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26.フースカは不思議な。
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フースカまでは一週間程かかった。その間僕たちは侍従から持たせてもらっているカード類や、持ち運びできるテーブルゲームなどをして暇をつぶして過ごしていた。
「海だ、ミラ!海だよ!!」
王国とフースカの国境を越えると、太陽の光を反射してギラギラと輝く蒼色が見えた。
ずっと絵本で見ていた海!僕は貴族で両親はこの国の要だったから旅行というものはほとんど行ったことがない。その中でも海があるところなんて行かなかったから、とてもわくわくする!
「さすが水の都だね!」
「はっは、海でこれだけはしゃいでくれるとは、これからもっとはしゃがなくてはならんなぁ。」
王様の前だってこと忘れてはしゃいじゃった!慌てて僕とミラは口を閉じると、王様は大笑いして許してくれた。
「子供はそれくらい元気ではないとな。」
「ありがとうございます。」
それからどんどん海だけでなく川やおそらく人工の泉が見えてきたのが、あるところを越えると海しか見えなくなった。いや、建物は見えるのだ。白と水色の荘厳な雰囲気がある美しい建物。
海の上に。
「建物が海に浮かんでる!!」
「もしかしてこれも魔導具使ってるんですか?」
ミラがそう王様に尋ねると、いかにもと頷いて説明してくれた。
曰く、フースカでは昔から水の上に住居を構える民族だったそうだ。当時は魔導具は無かったが、代わりに魔石を家に埋め込み浮遊の魔法を込めていたそう。込めるための専属魔法師が昔はいたそうだが、今は魔導具があるからもういないらしい。
カタン、と馬車が揺れると今まで陸を走っていた馬車は、二股に分かれている道の片方へ進んでいく。だがその道の先は海だ。
「もしかして、この馬車も浮くんですか…?」
そう聞いた瞬間、パシャッパシャッとケルピーが水を蹴る音が聞こえた。窓の下を恐る恐る覗くと、車輪は回っておらず本当に浮遊しているようだ。
「ふふ、二人共全部初めてなんだね。確かにここまで全部水だとほとんどを魔導具に頼らないといけないし、王国ではここまでたくさんは無かったものね。」
にこにこ微笑んでネローは言うけれど、なんだか言葉の端に少し嫌なものを感じてしまった。おかしいな、いつものネローはそんな事思わないのに。
少しの違和感を抱えて、綺麗な街並みの真ん中にある一際大きく輝いている城へ入っていった。
僕とミラは友人ということもあり、同じ部屋に通された。この街の外観のように白や水色で統一されているのかと思っていると、意外にも落ち着いた色合いの部屋だった。濃い緑に薄い蒼と茶色の重厚な家具たちがあり、キラキラばかり見ていた目が休まる。
「まさか船じゃなくって馬車で海の上を走れるとは思わなかったね、ミラ!」
「ふふ、そうだね。……ふぅ…ちょっと緊張してきちゃった…」
胸を抑えてソファに座り込むミラ。その顔は喜びが溢れていて、明日会う第3王子に思いを馳せているのだろう。
「よかったね、ミラ」
「うん…ふふ、ずっとね、羨ましかったの。ルカはあんなに包容力のあってカッコいい人が運命なんでしょう?僕もいつか、って思ってたから、すごく嬉しい。ルカ、僕に協力してくれてありがとう。」
まさか羨ましいだなんて言われるとは思ってなかった僕は、鳩が豆鉄砲をくらってしまったかのように固まった。
いや、確かに誰の前でもいちゃついていた自覚はある。…ちょっとだけ。
でもそんなのが誰かに羨ましがられるなんて露ほども思ってなかった…。
「ふふふ、わかんないって顔してるね。いいの、僕がただお礼を言いたかっただけだし。」
「う、うん…。」
「ネロー、約束通り明後日だ。あのヴレーヒを俺は潰すし、お前はあのお坊ちゃんを好きにしていいぞ。」
「はい、かしこまりました兄上。」
これだから城には戻ってきたくなかったのに。
頭は良いけれど使う方向が間違っている第二王子、私の兄のヒオニ。第三王子ヴレーヒ同様、研究ばかりしているがそれは表向きで、王になるために他の王子を蹴落とす研究をしている。その蹴落とす者に私は含まれていない。なぜならこの国にいるときはこいつの魔法にかかるからだ。強制的にこいつのために働かされる傀儡になる魔法。
私は魔法耐性が低い。だからあんな非道な魔法にもすぐかかってしまう。それに気づいたヴレーヒ兄上が私を隣国に行かせてくれたけれど…。それでも一つだけ、『この国に火種を持ってくること』と命じられた。
なるべくそうなりうるものを目に入れないでおこうと思ったが…。
「どうにかして逃げてほしいな…ルカ。」
※※※※※※※※※
更新かなり遅くなってます、すみません!
現在うちで保護猫ちゃんを預かってるのですが、そちらの方で忙しくしてました。
あと頑張って書き溜めしております。最近ストーリーがマンネリ化している気がするので、頑張りたいです、はい。
「海だ、ミラ!海だよ!!」
王国とフースカの国境を越えると、太陽の光を反射してギラギラと輝く蒼色が見えた。
ずっと絵本で見ていた海!僕は貴族で両親はこの国の要だったから旅行というものはほとんど行ったことがない。その中でも海があるところなんて行かなかったから、とてもわくわくする!
「さすが水の都だね!」
「はっは、海でこれだけはしゃいでくれるとは、これからもっとはしゃがなくてはならんなぁ。」
王様の前だってこと忘れてはしゃいじゃった!慌てて僕とミラは口を閉じると、王様は大笑いして許してくれた。
「子供はそれくらい元気ではないとな。」
「ありがとうございます。」
それからどんどん海だけでなく川やおそらく人工の泉が見えてきたのが、あるところを越えると海しか見えなくなった。いや、建物は見えるのだ。白と水色の荘厳な雰囲気がある美しい建物。
海の上に。
「建物が海に浮かんでる!!」
「もしかしてこれも魔導具使ってるんですか?」
ミラがそう王様に尋ねると、いかにもと頷いて説明してくれた。
曰く、フースカでは昔から水の上に住居を構える民族だったそうだ。当時は魔導具は無かったが、代わりに魔石を家に埋め込み浮遊の魔法を込めていたそう。込めるための専属魔法師が昔はいたそうだが、今は魔導具があるからもういないらしい。
カタン、と馬車が揺れると今まで陸を走っていた馬車は、二股に分かれている道の片方へ進んでいく。だがその道の先は海だ。
「もしかして、この馬車も浮くんですか…?」
そう聞いた瞬間、パシャッパシャッとケルピーが水を蹴る音が聞こえた。窓の下を恐る恐る覗くと、車輪は回っておらず本当に浮遊しているようだ。
「ふふ、二人共全部初めてなんだね。確かにここまで全部水だとほとんどを魔導具に頼らないといけないし、王国ではここまでたくさんは無かったものね。」
にこにこ微笑んでネローは言うけれど、なんだか言葉の端に少し嫌なものを感じてしまった。おかしいな、いつものネローはそんな事思わないのに。
少しの違和感を抱えて、綺麗な街並みの真ん中にある一際大きく輝いている城へ入っていった。
僕とミラは友人ということもあり、同じ部屋に通された。この街の外観のように白や水色で統一されているのかと思っていると、意外にも落ち着いた色合いの部屋だった。濃い緑に薄い蒼と茶色の重厚な家具たちがあり、キラキラばかり見ていた目が休まる。
「まさか船じゃなくって馬車で海の上を走れるとは思わなかったね、ミラ!」
「ふふ、そうだね。……ふぅ…ちょっと緊張してきちゃった…」
胸を抑えてソファに座り込むミラ。その顔は喜びが溢れていて、明日会う第3王子に思いを馳せているのだろう。
「よかったね、ミラ」
「うん…ふふ、ずっとね、羨ましかったの。ルカはあんなに包容力のあってカッコいい人が運命なんでしょう?僕もいつか、って思ってたから、すごく嬉しい。ルカ、僕に協力してくれてありがとう。」
まさか羨ましいだなんて言われるとは思ってなかった僕は、鳩が豆鉄砲をくらってしまったかのように固まった。
いや、確かに誰の前でもいちゃついていた自覚はある。…ちょっとだけ。
でもそんなのが誰かに羨ましがられるなんて露ほども思ってなかった…。
「ふふふ、わかんないって顔してるね。いいの、僕がただお礼を言いたかっただけだし。」
「う、うん…。」
「ネロー、約束通り明後日だ。あのヴレーヒを俺は潰すし、お前はあのお坊ちゃんを好きにしていいぞ。」
「はい、かしこまりました兄上。」
これだから城には戻ってきたくなかったのに。
頭は良いけれど使う方向が間違っている第二王子、私の兄のヒオニ。第三王子ヴレーヒ同様、研究ばかりしているがそれは表向きで、王になるために他の王子を蹴落とす研究をしている。その蹴落とす者に私は含まれていない。なぜならこの国にいるときはこいつの魔法にかかるからだ。強制的にこいつのために働かされる傀儡になる魔法。
私は魔法耐性が低い。だからあんな非道な魔法にもすぐかかってしまう。それに気づいたヴレーヒ兄上が私を隣国に行かせてくれたけれど…。それでも一つだけ、『この国に火種を持ってくること』と命じられた。
なるべくそうなりうるものを目に入れないでおこうと思ったが…。
「どうにかして逃げてほしいな…ルカ。」
※※※※※※※※※
更新かなり遅くなってます、すみません!
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