あの子の花に祝福を。

ぽんた

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35.ゼインに会わせて。

 目を覚ますと、既に日は高く昇っていた。
 隣に目を向けると、誰かいるのが見えて、ゼインだ!と歓喜したのも束の間。

「お兄様…。」

「ルカ、身体はなんともないかい?怖かっただろう、もう、大丈夫だからね。」

 なにが?なにが大丈夫なの?ゼイン、どこにいるの?どうしてここにいないの?いつも側にいるゼイン、どこなの?

「ゼインは?」

「殿下は…王様たちに呼び出されてるよ。」

「いつ戻ってくるの?」

「結構長く話してるから…もうすぐかな。」

 がばりと体を起こして、寝間着のまま部屋を出ようとする。何故か、ゼインに会わなきゃという気持ちだけ膨らんでいた。

「待って!どこに行くの?」

「ゼインのところ。お兄様、離して。」

 ぎゅっと手を握られて、止められる。この手じゃない。手を繋ぎたいのは、お兄様じゃない。

「駄目だよ、暫くは殿下と会ってはダメだ。」

「離して!!離してよっ!!」

 手を振りほどこうと藻掻いていると、お兄様は口を歪めて叫んだんだ。

「駄目だと言っているのが分からないのか!!」

「ひっ…!!」

 今まで、怒鳴るお兄様なんて、見たことなかった。いつも微笑んでいて、僕が何をしても褒めてくれる。

 なのに。

 ゼインにも会えない。お兄様には怒鳴られる。

 昨日のこともあって、僕はボロボロだったんだ。

「ひぐっ……ふ、うぅっ……うわあああん」

「あっ……ルカ…ごめん、ごめん…。泣かせるつもりじゃ……。」

 数年前と違って、逞しくなったお兄様。慰めるように抱きしめてくれるけど、今そうしてほしいのはお兄様じゃなくて。

「やめてぇっ!やめてよぉっ!っ…離して!ゼ、イン……に、会わせてっ…!!わあああん」

 バタバタとお兄様の腕の中で暴れるも、お兄様はびくともしなかった。

「いやだぁっ!!ゼインっ、ゼイン~!!うわあああん」

「ごめん…ごめんなぁ…。」










 しばらくして。

 泣き止んだ僕は、静かにお兄様に話を聞いていた。

「だからね、殿下は…今、ご自分で反省なさって、部屋に謹慎しているんだ。
 ここはフースカだけど、ルカを子供のように思ってくださってる国王夫妻が昨日のことについて怒ってくれていて。
 だからフースカにいる間、レオナルド王に代わって謹慎を言い渡したんだよ。」

 そう言って、お兄様は部屋に戻るねと言ってルイスと入れ替わりで帰っていった。

 多分、部屋の外には僕が勝手にゼインに会いに行かないようにって見張りがいると思う。

「ルカ様…お食事をお持ちしましたが、食べられますか?」

「食べる…。」

 ほかほかのミルクリゾットに、温かいスープ。心を落ち着けるには、十分だった。










 一応王城を歩き回るのは許されている。護衛という監視役とルイスがそばについているけれど。

 中庭のガゼボまで歩くと、そこにはミラとヴレーヒ様がいた。僕は咄嗟に柱へ身を隠し、2人の話を盗み聞きするような形になってしまう。

「まさか…婚約破棄なんて。」

「絶対言えない…。ルカ、あれだけゼイン殿下と愛し合ってたのに。いくらゼイン殿下が悪かったとは言え、破棄までいくなんて。」

 ルイス達が、しまった!というような顔をしている。僕は思わず2人の元へ駆け出していた。

「どういうこと?!ゼインがっ、ゼインが婚約破棄なんてっ…!そんなこと、無いよね!嘘だよね!!ねぇミラ、違うって言って!!嘘だって言ってよ!!ねぇ!!!」

 2人は突然現れた僕に酷く驚いて…申し訳なさそうに目を逸らした。

「ごめん…聞こえたんだね。で、でも!本人の口から聞いたわけじゃないし!分からないよ!」

 そんなの…わかりきってるじゃないか。こんな話が出る時点で、ゼインはきっと了承してるってことだ…。

 へなへなと力をなくした体は芝生へと倒れる。ルイスが慌てて僕を抱きとめてくれたけれど、突然皆が何を言っているのか、分からなくなった。

「聞こえない…」

 という、自分の声すら。














 目の前に紙が出された。そこには、『突発性難聴』と『魔力妨害症』の文字。

 丁寧に、細かな説明が書かれている。

 原因はストレスだろうと。
 痣持ちは特に、出会ってしまった運命と長期間会えないでいると、それだけでストレスが酷くかかるらしい。
 それと、昨日の事と、今日の婚約破棄のことについて、それも大きなストレスになってしまったのだろうと。

 ちなみに、魔力妨害症とは、同じくストレスが原因のもの。文字通り魔力を出そうとすると、魔力解放管の弁が強張って上手く魔法を発動できなくなることだ。つまり、自分で治そうと思っても治せない。

 両親には既に知らせたらしい。

 国王夫妻や、イードル様、ミラ達皆がお見舞いに来てくれたけど、ゼインは来なかった。

 僕は、フースカから帰ることになった。ゼインは分からない。聞いてみたけど、何も答えてくれなかった。

 でもお兄様は残るから、ゼインも残るんだろうな。いつ、帰ってくるんだろう。いつ…会えるんだろう。

 はは、痣持ち同士は離れちゃいけないのに、離れるんだ。まあ、死なないもんね。ストレスがかかるだけで。

 ルイスが荷造りをしてくれて、あっという間にここを発つ準備が整った。

 なんだか、故郷を離れるみたいだな。変なの。

 馬車まで来ると、皆来てくれて。いや…ゼインはいなかったから、皆じゃないね。

 ミラの隣には、運命のヴレーヒ様。お似合いだ。
 お兄様が後悔してそうな表情で、僕を抱きしめた。口がパクパク動いていたけど、何を言ってるのかわかんないよ、お兄様。

 まだフラフラする体を、ルイスが支えて馬車に乗せてくれる。

 あーあ。最後までゼインに会えなかった。

 僕達、もう会えないのかなぁ。

 僕が、ゼインを突き放しちゃったから…。

 ごめん、ごめんね、ゼイン。

 景色なんて見る余裕も無く、音の聞こえない世界で有り余るほどの後悔をした。












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