカロン様!」
そう口々に言われるも、カロン様って誰のこと?と一人首を傾げる。
彼らにベッドへ運ばれて、焦って走ってきたような老齢の医者がこちらへ来る。
「おお、おお!カロン様!もう大丈夫ですから!安産ですよこれは!もう頭が見えておる!!」
だから、カロン様って誰のことだ…!僕は…、
「僕、は……?っぐぅぅ…!いだ、いだぃぃ…」
自分の名前を思い出せない、なんだっけ僕の名前。思い出そうとすると、再び強烈な痛みが襲ってきて。
「そうだ!もっと力みなさい!いい調子だ!」
長く感じる時間の中、やっと下半身を支配する痛みと違和感がなくなった、そう思ったらどっと疲れが押し寄せてきたのだ。
「おお!カロン様そっくりの可愛らしい子だ!おめでとうございます、カロン様!」
取り上げられて見せてもらった、僕のお腹から出てきたという子供は、何処となく見たことがある色合いで…、
「見たことある色…だね。」
「そりゃカロン様そっくりだものな!」
お医者様はそう言うけれど…
「カロン様って…?」
そう言った途端、この部屋の温度が極端に下がったような気がした。
ふにゃふにゃと泣く赤子をタオルに巻いて、お医者様は慌てて部屋を飛び出してしまった。
周りにいる使用人と思しき人たちは、焦る顔を隠しきれないようで。
すると急に扉が開き、あのおじいちゃんのお医者様が戻ってきたのかと思ったら…。
「あ、もう生まれたの?呼んでね、って言ったのに。…まあ、もう覚えてないんでしょうけど。
ふふ、ふふふふ、こんなに上手く行くなんて!
もう自分が誰かも分からないんじゃないですか?ねぇ、カロン様?
誰との子かも分からないでしょう?ふふ、ふふっ!
良い気味!!あっははははは!!!
……あ、子供。…なんだ、旦那様に全然似てないじゃない。要らない、こんなの。」
可愛らしい、華奢な男の子はそう言うと、懐からナイフを取り出して使用人に抱えられている僕が産んだ子に振り下ろした。
おそらく僕の記憶がないのはこの男の子のせいなのだろう。そして僕を大層憎んでいたということも理解できた。
けれど、その後の流れるような行動には、脳の処理が追いつかなくて。
気がつけば、怯えて腰が抜けた使用人と、返り血のついた男の子。
僕が産んだ子は、息の根が止まっていた。
「はぁ。次は旦那様そっくりの子を産んでよね、カロン様?…聞こえてないか。」
そう言うとそのまま彼は部屋を出ていった。
そして誰が言ったか。
「誰か!アルノー医師を!!旦那様も呼んで!!早く!!」
その声で使用人達は動き出し、この部屋にはぐったりした赤子と、怯えた使用人と、何も理解できない僕だけがいた。
「あなたは、誰ですか?」
「…私はエリオット。貴方の夫です。」
「おっと?って、なんですか?」
「貴方を心から愛している人がなるものです。」
「あなたはぼくを愛してるんですか?」
「ええ、心から。」
「どうして?」
「一目惚れでした。一目見て、貴方の全てを愛し、慈しみ、守りたいと思ったのです。」
「ふふ、ぼくはしあわせものですね。」
「……申し訳、ありません…。」
「どうしてあやまるんですか…?」
「愛した貴方を、守ることができなかったからです。愛した貴方との子を、魔の手から守ることができなかったからです。」
「……えと、ごめんなさい。わからないです。」
「………申し訳ありません…。カロン…。愛しています、ずっと…。」
「ありがとう、ございます…?エリオットさん?」
「愛しているから…愛して、いるから…。」
「エリオットさん、泣かないで…。どうしたの?どうして泣いてるの?ぼくも悲しくなってしまいます、エリオットさん。」
「カロン……、私は。私は、貴方を心から愛しているのです…。それだけは、どうか。どうか…忘れないで…。」
「ん…んと…はい。わかりました。ぼくのおっとですもんね!じゃあぼくも、あなたのおっとになります。ふふ、ぼくも愛してます。どうしてかはわからないけれど、今日あなたに初めてあってから、すきになったから。」
「………ありがとう、ありがとう…カロン…。」
「ふふ。………あったかいですね、エリオットさんの手は。」
「……ええ。これからも、ずっと温かいですからね。」
「ふふ、わかりました。」
高位貴族のエリオットは、政略結婚で同じく高位貴族の子息と結婚した。
しかし、その人物との間に子はできなかった。
そこで白羽の矢が立ったのが、エリオットの初恋であるカロン。
カロンは貴族であったものの、位が低かったために身分違いで本妻になることはできなかった。
カロンを屋敷に呼ぶことは叶い、表に出さず喜んだものの、本妻にはバレてしまい。
嫉妬に駆られた本妻は、カロンに手を出されたくなければ想いは封じろ、交わりも許さぬと決められた。
だが世継ぎは欲しいのは本妻も同じ。
だから精液だけ渡すということになった。
いつも泣きそうな顔で、夫の目の前で痴態を披露せねばならず、可哀想だと思っていた。
妊娠してしまえば暫くは本妻も手は出さないであろう、そう思っていた。
だが、蓋を開けてみれば本妻はカロン付きの使用人数名を買収し、記憶力を低下させる薬を毎日食事に混ぜており。
挙げ句出産した暁には、エリオットに似ていないということで待望の長男を殺害。
赤子の死体と、疲労困憊で意識を失ったカロンを見たエリオットは、我を忘れて本妻を殺害した。
貴族裁判にて、本妻のしたことの凶悪さで、エリオットは無罪に。そしてカロンを本妻にすることも叶った。
だが、薬の効果は抜けなかった。
1日経てばその日のことは忘れてしまう、そうなってしまったのだ。
だからエリオットは毎日カロンに告げる。
「心から愛している。」
と。
「あなたは、誰ですか?」
「私はエリオット。貴方の夫です。」
「おっと?ってなんですか?」
「貴方を心から愛している人がなるものです。」
「じゃあ僕も、貴方の夫?」
「………カロン?」
「どうしましたか?エリオットさん?」
「愛しています、カロン。貴方に会った日から、ずっと、ずっと…。一目惚れだったんです、でも…貴方に思いを告げられませんでした。…本当に、愛しているんです…。」
「僕も、ずっと愛しています。貴方にお会いした日から。」
「…やっぱり…?」
「ふふ。やっと思いが通じましたね。」
「…私の手は。温かいですか。」
「ええ、ずっと。」
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