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おはぎのご縁
今日の日差しは柔らかく暖かい。陽気に呼応して桜の木が一斉に芽吹いた。
今年は例年より開花が遅かったが、あっという間に校内の桜は満開だ。あちらこちらで春の気配が感じられ、美里は昼ご飯を外で食べることにした。
ベンチは花見を楽しむ生徒たちに占領されていたため、美里は花壇の縁を椅子代わりに腰掛けた。
家から持ってきた手作りのサンドイッチを咀嚼しながら、木々の間から覗く青空を仰ぐ。
オリエンテーションも半ばを過ぎ、そろそろ履修登録を検討しなければならない。美里は授業時間を確定させてからアルバイトも探したいと思っている。
『うーーーーん、考えることは山積みだ』
悩んでいた美里の顔へ木漏れ日が落ちる。光が踊っているようだった。
不意に美里は今朝のことを思い出した。
『そうだ、小豆畑さんに貰ったの、何だったんだろう?』
鞄の中から紫の風呂敷包みを取り出し、膝の上へ乗せた。丁寧に結び目を解き、中身を確認する。
風呂敷にはプラスチックの容器が包まれていた。
蓋を恭しく開けると、艶々とした粒あんのおはぎが三つ可愛らしく鎮座している。忖度抜きにお店で並んでいても不思議でないほど見事な出来栄えだ。
ヒラヒラと花びらが舞い降りて、真ん中のおはぎの上へと落ちた。思わず美里は微笑む。
「美味しそうだね?」
木々から漏れる日差しを影が遮る。
美里は声の方向へ視線を向けた。逆光で顔が見えなかったが、頭の輪郭を縁どる線がうっすらと金色に輝いている。
「一つ、貰ってもいい?」
突然、膝上へと手が伸びる。おはぎに届く手前で、もう一人の声が制止した。
「おやめなさい!」
ベシッ!
大きな音とともに、美里のおはぎを盗ろうとしていた手が叩かれる。
「ごめんなさいね。この子、野生児で」
「何だよっ!野生児って!」
「初対面の方ですのよ。突然、お食事をかすめ取ろうとするなんて、失礼極まりないでしょう?」
「むっ、美味しそうで…。美味しそうなのが悪いんだ!」
「はぁ……。そういうところですわ」
二人の漫才のようなやり取りに美里は目を瞬かせると、ようやく、影になっていたその表情を窺い知ることができた。
「あのぉ……」
美里が控えめに呼びかけると、二人は同時に振り返った。
おはぎに手を伸ばした不届き者は、ショートカットの金髪がよく似合っている大きな瞳が印象的な溌剌とした少女、パンクなTシャツに破れたジーンズの隙間から膝小僧が覗くロックな格好だ。
叱責していたのは、肩の位置で真っ直ぐに切り揃えた黒髪で凛とした立ち姿の大人っぽい女学生、白のブラウスに紺のプリーツスカートという清楚な装いをしている。
美里はおずおずとおはぎを差し出した。
「いただきものですけど、丁度、三つあるんでご一緒にいかがですか?」
「マジで?ありがとう!」
少年のような短い髪は金色に煌めいて眩しい。彼女は遠慮なしに豪快な笑顔で答える。
「私も?ご迷惑ではございませんか?」
はらりと黒い毛先が春風に揺れた。申し訳そうに眉毛を八の字に曲げる彼女は、憂い顔さえ美しかった。
「これもご縁ということで、どうでしょう?」
美里はぎこちなく笑った。少し頬も引きつっている。
小中高とずっと地元だった美里は同級生も幼馴染が多かったから、自分が人見知りだという自覚がなかった。
「では、ちょうだいいたしますね…」
清楚系女子が答えた瞬間、ロック系女子はおはぎを頬張った。
「ハグハグッ…。そう言えば…。ハグ…。自己…。ゴックン…。紹介してなかったね?ってか、これ!うまっ!」
「そうでしたわね、私は安藤のどかと申します。こちらの無粋な学生は伊藤咲ですわ。では、私も」
のどかと名乗った女性は慎ましい仕草でおはぎをそっと指でつまみ口へ運ぶ。
「まぁ、染みこむような仄かな甘みが上品ですこと!素晴らしいわ!」
「私は春山美里です。いただきます!」
美里はそれぞれ違ったタイプの美少女二人に囲まれて、緊張しながら一口食べた。
「美味しい!」
美里は口の中で広がる甘味に魅了された。張り詰めていた心が解きほぐされていくような感覚で満たされる。
「「「ねっ!」」」
3人は満面の笑みを浮かべた。
そこから会話が弾み、咲は埼玉から、のどかは千葉から大学に通っているのだと話した。
「二人とも関東出身なんですね。やっぱり都会の人はみんな素敵です!」
「「……」」
二人は言葉に詰まる。
関東とはいえ、東京に比べれば、埼玉や千葉は都会と呼ぶのは少し憚れる。けれど、美里から都会の人は素敵だと言われ、二人は素直に嬉しかった。
「ねぇ?美里さぁ、私、お持ち帰りしても良い?可愛い!」
咲は大袈裟に両手を広げて、ギュッと美里を抱きしめる。
「下品な冗談はおやめなさい!」
「えぇ!冗談じゃないよ!だって、こんなに可愛いんだよ!」
「ふぇ?」
容姿に自信がない美里は、咲に褒められて戸惑いを隠せない。
「えぇ、私も美里さんは可愛らしい方だと思いますわ」
のどかも美里の腕の隙間にそっと手を差し込んだ。
そして、美里は庄太郎から貰ったおはぎの縁で友達を作ることができたのだった。
今年は例年より開花が遅かったが、あっという間に校内の桜は満開だ。あちらこちらで春の気配が感じられ、美里は昼ご飯を外で食べることにした。
ベンチは花見を楽しむ生徒たちに占領されていたため、美里は花壇の縁を椅子代わりに腰掛けた。
家から持ってきた手作りのサンドイッチを咀嚼しながら、木々の間から覗く青空を仰ぐ。
オリエンテーションも半ばを過ぎ、そろそろ履修登録を検討しなければならない。美里は授業時間を確定させてからアルバイトも探したいと思っている。
『うーーーーん、考えることは山積みだ』
悩んでいた美里の顔へ木漏れ日が落ちる。光が踊っているようだった。
不意に美里は今朝のことを思い出した。
『そうだ、小豆畑さんに貰ったの、何だったんだろう?』
鞄の中から紫の風呂敷包みを取り出し、膝の上へ乗せた。丁寧に結び目を解き、中身を確認する。
風呂敷にはプラスチックの容器が包まれていた。
蓋を恭しく開けると、艶々とした粒あんのおはぎが三つ可愛らしく鎮座している。忖度抜きにお店で並んでいても不思議でないほど見事な出来栄えだ。
ヒラヒラと花びらが舞い降りて、真ん中のおはぎの上へと落ちた。思わず美里は微笑む。
「美味しそうだね?」
木々から漏れる日差しを影が遮る。
美里は声の方向へ視線を向けた。逆光で顔が見えなかったが、頭の輪郭を縁どる線がうっすらと金色に輝いている。
「一つ、貰ってもいい?」
突然、膝上へと手が伸びる。おはぎに届く手前で、もう一人の声が制止した。
「おやめなさい!」
ベシッ!
大きな音とともに、美里のおはぎを盗ろうとしていた手が叩かれる。
「ごめんなさいね。この子、野生児で」
「何だよっ!野生児って!」
「初対面の方ですのよ。突然、お食事をかすめ取ろうとするなんて、失礼極まりないでしょう?」
「むっ、美味しそうで…。美味しそうなのが悪いんだ!」
「はぁ……。そういうところですわ」
二人の漫才のようなやり取りに美里は目を瞬かせると、ようやく、影になっていたその表情を窺い知ることができた。
「あのぉ……」
美里が控えめに呼びかけると、二人は同時に振り返った。
おはぎに手を伸ばした不届き者は、ショートカットの金髪がよく似合っている大きな瞳が印象的な溌剌とした少女、パンクなTシャツに破れたジーンズの隙間から膝小僧が覗くロックな格好だ。
叱責していたのは、肩の位置で真っ直ぐに切り揃えた黒髪で凛とした立ち姿の大人っぽい女学生、白のブラウスに紺のプリーツスカートという清楚な装いをしている。
美里はおずおずとおはぎを差し出した。
「いただきものですけど、丁度、三つあるんでご一緒にいかがですか?」
「マジで?ありがとう!」
少年のような短い髪は金色に煌めいて眩しい。彼女は遠慮なしに豪快な笑顔で答える。
「私も?ご迷惑ではございませんか?」
はらりと黒い毛先が春風に揺れた。申し訳そうに眉毛を八の字に曲げる彼女は、憂い顔さえ美しかった。
「これもご縁ということで、どうでしょう?」
美里はぎこちなく笑った。少し頬も引きつっている。
小中高とずっと地元だった美里は同級生も幼馴染が多かったから、自分が人見知りだという自覚がなかった。
「では、ちょうだいいたしますね…」
清楚系女子が答えた瞬間、ロック系女子はおはぎを頬張った。
「ハグハグッ…。そう言えば…。ハグ…。自己…。ゴックン…。紹介してなかったね?ってか、これ!うまっ!」
「そうでしたわね、私は安藤のどかと申します。こちらの無粋な学生は伊藤咲ですわ。では、私も」
のどかと名乗った女性は慎ましい仕草でおはぎをそっと指でつまみ口へ運ぶ。
「まぁ、染みこむような仄かな甘みが上品ですこと!素晴らしいわ!」
「私は春山美里です。いただきます!」
美里はそれぞれ違ったタイプの美少女二人に囲まれて、緊張しながら一口食べた。
「美味しい!」
美里は口の中で広がる甘味に魅了された。張り詰めていた心が解きほぐされていくような感覚で満たされる。
「「「ねっ!」」」
3人は満面の笑みを浮かべた。
そこから会話が弾み、咲は埼玉から、のどかは千葉から大学に通っているのだと話した。
「二人とも関東出身なんですね。やっぱり都会の人はみんな素敵です!」
「「……」」
二人は言葉に詰まる。
関東とはいえ、東京に比べれば、埼玉や千葉は都会と呼ぶのは少し憚れる。けれど、美里から都会の人は素敵だと言われ、二人は素直に嬉しかった。
「ねぇ?美里さぁ、私、お持ち帰りしても良い?可愛い!」
咲は大袈裟に両手を広げて、ギュッと美里を抱きしめる。
「下品な冗談はおやめなさい!」
「えぇ!冗談じゃないよ!だって、こんなに可愛いんだよ!」
「ふぇ?」
容姿に自信がない美里は、咲に褒められて戸惑いを隠せない。
「えぇ、私も美里さんは可愛らしい方だと思いますわ」
のどかも美里の腕の隙間にそっと手を差し込んだ。
そして、美里は庄太郎から貰ったおはぎの縁で友達を作ることができたのだった。
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