神から最強の武器をもらったのに無双出来ないんですが!

半袖高太郎

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プロローグ

クエスト:野党討伐1

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 そしてクレイスの寝覚めは最悪なまま、最悪な事態は重なった。

「眠りこけおって、間抜け勇者が」

神片ゴース準備出来たっ! いつでもいけるよ!」

「クレイスさん、お目覚め早々申し訳ございませんが……窮地です」

 荒地で野宿という攻め込まれやすい場所で夜を明かしたこともあり、周りは野盗に囲まれてしまっていた。

「そのバカデケェ剣……金になりそうじゃねぇか」

「女も上物だぜぇ~」

下卑た笑い声に囲まれながら、クレイスは深く息を吸った。

運が悪いのは間違いないが、夢の苛立ちをぶつけられる相手がいるのは幸運だと、思考を切り替える。

「出会ったなら戦うしかない。それが勇者の運命……いや、呪いだ」

 傍に置いていた大剣を持ち上げる。

百七十五センチ程度のクレイスをゆうに越える大剣は二メートルを超えているかというほどであった。

分厚い刀身が破壊力を物語り、野盗たちの幾人かが怯む。



『開始・野盗討伐』



 透き通った声音と脳裏に浮かぶ行事イベントの宣誓。

これで避けられない運命になった、そう思いながらクレイスは一気に勝負を決めようと大剣を中段に構える。

「あのガキ……なんて力だ……」

「こけおどしだ! かかれ! かかれ!」

重装歩兵のようにじりじりと近づき、逃げ場すらも奪い去る野盗たち。

いくら剣を振り回しても一撃で全員は倒せないと踏んでの戦法だ。

「パニーナ」

 小柄な少女はカバンを背負い、逃げる準備を進めている。

ひとえに勇者であるクレイスの勝利を信じているからだ。

いそいそと用意する姿は翌日の遠出の準備をする少女のように思える。

くりっとした大きな目を向けながら、パニーナは二の句を待っていた。

「このくらいは脅威でも何でもない。訂正してくれ」

「パニーナ・エルメェス、不覚でございました。では、お願いします」

ペコリとお辞儀をするパニーナを小脇に抱える少女は面倒そうに杖へ緑色に輝く欠片を組み込んだ。

「ここは借りってことにしてあげるねっ!」

「返してくれた試しはないだろ? キリル?」

「前衛は後衛を必死で守るもの! じゃあ一旦よろしく!」

「この程度に苦戦してくれるなよ?」

「わかってるよロイケン爺」

仙人のように伸ばされた顎髭を触りながら、キリルの肩に手をかける。

左右へと二つ結びになっている明るい桃色の髪がふわりと広がった。

風が合図を鳴らし、キリルの足元から小さな竜巻が起こす。

包囲陣の外側へと空中散歩で悠々と戦線を離脱する。

「時間稼ぎか? 神片ゴースを持ってるなら、あいつらも逃すわけにはいかねぇなぁ!」

「勘違いはやめてよ?」

 その声は野盗の耳元で囁かれた。

「なっ!?」

 一閃。

巨大な剣を軽々と用いた踏み込み切りで包囲陣の南側は簡単に崩れる。

野盗の首領は高速で交差する瞬間に放たれた言葉に慄きながら遅れて振り返った。

「キリル達を巻き添えにするわけにはいかないだろ?」

剣を地面へと突き立て、勢いを殺すクレイス。

ゆっくりと剣を引き抜き、悠然と両手で構え直した。

決して筋骨隆々というわけでもない少年が重鈍そうな大剣が振れるのかという疑問に全員が震える。

「夢見は最悪だし、鬱陶しい神様の呪いが発動しちゃうし……朝から幸先悪いなぁ」

 文句の音源が高速で移動していく。

野盗よりも速く動くクレイスは巧みに一対一の状況を作り上げ、斬撃というよりも重撃に近い全てを押し潰す一撃で、戦線を崩壊させた。

「か、この数で囲え! おら、行けぇ!」

一人に剣を振るった隙を狙って数人が飛びかかってくるが、つば迫り合いにすらならなかった。

クレイスが身体を捻るだけで重い一太刀が勢いよく敵を吹き飛ばす。

そこには何の技量もないが、勇者のたゆまぬ鍛錬がその一撃を放つことを許していた。

「あと二十人くらい? まとめてかかってきてくれた方が楽なんだけど?」

「ナメるなクソガキィ!」

「そもそも僕を止めるなら桁が一つ足りないって」

焦った野盗たちは全方位から飛び掛かる。

クレイスはその野盗の一人へと全力で剣を振った。大剣の側面がめり込み、全身の骨が砕ける音が響く。

「ぐぎゃあっ!?」

「おっらあぁぁぁぁぁ!」

そのまま飛びかかってくる全員に重なるように剣を振り抜き、野盗達は空中でどんどん折り重なって一つの巨大な塊と化した。

勇者の腕に力がこもり、青筋が浮かぶ。

「これに懲りたら真っ当に働くんだね!」

「う、嘘だろぉぉぉぉ!?」

振り抜いた剣の作り出す衝撃により、野盗達は跳躍して後方に下がったキリル達より遠くへ飛ばされていく。

どこかしらの骨が砕けて追撃することはままならないだろう。

塊からこぼれ落ちた数人も、クレイスの近くで完全に戦意を喪失していた。
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