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第八章 ベジカフェ参入
カフェのオーナー
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会計を済ませた俺たちは、少し緊張しながらオーナーへの取次をお願いした。
毎週のように通ってはいたが、オーナーと会うのは初めてで緊張する。
うまく話ができればいいのだが。
なんというか、陛下に赤病の治療薬について訴えた時はとにかく夢中だった。
今回はなんというかファン心理のようなものが働いてしまいその時よりもドキドキしている。
思わず隣に立つシルの服の裾を無意識にぎゅっと握ってしまった。
シルがその手を優しくポンポンと叩いてくれる。
「大丈夫だ。ミルの気持ちをそのまま伝えればいい。俺たちはずっとそうやってきただろう?
MS商会は、ミルが気持ちをそのまま伝えることで縁をつないできた。
アルも、マージェス公爵も、オルフェも。アレックスだって。俺やみんなを信じろ」
すう、と深呼吸をひとつ。
そうだ。俺にできるのはありのあまの気持ちを伝えることだけ。
そんな俺についてきたみんなを信じよう。
「……よし、入るぞ」
コンコン。
「……先ほどオーナーへの取次をお願いいたしましたMS商会のミルリース・メディソンと申します。
入ってもよろしいでしょうか?」
コッコッコッと足音が聞こえ「どうぞ」と中から扉が開かれた。
そこに立っていたのは肩までの金髪を後ろで一つにくくった20代後半くらいの細身の男性だ。
穏やかそうな優し気な風貌は人に警戒心を抱かせない。
なんとなく彼の作るデザートに似ていると思った。
このカフェのケーキは食べてのことをよく考えている。
ガツンと甘いものが欲しい人向けのもの、さっぱりと楽しみたい人向けのもの。様々な要望を満たすよう考えつくされているのだ。
それぞれの素材の味を活かした絶妙な甘味と酸味のバランスからも、作り手の誠実な人柄が伝わってくる。
この人か、ととてもしっくりきた。
思わず「ああ、あなたでしたか」と言ってしまった。
キョトン、と目を瞬かせる彼に慌てて言い訳する。
「あの優しいデザートを作っているのはあなただったのだなあ、と。とてもしっくりきたのものですから。ぶしつけなことを申しました。すみません」
いきなりなんてことを言ってしまったのだ!
焦るあまりまた余計なことを言ってしまう。
「あなたのケーキが好きです!ファンなのです!あなたのデザートは心まで楽しくさせてくれる。温めてくれる。
ああ、そうじゃなく……あの、あの!ウチと提携していただけないだろうか!!」
あああああ!!勝手に口が滑ってしまった。
頭の中がパニックだ。背中を嫌な汗がつたう。
挨拶などをすませ前置きをしてから話始めるつもりだったのに!!
あわあわする俺をシルがフォローしてくれた。
「突然申し訳ございません。彼も私もあなたのケーキの大ファンでして。あなたにお会いできた嬉しさに我を忘れてしまったようです。お話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
ドキドキしながらオーナーに視線をやれば、彼はまるで花が開くかのようにふわりと優しく微笑んだ。
「ええ。喜んでお話を伺いましょう。
こんなに手放しで褒められたのは初めてです。ありがとうございます」
どうぞ、と通された室内は、バックヤートではなくオーナーの事務室のようだった。
事務仕事用の机と椅子が部屋の奥にあり、パティシエらしく椅子にエプロンが半分に折ってかけられている。
部屋の入口にソファセットがあり、そこに座るよう勧められた。
「で、提携とはどういうことでしょうか?」
いきなり断られはしないようだ。良かった。
俺は改めて自己紹介から始めることにした。
「突然のことにもかかわらずお時間を頂きありがとうございます。
改めてご挨拶申し上げます。私はMS商会のミルリース・メディソン。彼は共同経営者のシリウス・ブレイン。
この度、『マージの店』のアルフレッド・マージェスと共同でAMS商会を立ち上げ、野菜中心としたヘルシーな料理とデザートの店『ベジカフェ』をオープンすることに致しました。
味が濃厚でとても美味しい野菜が手に入ったことがきっかけです。この野菜でなら野菜本来の味を活かした健康的な料理が作れるのではないかと思ったのです。
そこで、野菜を使ったデザートを提供したいのです。例えばカボチャのプリン、パウンドケーキ、キャロットケーキといったような……。そのメニュー開発とケーキをこちらに依頼できればと思いまして。
私はこちらのケーキの大ファンなのです。特にフルーツを使ったケーキは絶品です!素材の味を最大限に活かした組み合わせやクリームの配合。酸味と甘みの絶妙なバランス!
なんというか……食べる人や素材に対する愛を感じます。
ベジカフェの野菜は特別な野菜なのです。信頼できる野菜のプロが愛情をもって大切に育てたものを直接取り寄せて使用します。
こちらのカフェのパティシエさんならば素材を活かしたデザートを作って頂けると思い、こうして押しかけてまいりました。
単なるデザートではなく愛情をもったデザートを提供したいのです。どうかご協力願えませんでしょうか?」
毎週のように通ってはいたが、オーナーと会うのは初めてで緊張する。
うまく話ができればいいのだが。
なんというか、陛下に赤病の治療薬について訴えた時はとにかく夢中だった。
今回はなんというかファン心理のようなものが働いてしまいその時よりもドキドキしている。
思わず隣に立つシルの服の裾を無意識にぎゅっと握ってしまった。
シルがその手を優しくポンポンと叩いてくれる。
「大丈夫だ。ミルの気持ちをそのまま伝えればいい。俺たちはずっとそうやってきただろう?
MS商会は、ミルが気持ちをそのまま伝えることで縁をつないできた。
アルも、マージェス公爵も、オルフェも。アレックスだって。俺やみんなを信じろ」
すう、と深呼吸をひとつ。
そうだ。俺にできるのはありのあまの気持ちを伝えることだけ。
そんな俺についてきたみんなを信じよう。
「……よし、入るぞ」
コンコン。
「……先ほどオーナーへの取次をお願いいたしましたMS商会のミルリース・メディソンと申します。
入ってもよろしいでしょうか?」
コッコッコッと足音が聞こえ「どうぞ」と中から扉が開かれた。
そこに立っていたのは肩までの金髪を後ろで一つにくくった20代後半くらいの細身の男性だ。
穏やかそうな優し気な風貌は人に警戒心を抱かせない。
なんとなく彼の作るデザートに似ていると思った。
このカフェのケーキは食べてのことをよく考えている。
ガツンと甘いものが欲しい人向けのもの、さっぱりと楽しみたい人向けのもの。様々な要望を満たすよう考えつくされているのだ。
それぞれの素材の味を活かした絶妙な甘味と酸味のバランスからも、作り手の誠実な人柄が伝わってくる。
この人か、ととてもしっくりきた。
思わず「ああ、あなたでしたか」と言ってしまった。
キョトン、と目を瞬かせる彼に慌てて言い訳する。
「あの優しいデザートを作っているのはあなただったのだなあ、と。とてもしっくりきたのものですから。ぶしつけなことを申しました。すみません」
いきなりなんてことを言ってしまったのだ!
焦るあまりまた余計なことを言ってしまう。
「あなたのケーキが好きです!ファンなのです!あなたのデザートは心まで楽しくさせてくれる。温めてくれる。
ああ、そうじゃなく……あの、あの!ウチと提携していただけないだろうか!!」
あああああ!!勝手に口が滑ってしまった。
頭の中がパニックだ。背中を嫌な汗がつたう。
挨拶などをすませ前置きをしてから話始めるつもりだったのに!!
あわあわする俺をシルがフォローしてくれた。
「突然申し訳ございません。彼も私もあなたのケーキの大ファンでして。あなたにお会いできた嬉しさに我を忘れてしまったようです。お話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
ドキドキしながらオーナーに視線をやれば、彼はまるで花が開くかのようにふわりと優しく微笑んだ。
「ええ。喜んでお話を伺いましょう。
こんなに手放しで褒められたのは初めてです。ありがとうございます」
どうぞ、と通された室内は、バックヤートではなくオーナーの事務室のようだった。
事務仕事用の机と椅子が部屋の奥にあり、パティシエらしく椅子にエプロンが半分に折ってかけられている。
部屋の入口にソファセットがあり、そこに座るよう勧められた。
「で、提携とはどういうことでしょうか?」
いきなり断られはしないようだ。良かった。
俺は改めて自己紹介から始めることにした。
「突然のことにもかかわらずお時間を頂きありがとうございます。
改めてご挨拶申し上げます。私はMS商会のミルリース・メディソン。彼は共同経営者のシリウス・ブレイン。
この度、『マージの店』のアルフレッド・マージェスと共同でAMS商会を立ち上げ、野菜中心としたヘルシーな料理とデザートの店『ベジカフェ』をオープンすることに致しました。
味が濃厚でとても美味しい野菜が手に入ったことがきっかけです。この野菜でなら野菜本来の味を活かした健康的な料理が作れるのではないかと思ったのです。
そこで、野菜を使ったデザートを提供したいのです。例えばカボチャのプリン、パウンドケーキ、キャロットケーキといったような……。そのメニュー開発とケーキをこちらに依頼できればと思いまして。
私はこちらのケーキの大ファンなのです。特にフルーツを使ったケーキは絶品です!素材の味を最大限に活かした組み合わせやクリームの配合。酸味と甘みの絶妙なバランス!
なんというか……食べる人や素材に対する愛を感じます。
ベジカフェの野菜は特別な野菜なのです。信頼できる野菜のプロが愛情をもって大切に育てたものを直接取り寄せて使用します。
こちらのカフェのパティシエさんならば素材を活かしたデザートを作って頂けると思い、こうして押しかけてまいりました。
単なるデザートではなく愛情をもったデザートを提供したいのです。どうかご協力願えませんでしょうか?」
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