あの子の花に祝福を。

ぽんた

文字の大きさ
48 / 73

38.ずっと一緒。

しおりを挟む
 とても幸せな夢を見た。

 以前より痩せてしまったゼインが、僕を抱き締める夢。
 ちょっと苦しい気がしたけれど、苦しいくらいに抱きしめてくれるのがうれしかった。

 それに、夢の中だから声も聞こえるんだよ。

「ごめんね、ごめんね…ルカ、愛してるから…消えないで…。」

 すごく具体的だし、何もゼインが謝ることなんてないのに…。でも、声が聞けるだけで幸せ。

 夢の中くらい、良いよね?
 そう思ってゼインにキスをした。













 目が覚めると、頭が痛くて、目が霞んで、息がしにくい。

 どうして…ここにいるんだろう。僕、湖にいたはずなのに。もしかして、それも夢だったのかな。

 すると、視界に待ちわびていた人の顔が見えて。

 パクパクと何か言っているみたいだったけど、ようやく会えたんだって実感して…。
 ぽろぽろ、ぽろぽろと涙が止まらなかった。

 手を握ってほしくって手を伸ばすと、直ぐにしっかりと握ってくれる。ゼインの冷えた大きな手が、とても気持ちよかった。

 見ると、ゼインも涙を流してこちらを見ている。スリ…と顔を僕の手に寄って、大切だ、愛しいんだという声が聞こえてるように口づけをしている。
 僕も彼に口づけをしたくて、握った手を引き寄せて彼の手の甲にキスをした。

 ゼインはとても驚いたような顔をして、苦しそうに微笑む。そして手のひらを僕の瞼の上に置くと、急な眠気が襲ってきた。
























 ✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
























 僕はやっぱり、湖にいたらしい。
 それでそこに落ちちゃって、ゼインが助けてくれて。
 高熱で、2日間目を覚まさなかったんだって。
 あのとき目が覚めたのは、3日目の朝。
 ゼインはずっと側にいて看病してくれたみたい。
 でもまた僕は眠ってしまって、次に起きたのが次の日の朝。

 ゼインに会えたから、難聴は治ったんじゃないかなって思ったんだけど、まだ治ってなかった。

 でも、お医者さんが伝えてくれたのは、このままゼインと一緒にいれば徐々に治るだろうって。

 それから…君達は話し合いが必要!って赤いペンで丸をつけられてた…。

 ゼインは皆にコテンパンに怒られたらしい。ルイスにも怒られたし、お兄様は怒らなかったみたいだけど、父様と母様、それからこの騒動はお祖母様達にも伝わっていたみたいで…。

 公爵家に、両祖父母が乗り込んできた。

「「この馬鹿孫がああああ」」

 前王妃と前王がまずゼインを正座させて怒鳴り…、

「「可愛い孫を泣かすやつに孫を任せられるかアアア」」

 目を三角にした母方のお祖母様達がお説教したそう。

 隣で前王のお祖父様にムギュムギュ抱っこされている僕は、久しぶりにお祖父様達に会えて嬉しくて、そんな惨状は知らなかったよ…。

 ちなみに、父様そっくりな前王は、ジョン様。ムキムキマッチョの王妃様はライオネル様。

 母方の銀髪お祖父様は、チャールズ様。ピンクゴールドの髪のお祖母様は、パーシー様。

 叱られ終わった時のゼイン…屍みたいだった…。

 それから、ゼインは今まで離れていた分を取り戻すように、ずっと僕と一緒にいる。
 学園は体調不良ということで、暫く休めるらしい。
 だからずっと一緒。
 お手洗い以外は全部一緒に過ごしてるんだ。もちろん、湯浴みも、寝るときもね。

 何も聞こえないけれど、ずっと一緒にいられるのは…本当に、幸せ。

















 ある日、ふと真夜中に尿意で目が覚めた。今日もいつも通りゼインにがっしりと抱き締められながら寝ていた僕は、彼の腕を剥がそうと藻掻いていた。

 どうしよう…力が強すぎて、外れない……!

「うう……ぜ、いん…はじゅし…て…」

 あ、そうか…暫く声聞こえてなかったし、出してもなかったから、言葉がちょっと変になってるんだな……

 えっ?

 声が、聞こえる…?

「ぜっぜいん…!!おきぃてぇ!」

 声が!!

 ゆさゆさと揺らしていると、パチリと目を覚ましたゼイン。僕の剣幕に、

「どうしたのっ!何かあった?!」

 久しぶりに聞こえるゼインの声。ずっと、聞きたかった…。

「きっ……きこえ、るぅ、の…!!ぜ、いんの!こえっ…!きこえぅ…!!」

 ぼろぼろ涙を零してばかりいる僕。最近は泣いてばかりだ。

「ほんとに…?」

「ん…」

 彼は、僕を壊れ物のように優しく抱いて、声を出しながら泣いていた。

「よかった……っ…!よかっ……た……!」

 それから2人で抱き合って号泣して。

 少し落ち着いてから、収まっていた尿意が再びぶり返してきた。

「あっ…あの、おたらい…いきたい…」

「うん、わかった。じゃあ暗いから途中までついていくね。」

「ん……」

 尿意から解放されてベッドまで戻ると、再び抱き締められながら頬にキスを受けて眠る。

 今までで、一番幸せな夜だった。












しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

僕、天使に転生したようです!

神代天音
BL
 トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。  天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

処理中です...